映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

楽園

2021年04月16日 | 映画(ら行)

楽園はどこにある?

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本作は、宮部みゆきさん原作の「楽園」かと思っていて、見逃していました。
(その原作に、あまりピンと来ていなかった・・・)
これは、そうではなくて、吉田修一さん原作の「楽園」でした。
となると、多分全く「楽園」ではない話なのだろうと想像は付きますが。

学校帰り、田んぼの中を行く道のY字路で別れた2人の少女。
その片方の少女が、その後行方不明になってしまいます。
直前まで一緒にいた紡(つむぎ)は、
行方不明になったのがなぜ自分ではなく、その少女だったのか・・・と、
罪の意識を抱き、心に深い傷を負ってしまいます。

それから12年後。
再び少女が行方不明となり、
町営住宅に住む孤独な男・豪士(綾野剛)が、犯人として疑われます。
豪士は最近紡(杉咲花)とわずかに心を通わせるようになっていたのですが・・・。
殺気だった町の人に追われて、豪士は思わず逃げ出し、
近くのそば屋に駆け込みますが・・・。

そしてそれからまた1年後。
限界集落で愛犬家と暮らす養蜂家の善次郎(佐藤浩市)は、
村おこし事業を巡る話のこじれから、村八分にされ・・・。

豪士は、幼い頃に母親に連れられて中国から日本に来たのです。
日本でもいろいろなところを転々としたけれど、
言葉がよく通じないこともあって、どこへ行っても差別され蔑まれる。
この世に「楽園」なんてどこにもないと、彼は思う。

 

一方善次郎は、都会生活に疲れて、故郷であるこの村にUターンしてきたのです。
始めはいい顔をしていた村人が、あるときからすっかり態度を変えてしまう。
何もかもから孤立。
楽園を夢見てきたはずのこの地も楽園ではなかった・・・。

少しでも異質なものを差別し、攻撃せずにいられないという、コミュニティの残酷さ。
この集団社会は、誰かを孤立させることで結束を保っているようでもある。
これは都会でも田舎でも何も変わらない、ということなんですね。

なんとも生きにくい世の中だ・・・。

しかしただ1人、こんなことを言う人がいました。

紡と同級で、数少ない地元残留組の1人、広呂(村上虹郎)。
彼はことあるごとに紡に言い寄ってくるウザいヤツではあるのですが

「母親の体から生まれ落ちたときに、明るくて、広くて、自由だと思った」
というのです。

そんなことがある訳がない・・・というのは置いておくとして、
この視点には捨てがたいものがある。
暗くて遠い魂の在処から、この世界に生まれ落ちたとき、
こここそが「楽園」と思うのは、アリかもしれない。
本作においては、このポジティブさに、救われる気がします。
どこにもあるはずのない楽園は、実はこの世界でもある。
「青い鳥」にも似ていますね。

 

<WOWOW視聴にて>

「楽園」

2019年/日本/129分

監督・脚本:瀬々敬久

原作:吉田修一

出演:綾野剛、杉咲花、村上虹郎、片岡礼子、柄本明、佐藤浩市