本当の美とは
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倉本聰氏が長年にわたり構想したという物語の映画化です。
世界的に著名な画家、田村修三(石坂浩二)の展覧会で、
作品の一つが贋作と判明します。
関係者の誰もが本物と信じて疑いすら抱いていなかったものを、
作者である本人がこれは自分が描いたものではない、と表明したのです。
また、北海道小樽では全身に入墨を施した女性の死体が発見されます。
この二つの出来事に関係する人物、それが津山竜次(本木雅弘)。
彼は若い頃、新進気鋭の天才画家と称されながら、
ある事件をきっかけに人々の前から姿を消しました。
かつて津山の恋人で、現在は田村の妻である安奈(小泉今日子)は、小樽へ向かい、
2度と会うことはないと思っていた津山と再会を果たします。
画壇を追われるようにして、姿を消していた津山。
彼は画壇に向けた思いをたたきつけるように、これまで絵を描き続けていたのです
すなわち彼が描き続けていたのは、「名画」とされているものの贋作。
それが、贋作とバレないどころが本物を凌駕する「美」を放っている・・・。
絵画における「本物」とはいったい何なのか。
描いた人物なのか、それとも、作品それ自体なのか。
贋作という判定を受けた途端にその絵が放っていた「美」は損なわれてしまうのか・・・?
そうであれば絵の価値とは一体・・・?
私たちがいかに「権威」とか「金銭的価値」を基準に物事の判断をしているのか、
考えさせられます。
しかしまた、津山はここに至ってようやく、
自分自身の「美」を追求しはじめる。
というのが、テーマの一つ。
そしてもう一つ、サブストーリー的にあるのが大人の愛ですな。
安奈は田村の妻ではありますが、とうに愛情は薄れ現在別居中。
ただ田村が安奈を「妻」の座に縛り付けておきたいが為だけに、
離婚もできないでいるのです。
そんな中、安奈は過去の男、津山が忘れられない・・・。
けれど長く案じていた津山の居所が知れたとしても、
その胸にまっすぐに飛び込んでいけるほどの若さはない。
分別がありすぎる大人というのも、やっかいなものです。
一方、津山の方も彼女への思いを胸底に秘めたまま・・・。
けれど、世捨て人のようなこれまでの彼の人生、
女体への入墨を施すことなども仕事のひとつで、
何やらなまめかしい事情(情事?)もないわけではない。
ふむ。
やはり大人の愛ですな。
倉本聰人気でしょうか、映画館はご年配の方でいっぱいでした。
<シネマフロンティアにて>
「海の沈黙」
2024年/日本/112分
監督:若松節朗
原作・脚本:倉本聰
出演:本木雅弘、小泉今日子、清水美砂、仲村トオル、菅野惠、石坂浩二、中井貴一
美を考える度★★★★☆
大人の愛度★★★★☆
満足度★★★.5
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