夜の都市高速を疾走する一匹のトラとバイク。
幻想的なこのシーンは、島田氏が現在の日本と日本人に突きつけた挑戦状。
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「都市のトパーズ2007」 島田荘司 講談社文庫
この本は、小説というよりはむしろ島田氏の「都市論」です。
これまでも、さまざまな本の中で、彼の持論は繰り広げられていましたが、この本はそれらの集大成といってもいいと思います。
1999年に刊行されたものを大幅に加筆訂正したとありますので、内容も今読んでも大いに納得できることばかりです。
主に「東京」についてなので、地方に住んでいる身としてはそれほどに実感はありませんが、氏が言うには、今の東京は過去の都市計画の無策により、ひどい状況であると。
道路はせまく計画性もなく造られているので、ひどい渋滞。
家やビルが狭いところに隣接、しかも耐震性も施されていない古いビルがほとんどなので、今後大きな地震があれば、大変危険な状態。
昔からあった水路や丘陵をただ埋め立て、削って造成したので、のっぺりとしたつまらないものになってしまっている。
コンクリート、アスファルトで固めた町は、ヒートアイランド状態を生み出し、環境の悪化に拍車をかけている。
緑が少ない。いえ、実は緑は面積としては多いのだが、皇居や、御苑など、一般市民の立ち入りが禁止や制限されているので、実のあるものになっていない。
などなど・・・。
実は、これらを是正するチャンスは過去に何度かあったと、氏は言う。
関東大震災のとき。あるいは終戦のとき。
このときには東京が、壊滅状況となっており、ここでやろうと思えば出来たのだと。
現に田島正男という方が戦後、かなり大胆に将来を見据えた都市計画を持っていたのですが、当時行政にはまったく取り合ってもらえず、日の目を見ないままになってしまったのだとか。
この本には島田氏のかなり具体的な理想の東京が描かれています。
機能的で、潤いがあり、かつ美しい。
誰かが、こんな都市計画の提案を掲げて、都知事に立候補し、当選でもしないとでもしないと実現は難しそうです。
が、オリンピックの誘致よりはよほどましなスローガンだと思うのですが。
東京にお住まいの方は、ぜひ読んでみては?
島田氏は、とっくに日本に見切りをつけたらしくて、かなり前からロスアンジェルスに在住しています。そんな彼に、ちょっと日本もいいなと思わせる都市が出来たらいいですけどねえ・・・、むりでしょうねえ。
この文庫におまけのようについている「天使を殺した街」、これは、マリリン・モンローのミニストーリーですが、これがまたなかなか興味深いですよ。
満足度★★★★
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