コロナ禍中の火村とアリス
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「臨床犯罪学者 火村英生シリーズ」誕生から30年!
最新長編は、圧倒的にエモーショナルな本格ミステリ。
大阪の場末のマンションの一室で、男が鈍器で殴り殺された。
金銭の貸し借りや異性関係のトラブルで、容疑者が浮上するも……。
「俺が名探偵の役目を果たせるかどうか、今回は怪しい」
火村を追い詰めた、不気味なジョーカーの存在とは――。
コロナ禍を生きる火村と推理作家アリスが、
ある場所で直面した夕景は、佳き日の終わりか、明日への希望か――。
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有栖川有栖さんの火村英生シリーズ最新作。
といってもこれは刊行してからもう1年半も経っているのを
今回やっと読むことができました・・・。
それにしても、このシリーズが始まってからもう30年も経っているというのには驚きです。
普通に読み続けて、30年・・・。
私も歳をとるはずですねえ・・・。
アリスも火村氏も同じままで若くてうらやましい・・・。
さて本作。
コロナ禍の時代が背景。
人々の会話時にソーシャルディスタンスを意識したり、マスクを意識したり。
最もディープなコロナ禍時のことをちょっとばかり懐かしく思い出します。
とりあえずそんな日々が過去の物になったことに安堵・・・。
まだまだマスクを無しにはできませんが。
まあ、そんなことの影響もあるのかどうか。
今回の事件は割に地味。
とあるマンションの一室で、スーツケースに詰められ、クローゼットに押し込められた
男の死体が発見されます。
なんとも決め手に欠く事件。
事態はなかなか進展しないのですが・・・。
途中からガラリと様相が変わって、火村とアリスがとある旅に出ます。
瀬戸内海に浮かぶ離島を訪れる旅。
果たして二人はそこで何をつかむのか・・・?
これまで普通にレギュラー出演者として出てきた、とある人物の過去が
ちょっとばかりあかされ、それがこの事件に影を落としているのです。
火村とアリスの長い歴史の中、コロナ禍中の数年を記念する作品となるでしょう。
それにしても、ススキノのホテルで首ナシ死体が発見されるとか、
現実の方が小説を超越している昨今ですねえ・・・。
<図書館蔵書にて>
「捜査線上の夕映え」有栖川有栖 文藝春秋
満足度★★★.5
そんな中で大阪で起こった殺人事件に関し、二人に応援の要請があった。
東大阪市内のマンションで住人の男が殺害され、遺体が寝室のスーツケースに押し込まれていた事件だった。
警察は遺体の発見者である女性や、被害者から金を借りていた男性等を捜査の対象にしていたが、決定的な証拠をつかむ事は出来ていなかった--------という有栖川有栖さんのミステリですね。
ミステリ作家有栖川有栖と犯罪社会学者火村英生による、この長編作品は、2017年に刊行された「狩人の悪夢」以来ですね。
この期間における社会の大きな違いは、言わずと知れた新型コロナウイルスでしょう。
旅に出掛けたり飲食を楽しんだりという生活が大きく変わり、マスクの着用、手指の消毒、ソーシャルディスタンスの徹底等など。
前作は新本格ミステリという側面が強く押し出されていましたが、この作品はあとがきで著者が述べている様に「余情が残るエモーショナルな本格ミステリ」。
本格ミステリでは奇抜な事件が描かれがちですが、この作品の事件自体は、非常に地味ですね。
マンションの一室で、そこに住む男の撲殺死体が発見され、死体はスーツケースに押し込められていました。
マンションには防犯カメラが複数台設置されており、人の出入りはかなり正確に掴めます。
ただ、皆マスクをしている為に顔の下半分は見えませんが。
何人か容疑者が浮かびますが、アリバイがあったりして特定ができません。
そこで二人の登場となるのですが、事件は広がりを見せる事はありません。
ですので警察の捜査や二人による推理の部分が、やや長く感じられましたね。
そして、今までに捜査線上に浮かんできていない、ジョーカーの存在が示唆されます。
そして、ある人物の意外な過去が明らかになり、事件の構図が判明します。
それにしても、後半の瀬戸内海の島の描写が秀逸で、著者が言う「エモーショナル(感情的とか情緒的)」というのは、良く出せているのではないかと思います。
コロナ禍の世間を繁栄して、若干湿りがちな作品だったかも知れません。
いつも私などお恥ずかしい限りのご高察、恐れ入ります。