映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

八日目の蝉

2011年05月03日 | 映画(や行)
原作を読んでいてなお、さらなる感動が・・・



              * * * * * * * *

原作を読んだばかりだったのですが、さっそく映画も見ました。
しかし、正直さほど期待はしていなかったのですが、
これはまた・・・! 
思いがけず新たな感動に包まれてしまいました。



ストーリーはもちろん同じです。
でも構成が少し違う。
角田光代さんの原作は、時系列が正しく並んでいまして、
始めに希和子が赤ちゃんを連れ出し、
友人の家、エンジェルホーム、小豆島へと移動して行きます。
そして後半、主人公が成長した恵理菜にバトンタッチされます。

でも映画の方は、始めから成長した恵理菜がいます。
彼女の生活を描き出しながら、
過去の希和子のいきさつが順に少しずつ挿入されていきます。

この構成が生きてくるのは、特に舞台が小豆島に移ってから。
恵理菜が自分にとっては禁断の地であった小豆島に旅をします。
フェリーに乗って生まれて初めてまぶしく光り輝く海面を見たこと、
フェリーから眺めた小豆島の姿。
過去の幼かった自分と現在の自分が
同じ場所に立つことによってオーバーラップしていくのです。
「薫」だった時の自分が少しずつよみがえってくる。
訪れる場所、その所々で、過去の出来事がよみがえっていく。
しかもその風景がすばらしいのですよ。
小豆島の風景。
ここの風景は、ただ自然が美しいのではない。
斜面に作られた棚田であったり、
山から見た海辺に広がる家々の風景であったり。
人と自然がしっくりと共存しあっている、何だかやさしく美しい風景なんです。
こういうことができるのは、やはり映画の力ですよね。
行ったこともないので、本では小豆島の風景を想像はできませんでした。
この島でどんなに「薫」が「母」と人々に見守られながら
幸福な時を過ごしていたのか、
そういうことにすごく説得力があります。
とくに、あのお祭りの光景は、それだけで泣きそうに美しいものでした。

そしてまた、映画には原作にないエピソードが一つ加えられています。
ラストに来るそれがもう、すごい効果を上げています。

原作を読んで感動はしましたが、泣けるというわけではなかった。
ところがこれ、知らず涙があふれ出てきます。
周囲の人も皆、鼻をすすっていましたもん・・・。
泣ければいいというものではないですけれど、
この涙は悲しくて泣けるのではなくて、
ようやく自分を解放できた恵理菜のために泣けるわけで、
八日目の蝉がそれこそ9日でも10日でも生きて行けそうな、
そんな希望の見えるラストはいいですね。


原作ももちろんすばらしかったのですが、
その内容を知っていてさえも、
さらなる感動に包まれる、希有な作品といっていいでしょう。
これは、もちろんこの二人の女優さんの演技力によるところも大きいのですが、
小豆島の風景の勝利とも言えます。
そして脚本も!
脚本は奥寺佐渡子さん。
なんと、アニメの「時をかける少女」とか「サマーウォーズ」を手がけた方でした。
今後も注目したいと思います。

「八日目の蝉」
2011年/日本/147分
監督:成島 出
原作:角田光代
脚本:奥寺佐渡子
出演:井上真央、永作博美、小池栄子、森口瑤子


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