サリンジャーとの日々
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原作、ジョアンナ・ラコフさんの自叙伝から。
90年代後半のニューヨーク。
作家を夢見るジョアンナ(マーガレット・クアリー)は、老舗出版エージェントで、
J・D・サリンジャー担当の女性上司マーガレット(シガニー・ウィーバー)の
編集アシスタントとして働き始めます。
そこでジョアンナは、世界中から大量に届くサリンジャーへのファンレターの対応処理に当たることに。
サリンジャーはそのような手紙を一切受け取らないと決めていたので、
極めて紋切り型の事務的返信をして、手紙はシュレッダーにかけるというのがその仕事。
しかし、そんな中には心揺さぶれる手紙もあって、
ジョアンナは規定を破って、個人的に何人かに返事を書いてしまいます・・・。
原題は“My Salinger Year”なので、そちらの方が的確に内容を表わしていると思うのですが、
まあ確かに、そのまま邦題とするのは、わかりにくいでしょうか。
そのころのサリンジャーは、田舎に引きこもり、
外部との連絡をほとんど断って隠遁生活をしていました。
そのような中で、唯一サリンジャーと直接やりとりをする会社というのが、
いかにも希有な体験なわけです。
出版エージェントというのは、日本ではあまり聞きませんが、
作家と出版社をつなぐような役割なんですね。
このような傾向の小説ならどこそこの出版社がいいのでは・・・?
と、紹介したりするわけです。
さて、大ヒットの「ライ麦畑でつかまえて」が出てから何十年も経つのに、
いまだに大量に届くファンレター。
ジョアンナは
「著者の意向で、手紙を本人に届けることはできません。」
など、文例集に従って、返事を書いていたわけです。
けれども妙に心に引っかかる手紙がたまにある。
それに対して、ジョアンナはただの紋切り型の返信で済ますことがつらくなってしまうのですね。
そういうジョアンナは作家志望ながら、この仕事に就いている間は何も書いていません。
上司マーガレットから、「小説なんか書いてもムダ」と
始めに軽くいなされたためもあるのですが、
彼女の中でまだ何かの醸成が足りないようにも思えます。
ニューヨークに来る前に付き合っていた男性とは別れて、
新たな恋人と共に住んだりと、
仕事面ばかりでなく恋愛事情についても、
ジョアンナはこれからの人生の方向性を模索しているようです。
そしてまた、サリンジャー関係の仕事をしているにもかかわらず、
ジョアンナはサリンジャーを読んだことがないというのです!!
彼女がついにそれを読むのは、かなり終盤になってから。
あまりにも多くの人が「すばらしい」というものに
ちょっとためらいが出てしまう、という気持ち、私にも少し分かる気がします。
でもこんなにも長きの間、多くの人に愛されるのには、
やはりそれなりの理由があるのでしょうね。
1人の女性の成長、そして自立の物語。
サリンジャーが素材となっているのも、なんともステキです。
シガニー・ウィーバーの女性上司というのがまた、ナイスなのです。
厳しく、頑固そう。
でも意外と部下のことをよく見ている。
エイリアンと闘ったりしなくても、魅力的であります!!
そして本作の1990年代という時代性。
オフィスに徐々にコンピューターが入り込んでいった時代です。
まだ多くはタイプライター。
マーガレットがデジタルに不信感を持っているので、
ここのオフィスはよそよりコンピューターの導入が遅れているのです。
でもそんな彼女も、ネット検索などの利便性を否定できなくなってくる。
私自身もそんな時代を過ごして来たわけで、妙に懐かしい気がしました。
<WOWOW視聴にて>
「マイ・ニューヨーク・ダイアリー」
2020年/アイルランド・カナダ/101分
監督:フィリップ・ファラルドー
原作:ジョアンナ・ラコフ
出演:マーガレット・クアリー、シガニー・ウィーバー、ダグラス・ブーマ、
ブライアン・F・オバーン、セオドア・ペレリン
時代性★★★★☆
サリンジャーへの興味度★★★★☆
満足度★★★★★
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