飛行船の内部で・・・
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特殊技術で開発され、航空機の歴史を変えた小型飛行船“ジェリーフィッシュ”。
その発明者である、ファイファー教授たち技術開発メンバー6人は、
新型ジェリーフィッシュの長距離航行性能の最終確認試験に臨んでいた。
ところがその最中に、メンバーの1人が変死。
さらに、試験機が雪山に不時着してしまう。
脱出不可能という状況下、次々と犠牲者が…。
第26回鮎川哲也賞受賞作。
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第26回鮎川哲也賞受賞作(2016年)ということで、手に取りました。
「21世紀の『そして誰もいなくなった』登場!」という触れ込みの、本格ミステリ。
飛行船“ジェリーフィッシュ”の新型機航行試験中に起きた殺人事件。
誰も出入りできない閉鎖空間で乗員6人全員が死亡。
どの遺体を調べても自殺という状況は考えられない。
つまり他殺。
しかしそれならばこの6人を殺害した“7人目”は一体どこに?という謎を追います。
この謎を解こうとするのは、無駄に美人のマリア・ソールズベリー警部と、
沈着冷静な九条漣刑事コンビ。
マリアはあまり知的なタイプではないのですが、
ある種、野生の勘とでもいうかひらめきが鋭い。
そして彼女を頭脳明晰な漣が補助。
先頃流行った「お嬢様と執事」の関係に似ています。
だからこの二人の会話がすこぶる楽しい。
著者は東大卒。
だからというわけではないかもしれないけれど、本作には科学的描写がたっぷり。
例えばここに登場する飛行船、水素やヘリウムなどというガスを使っていない。
巨大な風船の中身は、真空なのです。
真空、すなわち重さがないわけだから、確かに空気中では浮きます。
ただし実際問題、真空状態のものは回りの大気圧に押されて大抵はペシャンコになってしまう。
その形態を保とうとすれば、金属など強固な素材でなければなりません。
でもそうすると、その重量で空中に浮くことはできない。
・・・なるほどー。
それで本作中では真空状態を保つ強度があって、しかも軽い強化物質が開発された、
ということが前提となっています。
その開発こそが、此度の殺人事件のもととなっているのでした。
理数系苦手の私でも、なんとかその辺はついて行けましたので、
同様の方でも大丈夫です。
実際の飛行船内と、山中で燃え尽きた飛行船内の殺人事件の捜査に当たるマリアと漣、
二つのシーンを交互に描きながらも、クライマックスへ上り詰めていく、
この筆力も申し分なし。
この物語の舞台は1983年、とされているのですが、
それはおそらくようやく世間で初期のコンピューターが導入され始めた頃
・・・という縛りを置きたかったのでしょう。
過去の物語だけれど、今も実現しない革新技術、
という空想性も面白いと思いました。
ちなみに、ジェリーフィッシュとはクラゲのことですね。
ゆったりと空をたゆたう飛行船をクラゲに例えているのです。
こんな船の旅を、私も憧れているのですが、本作のような技術はやはり夢物語か・・・。
<図書館蔵書にて>
「ジェリーフィッシュは凍らない」市川憂人 東京創元社
満足度★★★★☆