九日目、十日目へと・・・
* * * * * * * *
角田光代さんは、自分でもみないふりしている心の奥底を
無理矢理えぐり出すようなところがあって、
下手をすると返り討ちに遭いそうな気がするので、ちょっと怖いという印象があります。
「空中庭園」を読んだ私は、特にそう思ってしまいました。
この作品は近く映画公開を予定していることもあり、おそるおそる(?)読んでみました。
希和子という女性が、愛人とその妻の赤ん坊を盗みだし、
逃亡しながら、その赤ん坊に実の子以上の愛情を持って育てていくというストーリー。
自身は愛人との間の子供を堕胎したことで、
子供が産めない体になっていたのでした。
通常はこのような行為は犯罪であり、狂った行為と見なされるのですが、
今作では、この希和子の視点でストーリーが語られるので、
その心情はまるで自分自身のことのように身近でよくわかる。
彼女にとってどんなにその娘、薫が大切でかけがえのないものであるか。
そうして、いつしか彼女の行為が明るみに出て、
この二人が引き離されてしまうことを恐怖してしまいます。
豊かな自然に囲まれ、おだやかな暮らしを手に入れた小豆島。
けれど、それもいつか終わりの時を迎えます。
後半は、物心つくまで優しいお母さんと過ごし、
しかしある日突然わけがわからないまま引き裂かれ、
見知らぬおじさん・おばさんを父母と呼ぶことになった恵理菜(薫)の視点の描写です。
彼女は大学生になっていますが、
両親とは相容れず一人暮らしを始めたところ。
誘拐犯の「母」と引き離されたのは3歳か4歳くらいというところでしょうか。
ちょうどその自己認識が芽生える当たりですね。
ところがようやく形成し始めた自己がそのとき崩壊し、
また全く新たな環境に放り出され、
これまでのことは間違っていたといわれる。
そんなにすんなり受け入れられるわけがありません。
その後どうしても家族とうまくいかないのは
あの「女」のせいだと、彼女は偽りの母を強く憎むのです。
当時のことはほとんど覚えていないにせよ、
本当は愛に包まれて幸せだったときのことを憎まなければならない。
彼女の時はそこから止まったまま・・・。
蝉は長い間土の中で暮らし、ようやく羽化して地上に出た後は
7日しか生きられないといいます。
他のみなと一緒に7日目で死ぬのならそれもいい。
けれど、もし他の蝉は7日で死んでしまったのに、
自分だけ8日目にも生き残ってしまったら・・・?
彼女は自分をその8日目の蝉のようだと思うのです。
大変に重く苦いストーリーなのですが、私たちはこの恵理菜の若さに救われますね。
彼女は自分を理解してくれる友を得て、自分を解放していく。
九日目、十日目へと生き延びていきそうな希望が見えてくる。
女たちがつないでいく愛と命。
その愛は男に向ける愛では無く、無性の母の愛ですね。
血のつながりはないにせよ、恵理菜は「薫」として育てられた母の愛を
しっかり受け継いだようにも思える。
母は強し!
圧倒的な筆力があって、目が離せない本でした。
それにしても、ここに登場する男たちの何とも情けないこと・・・。
「八日目の蝉」角田光代 中公文庫
満足度★★★★★
八日目の蝉 (中公文庫) | |
角田 光代 | |
中央公論新社 |
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角田光代さんは、自分でもみないふりしている心の奥底を
無理矢理えぐり出すようなところがあって、
下手をすると返り討ちに遭いそうな気がするので、ちょっと怖いという印象があります。
「空中庭園」を読んだ私は、特にそう思ってしまいました。
この作品は近く映画公開を予定していることもあり、おそるおそる(?)読んでみました。
希和子という女性が、愛人とその妻の赤ん坊を盗みだし、
逃亡しながら、その赤ん坊に実の子以上の愛情を持って育てていくというストーリー。
自身は愛人との間の子供を堕胎したことで、
子供が産めない体になっていたのでした。
通常はこのような行為は犯罪であり、狂った行為と見なされるのですが、
今作では、この希和子の視点でストーリーが語られるので、
その心情はまるで自分自身のことのように身近でよくわかる。
彼女にとってどんなにその娘、薫が大切でかけがえのないものであるか。
そうして、いつしか彼女の行為が明るみに出て、
この二人が引き離されてしまうことを恐怖してしまいます。
豊かな自然に囲まれ、おだやかな暮らしを手に入れた小豆島。
けれど、それもいつか終わりの時を迎えます。
後半は、物心つくまで優しいお母さんと過ごし、
しかしある日突然わけがわからないまま引き裂かれ、
見知らぬおじさん・おばさんを父母と呼ぶことになった恵理菜(薫)の視点の描写です。
彼女は大学生になっていますが、
両親とは相容れず一人暮らしを始めたところ。
誘拐犯の「母」と引き離されたのは3歳か4歳くらいというところでしょうか。
ちょうどその自己認識が芽生える当たりですね。
ところがようやく形成し始めた自己がそのとき崩壊し、
また全く新たな環境に放り出され、
これまでのことは間違っていたといわれる。
そんなにすんなり受け入れられるわけがありません。
その後どうしても家族とうまくいかないのは
あの「女」のせいだと、彼女は偽りの母を強く憎むのです。
当時のことはほとんど覚えていないにせよ、
本当は愛に包まれて幸せだったときのことを憎まなければならない。
彼女の時はそこから止まったまま・・・。
蝉は長い間土の中で暮らし、ようやく羽化して地上に出た後は
7日しか生きられないといいます。
他のみなと一緒に7日目で死ぬのならそれもいい。
けれど、もし他の蝉は7日で死んでしまったのに、
自分だけ8日目にも生き残ってしまったら・・・?
彼女は自分をその8日目の蝉のようだと思うのです。
大変に重く苦いストーリーなのですが、私たちはこの恵理菜の若さに救われますね。
彼女は自分を理解してくれる友を得て、自分を解放していく。
九日目、十日目へと生き延びていきそうな希望が見えてくる。
女たちがつないでいく愛と命。
その愛は男に向ける愛では無く、無性の母の愛ですね。
血のつながりはないにせよ、恵理菜は「薫」として育てられた母の愛を
しっかり受け継いだようにも思える。
母は強し!
圧倒的な筆力があって、目が離せない本でした。
それにしても、ここに登場する男たちの何とも情けないこと・・・。
「八日目の蝉」角田光代 中公文庫
満足度★★★★★
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