映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

海の沈黙

2024年11月25日 | 映画(あ行)

本当の美とは

* * * * * * * * * * * *

倉本聰氏が長年にわたり構想したという物語の映画化です。

 

世界的に著名な画家、田村修三(石坂浩二)の展覧会で、
作品の一つが贋作と判明します。
関係者の誰もが本物と信じて疑いすら抱いていなかったものを、
作者である本人がこれは自分が描いたものではない、と表明したのです。

また、北海道小樽では全身に入墨を施した女性の死体が発見されます。

 

この二つの出来事に関係する人物、それが津山竜次(本木雅弘)。

彼は若い頃、新進気鋭の天才画家と称されながら、
ある事件をきっかけに人々の前から姿を消しました。

かつて津山の恋人で、現在は田村の妻である安奈(小泉今日子)は、小樽へ向かい、
2度と会うことはないと思っていた津山と再会を果たします。

画壇を追われるようにして、姿を消していた津山。
彼は画壇に向けた思いをたたきつけるように、これまで絵を描き続けていたのです

すなわち彼が描き続けていたのは、「名画」とされているものの贋作。
それが、贋作とバレないどころが本物を凌駕する「美」を放っている・・・。

絵画における「本物」とはいったい何なのか。
描いた人物なのか、それとも、作品それ自体なのか。
贋作という判定を受けた途端にその絵が放っていた「美」は損なわれてしまうのか・・・? 
そうであれば絵の価値とは一体・・・?

私たちがいかに「権威」とか「金銭的価値」を基準に物事の判断をしているのか、
考えさせられます。

しかしまた、津山はここに至ってようやく、
自分自身の「美」を追求しはじめる。

というのが、テーマの一つ。
そしてもう一つ、サブストーリー的にあるのが大人の愛ですな。

安奈は田村の妻ではありますが、とうに愛情は薄れ現在別居中。
ただ田村が安奈を「妻」の座に縛り付けておきたいが為だけに、
離婚もできないでいるのです。
そんな中、安奈は過去の男、津山が忘れられない・・・。
けれど長く案じていた津山の居所が知れたとしても、
その胸にまっすぐに飛び込んでいけるほどの若さはない。

分別がありすぎる大人というのも、やっかいなものです。

一方、津山の方も彼女への思いを胸底に秘めたまま・・・。
けれど、世捨て人のようなこれまでの彼の人生、
女体への入墨を施すことなども仕事のひとつで、
何やらなまめかしい事情(情事?)もないわけではない。
ふむ。
やはり大人の愛ですな。

倉本聰人気でしょうか、映画館はご年配の方でいっぱいでした。

 

<シネマフロンティアにて>

「海の沈黙」

2024年/日本/112分

監督:若松節朗

原作・脚本:倉本聰

出演:本木雅弘、小泉今日子、清水美砂、仲村トオル、菅野惠、石坂浩二、中井貴一

 

美を考える度★★★★☆

大人の愛度★★★★☆

満足度★★★.5



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