映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

善き人

2013年04月14日 | 映画(や行)
大きな時代のうねりになすすべもなく・・・



            * * * * * * * * *

1930年代ドイツ。
ヒトラー独裁が進んできている時代です。
ベルリンの大学教授ジョン・ハルダー(ヴィゴ・モーテンセン)は、文学専門ですが、
過去に書いた小説がヒトラーに気に入られ、ナチ党に入党せざるを得なくなります。
家では母を介護し、家事が苦手の妻に変わって家事もこなす、
善良で平和を愛する一市民。
彼のかつての戦友で親友のモーリスは精神科医。
互いに遠慮のない仲ですが、彼はユダヤ人。
ナチスが文化人を取り込んで自らを権威づけようとする政策のお陰で
ジョンは昇進し生活も安定していくのですが、
モーリスは周りの人々から嫌がらせを受け、
国外逃亡もままならなくなってきます。
そしてついにはユダヤ人狩りが始まる・・・。


自分や家族の身を守るために、なすすべもないまま流されていくうちに、
加害者側に加担してしまっている自分。
何もドイツの、このジョンだけの話ではありません。
私達の周りにもこうしたことは多くあるような気がします。
どこで引き返せばよかったのか。
いや、それでもこうするほかなかった・・・。
自責の念、後悔と苦いあきらめ・・・。
呆然と立ちすくむジョンの姿に、私たちの思いも沈んでいきます。



おのれのナチス親衛隊の制服姿に呆然とするジョン。
それでも彼の良心だけは元のままであることが、たった一つの救いです。
でも、「良心」だけではなんの足しにもならないということか・・・・。
ナチスの本部には当時最新鋭の、ユダヤ人たちのデータカードが整然と並んでいます。
(今ならパソコンのデータベースで検索もあっという間なのですが。)
しかし、それでモーリスの行先だけはすぐに分かったものの、
現地へいけば、
「収容されているのは3万人で、個人を探しだすのは不可能」
とあっさりといわれてしまうのです。
そもそもそこまで厳密にデータを管理する必要もない、
人間扱いされていないということなのでしょう。
何度見ても聞いても理不尽なユダヤ人への迫害。
まさに人類の負の遺産と言うべきもので、忘れてはなりませんね。


本作はもともと舞台劇だそうですが、映画は場面の切り替えも多くて、
さほどその名残はありません。
ただ、ふとしたときにジョンの中で鳴り響く美しい音楽の描写に、
その片鱗がありますね。


無頼のヴィゴ・モーテンセンもステキですが、
こうしたインテリで線の弱い感じもなかなかですね。
と言うか、本作を見たら、こういうヴィゴ・モーテンセンのほうがホンモノに思えてしまいます。
“俳優”と言うよりも、“役者”という風格です。

「善き人」
2008年/イギリス・ドイツ/96分
監督:ビセンテ・アモリン
原作:C.P.テイラー
出演:ヴィゴ・モーテンセン、ジェイソン・アイザックス、ジョディ・ウィッテカー、スティーブン・マッキントッシュ、マーク・ストロング
歴史発掘度★★★★☆
満足度★★★★☆


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