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「村上ラヂオ3 サラダ好きのライオン」村上春樹

2016年06月07日 | 本(エッセイ)
発想力と、ユーモアと、親切と

村上ラヂオ3: サラダ好きのライオン (新潮文庫)
村上 春樹,大橋 歩
新潮社


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日々の暮らしの中で体験した愉快な話から、人生の深淵に触れる不思議なエピソードまで、
小説家の頭の中の抽斗には、話題がいっぱい!
「どうして寝る前に限ってネタを思いつくんでしょうね?」と悩みつつ、
つぎつぎ繰り出されるユーモア溢れるエッセイ52編。
大橋歩さんのおしゃれな銅版画も楽しい人気エッセイ・シリーズ第3弾。


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村上春樹さんの「アンアン」に連載されたエッセイをまとめたもの。
3冊目・・・ということですが、私は拝読するのはこれがはじめてです。
エッセイなので、どこから読んでも構いませんよね。
でも、病みつきになりそうに読みやすく楽しい文章ばかりなので、
そのうち遡って読むかもしれません。


冒頭の方に「愛は消えても」という題名のものがあるのですが、
そこで触れられているのは「親切」ということ。
「彼は親切だ」というのと「彼には親切心がある」というのとの微妙な違いに触れながら、
著者は以前ワシントンDCで川に墜落した旅客機から投げ出されたある男性が、
救助のヘリコプターに引き上げられる順番を女性に譲り、
最後になった彼は命を落としたというエピソードを挙げます。
こういう人こそが「親切心がある」と言うにふさわしいだろうと。
そして驚くのはその先。
著者が常に心がけているのは「読者に対して親切であろう」ということ。
つまり、少しでも相手が読みやすく、理解しやすい文章を書くこと。
簡単なことのようで、そうではない。

「わかりやすい文章を書くには、まず自分の考えをクリアに整頓し、
それにあった適切な言葉を選ばなくてはならない。
時間もかかるし、手間もかかる。
いくぶんの才能も必要だ。
適当なところで「もういいや」と投げ出したくなることもある。」


う~ん、プロの作家にしてそうなんだから、
私ができなくても無理はない、と思ってしまいました。
でも、「氷の浮かぶ水に浸かりながら、救助の順番を人に譲るような親切に比べたら、
たいしたことじゃない」、と結ぶ著者のユーモアはサスガです。


また著者は、時にいろいろなアイデアが浮かぶようなのです。
ジムなどでせっせとエネルギーを放出する人が大勢いるけれど、
そのエネルギーをためて電力などに利用できないものかと。
「献血手帳」のように「エネルギー手帳」を作る。
街角にボランティア用のバイクが置いてあって、せっせとペダルを踏んでもらう。
その奉仕は手帳にポイントとして記録されていって、
後に何かに使える・・・、みたいな。
すご~くいいいな、と私は思うのですよね。
ほんとに、どこかで実現してほしい。
メタボ対策にもなりそうですし・・・。
私も常々、夏のうだるような熱をなんとか蓄積しておくことはできないものかと思うのです。
冬期間の雪をため込んでおいて夏に冷房などに利用する、
というのは実際に行われているようなんですけどね。
あの無駄な暑さをなんとかためておくことはできないのでしょうかねえ・・・?


・・・というのは余談ですが、実際、「読みやすくて」「理解しやすくて」
そして何よりユーモアとステキな発想に満ちたこの本。
オススメです。

「村上ラヂオ3 サラダ好きのライオン」村上春樹 新潮文庫
満足度★★★★.5


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