聞こえないことは不幸か?
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ドラマーのルーベンは、恋人のルーと共にヘビメタのロックバンドを組み、
トレーラーハウスでアメリカ各地を巡りながら、
ライブに明け暮れる生活をしていました。
そんなある日、ルーベンの耳がほとんど聞こえなくなってしまいます。
医師からは回復の見込みはないといわれます。
すっかり自暴自棄になってしまったルーベンですが、
ルーの勧めでろう者の支援コミュニティに入ることに。
こんなところにいてもどうにもならないと思うルーベンでしたが、
次第に手話を覚え、人々や子どもたちとも親しくなり、
この場の生活になじんでいきますが・・・。
私たちは本作を通じて、ルーベンの、
ある日急に音がくぐもったようで聞こえにくくなって行く状況を追体験します。
人の話し声はもちろん、ささやかな日常の音
―スムージーを作るミキサーの音やコーヒーの落ちる音、柔らかなレコードの響き・・・、
すべてが消え去ってしまう。
ミュージシャンにとっては死活問題でもあります。
恋人とも離ればなれ。
しばらくは外部と連絡を取ることも禁止されています。
すっかり施設の生活になじみ、回りからも頼りにされるようになっていくルーベンは、
それでもなお、恋人ルーとともにツアーを組みたいという望みを捨てきれません。
このコミュニティの世話役が
「私たちは聞こえないことは障害ではないと思っている」
と話します。
それは以前読んだ「デフ・ヴォイス」の中の、
「障害(聞こえないこと)は直さなければならないものなのだろうか」
という問いかけにも似ています。
聞こえないことは、不便ではあるけれど、不幸ではない
という思いをまた、新たにしました。
同じ夢をつなぐことはもうできないかもしれないけれど、
そこにはきっと新たな出会いや生きがいがある。
そう信じられる作品。
<Amazon prime videoにて>
「サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ~」
2019年/アメリカ/120分
監督:ダリウス・マーダー
出演:リズ・アーメッド、オリビア・クック、ポール・レイシー、ローレン・リドロフ、マチュー・アマルリック
満足度★★★★☆