映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

わたしを離さないで

2011年04月18日 | 映画(わ行)
カゲロウのようにはかない生だけれど・・・



           * * * * * * * *

カズオ・イシグロ原作の映画化です。
世間と隔絶されたヘールシャム寄宿学校。
徹底された健康管理が行われているこの学校で過ごすキャシー、ルース、トミー。
この学校の存在意義と彼らの残酷な運命は、限りなくSF的です。
たとえば「アイランド」の世界のよう・・・。
でも、この作品はそうしたセンセーショナルな部分は極力控えめです。
だから、彼らの哀しい運命については割と早い部分で明らかにされます。
この作品で訴えるのは、そんな中でも、はかない生を精一杯生きようとするこの3人の
微妙な愛と友情について。



キャシーはちょっと他の子とは違うトミーが気になっていて、
仲間はずれになりがちなトミーの話し相手になったりしていたのです。
ところがそこへルースが割り込んできて、さっさとトミーの彼女の位置を得てしまう。
キャシーはそんな二人の共通の友人として、
仲良し3人組の付き合いが続いていきます。
18歳になるとヘールシャムを出て、コテージでの生活が始まるのですが、
そこでも3人は一緒。
キャシーのトミーへのはかない思いが、とても切なく、私たちの胸を締め付けます。
彼女はとても優しいですね。
すぐそばにいるのに届かないトミー。
けれど彼女はルースとトミーが幸せならそれでいいと思っているのでしょう。
というのもやはり、自分たちのはかない生を意識しているからなのです。
キャシーの中には、常に生に関しての諦観がある。
だから強引にトミーを奪おうとしたりしないのだな・・・。
また、この作品ではキャシーとトミーの心で結ばれた愛が、
肉体関係以上に強く美しい。
そういうところがまた、胸を打ちます。
自分の感情を極力押し隠すキャシーの心の有り様は、
何だかとても日本的な感じがします。
やはり、カズオ・イシグロの感性の中に
日本の血が流れているのでしょう。
そしてまた、そういうところが、海外の読者にも感銘を与えたというのは
なかなか感慨深いものがありますね。



・・・というところでこの作品、
ミステリアスで、静かな緊張感、
そして何故か何だか懐かしい感じがする、
そんな原作の雰囲気を見事に再現できていました。

でもなおかつ、私は人には、やはり本の方をオススメします。
というのは、本の方がもっと細やかなエピソードに満ちています。
もっと、じっくりこの3人に付き合って、そうしてラストを迎えたい。
映画は2時間足らずですから、やはり凝縮されすぎです。
このストーリーについては、もう少し時間をかけて味わいたい。
特にそう思います。


さて、このトミー役のアンドリュー・ガーフィールドは
先の「ソーシャル・ネットワーク」にも出ていましたし、
次の「スパイダーマン」シリーズでは
トビー・マグワイヤの後を継いでのスパイダーマン役。
人気急上昇中。
キャリー・マリガンのやさしく切ない微笑も、とても印象的でした。
才能あふれる若き俳優さんたちの、
記念碑的な作品となるかもしれませんね。


「わたしを離さないで」
2010年/イギリス・アメリカ
監督:マーク・ロマネク
原作:カズオ・イシグロ
出演:キャリー・マリガン、アンドリュー・ガーフィールド、キーラ・ナイトレイ、シャーロット・ランプリン


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