人生と科学
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この先に「月に一番近い場所」があるんです――。
樹海を目指した男が、そこで見たものは?
「月は一年に三・八センチずつ、地球から離れていってるんですよ」。
死に場所を探してタクシーに乗った男を、運転手は山奥へと誘う。
「実はわたし、一三八億年前に生まれたんだ」。
妻を亡くした男が営む食堂で毎夜定食を頼む女性客が、
小学生の娘に語った言葉の真意。
科学のきらめきが人の想いを結びつける短篇集。
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伊与原新さん、私には初めての作家さんです。
「月まで三キロ」?
何かの書き間違いかと思いますね。
人生に行き詰まり、富士樹海にでも行こうかとタクシーに乗り込んだ男。
男を乗せたタクシーの運転手は、この先に「月に一番近い場所がある」という。
その謎は単純なことながら、なかなかユニーク。
そんな中で、月は一年に3.8㎝ずつ地球から離れていっている。
だから太古の原始人は今よりももっと大きな月を見ていただろう、
などという話が語られます。
科学です。
実は本作、一篇ごとにこのような何かしら科学的なエピソードが語られ、
それと人々の人生模様がうまく絡まって描かれているのです。
例えば「星六花」では気象や雪のこと。
「アンモナイトの探し方」ではそのままズバリ、化石、アンモナイトのこと。
「天王寺ハイエイタス」では、堆積物から地球の気候変動の変遷を探ること。
あらら、この感じつい最近見たことがある、と思ったら
先日読んだ川端裕人さんの「空よりも遠く、のびやかに」の中の
「地学」の研究分野と重なるのでした。
こんな風に意図せず読む本の内容がシンクロすることがたまにあります・・・。
さて、著者・伊与原新さんは神戸大理学部卒業後、
東大大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻とあります。
ガチガチの理系の方なんですね。
そして横溝正史ミステリ大賞を受賞し、ミステリ作家を目指していたのですが、
早々に路線変更して、本作のような「科学」をからめた人間ドラマの方向に進んでいる、と。
実は私、理系の方の描く小説と言うか文章にはちょっと苦手感があるのですが、
本作はまったく問題なく楽しい読書時間を持てました。
今後もまた読んでみたいと思います。
「月まで三キロ」伊与原新 新潮文庫
満足度★★★★☆
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