映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

GAGARINE ガガーリン

2022年09月26日 | 映画(か行)

孤独な少年の宇宙

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フランス、パリ郊外に実在するガガーリン公営住宅。
宇宙飛行士ガガーリンに由来する名を持つこの団地に、16歳ユーリは住んでいます。
自らも宇宙飛行士を夢見ながら、
今はかつて自分を置いて出て行ってしまった母の帰りを待っているのです。

さて、この団地もすっかり老朽化し、
パリ五輪2024年を目指して、取り壊し計画が持ち上がります。

ユーリは想い出がつまったこの団地を守るため、
親友フサームや好意を寄せるディアナとともに、
取り壊しを阻止しようと立ち上がりますが・・・。

この団地は1961年に、エレベーターなど、
当時としては画期的な現代的設備を備えた鉄筋コンクリートの建物。
ガガーリン本人も訪れたことがあるという、
まさに当時注目を浴びた低所得者用の団地なのでした。

しかし、60年を経て建物や設備がすっかり老朽化。
エレベーターは動かないものが多く、
廊下の照明なども、交換の手間や費用を惜しんで切れたまま放置されているのです。

そんな中に住む少年ユーリは、母親が出ていったまま戻らず一人暮らし。
この団地を出て行かなければならないとなれば、一体どうすればいいのでしょう。

おそらく思い出がどうこうというよりも、
そうした事情の方が大きいのでは?と思うのですが、
彼はなんとかこの団地を長持ちさせようと、
母のアクセサリーと交換に電球や蛍光管をもらってきたり、
壁面の落書きの上にペンキ塗りをしたり・・・と悪戦苦闘。

他の住人はこの団地に思い入れはあるものの、
狭くてボロなこの団地から早く引っ越したいと思う人も多いのです。
というわけで、住民はそれぞれ退去を始め、
とうとうユーリだけが取り残されてしまう・・・。

そこから先がユーリと本作のすごいところ。

廃墟のアパートに取り残されたユーリは、まるで宇宙船で一人飛行する宇宙飛行士。
ある部屋では野菜を栽培し、孤独と寒さに耐えながら、サバイバル生活。
いつしかユーリは無重力の宙に浮遊している・・・。

外ではすでにアパート取り壊しのための爆薬を設置し始めているのですが・・・。
切なくもすばらしいイマジネーションの世界に魅了されます。

ちなみにこの団地は2019年にすでに解体済みのようです。
60年、そこに暮らした人々を包み込んだ団地への、素敵なレクイエムとなった作品ですね。

 

<WOWOW視聴にて>

「GAGARINE ガガーリン」

2020年/フランス/95分

監督:ファニー・リアタール、ジェレミー・トルイユ

出演:アルセニ・バティリ、ソナ・クードリ、ジャミル・マクレイブン、フィネガン・オールドフィールド

 

郷愁度★★★★☆

サバイバル度★★★★☆

満足度★★★★☆