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「教誨師」堀川惠子

2018年06月23日 | 本(その他)

死刑囚と向き合うこと

教誨師 (講談社文庫)
堀川 惠子
講談社

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50年もの間、死刑囚と対話を重ね、死刑執行に立ち会い続けた教誨師・渡邉普相。
「わしが死んでから世に出して下さいの」という約束のもと、
初めて語られた死刑の現場とは?
死刑制度が持つ矛盾と苦しみを一身に背負って生きた僧侶の人生を通して、
死刑の内実を描いた問題作!第1回城山三郎賞受賞。

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日頃夢のようなストーリーを主に読んでいるもので、
時にはシビアな現実も見なくては、という気持ちになります。
そこで目についたこのノンフィクション。


教誨師(きょうかいし)とは・・・間近に処刑される運命を背負った死刑囚と対話を重ね、
死刑執行に立ち会う・・・というお仕事。
全くのボランティアだそうです。
この役を50年もの間続けたという僧侶、渡邉普相氏に
ジャーナリスト堀川惠子さんがインタビューしたものをまとめたものです。
インタビューといっても半日やそこら話を聞いたというのではありません。
もともと守秘義務のある役割のこと、
何度通っても渡邉氏は教誨師としてのことは語ろうとしなかったとか。
しかし著者がすっかり寺に通いなれたある日、
「わしが死んでから世に出してくださいの」という約束のもとで、語り始めた。


守秘義務に時効があるかどうかはわかりませんが、
死刑執行から数十年が過ぎ、話をしても関係者に迷惑がかからないようなことが
明かされているわけです。
しかも仮名なので、そのへんは確かにあまり神経質になる必要はないのかな、と。
むしろこの本によって死刑囚のたどった言いようのない苦難に満ちた人生のこととか、
その人達と向き合い死刑執行の場に立ち会い続けることの苦悩を
私達が知ることになったという意義は絶大です。


この本で、そのことは直接的には書かれていないのですが(多分、あえてでしょう)
死刑制度の是非にも考えが及びます。
そしてまた、この渡邉普相氏の人生そのものにも驚かされるのです。
広島出身。あの原爆の被災者です。
かろうじて自分は助かったけれども、多くの人々を見殺しにしてしまった
というような罪悪感を持っていたのですね。
更には、渡邉氏ご自身がアルコール依存症だった時期があったということ。
御本人は「ただ酒が好きだっただけ」と仰るのですが
いえいえ、教誨師という精神的ダメージの大きい役割ゆえのストレス、
ということはきっと関係していたはず。
僧侶でアル中というのはいかにも外聞が悪いので、ひた隠しにしていたそうなのですが、
ある時から開き直り死刑囚にも本当のことを言うようになった。
それから、死刑囚が心底からの悩みや過去の辛い出来事を打ち明けてくれるようになった
・・・というのもすごいです。


教誨師という特異な仕事のこと、そして一人の人物の壮絶な生きざま・・・、
このことを本にまとめていただいた著者に感謝!!


「教誨師」堀川惠子 講談社文庫
満足度★★★★.5



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