映画と本の『たんぽぽ館』

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「散り椿」葉室麟

2018年09月08日 | 本(その他)

お家騒動と人を愛する心

散り椿 (角川文庫)
葉室 麟
KADOKAWA/角川書店

* * * * * * * * * *

かつて一刀流道場の四天王の一人と謳われた瓜生新兵衛が、山間の小藩に帰ってきた。
一八年前、勘定方だった新兵衛は、上役の不正を訴えたが認められず、藩を追われた。
なぜ、今になって帰郷したのか?
新兵衛を居候として迎えることになった甥の若き藩士、坂下藤吾は、
迷惑なことと眉をひそめる。
藤吾もまた、一年前に、勘定方であった父・源之進を切腹により失っていた。
おりしも藩主代替わりをめぐり、側用人・榊原采女と家老・石田玄蕃の対立が先鋭化する中、
新兵衛の帰郷は、澱のように淀んだ藩内の秘密を、白日のもとに曝そうとしていた―。

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間もなく映画公開となる本作。
私、この本は読んだはずと思いこんでいましたが、実は読んでいないことに気づいて慌てて読みました。
映画の原作は読んでいないほうがいい・・・と、この頃思うようになっているのですが、
葉室麟作品となれば話は別。
この美しい武士の魂の物語を読まずになんとしましょう。
西島秀俊さんも出演なので、映画も必ず見ますけれども・・・。

舞台は扇野藩という小藩。
そこへ国を出て諸国を漂っていた瓜生新兵衛が18年ぶりに戻ってきます。
かつて一刀流道場の四天王の一人とまで言われた新兵衛でしたが、
藩内の不正を訴えたために逆にいられなくなり、藩を出ていたのです。
その彼が、苦労をともにした最愛の妻を亡くしたことがきっかけで、帰って来た。
折しも藩は藩主代替わりをめぐり、不穏な気配が立ち込めています。
18年前の出来事の真相、そして各々が抱える心の葛藤。
散り椿の美しさ、儚さが印象的。

通常の椿は、花ごとポトリと落ちますね。
でもこの散り椿というのは花びらが一枚一枚散っていく品種。
桜の散り際も美しいですが、鮮やかな椿の花びらがはらはらと散っていくのも、
なお一層凄みを感じるほどに美しそうです。
そこにあるのは日本人の魂を揺さぶる「滅びの美」かもしれません。
本作中でも、己の正義を守るために命を散らす人物が登場します・・・。

葉室作品は人物の配置が素晴らしいですよね。
ここではかつて四天王と呼ばれた新兵衛と榊原采女の友情と反目が描かれています。
そしてこの二人を見つめる若者、坂下藤吾。
彼は始め藩内での出世を第一に思っていました。
叔父・新兵衛が戻ってからは、勝手に藩を抜け出してなんで今頃戻ってきたのかと訝しく、
そして迷惑にも思っていたのです。
そんな彼が次第に変わっていく。


そしてかつて采女が心を寄せていた篠。
彼女は新兵衛の妻となり、ともに国を出て、そして病で亡くなっています。
ところが実は篠もまた采女に心を寄せ続けていたのではないか・・・。
そんな懸念が新兵衛を揺さぶるのです。


お家騒動と恋心。
この配合の絶妙さ!
そしてやはり、凛として美しい武士の魂。
この原作を映画にすれば嫌でもいい作品になりますよ・・・。


図書館蔵書にて(単行本)
「散り椿」葉室麟 角川書店
満足度★★★★.5



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