自分の居場所を求めて
* * * * * * * *
この鳥たちが話してくれたら、
それはきっと人間に負けないくらいの冒険譚になるに違いない―。
一万キロを無着陸で飛び続けることもある、壮大なスケールの「渡り」。
案内人に導かれ、命がけで旅立つ鳥たちの足跡を訪ねて、
知床、諏訪湖、カムチャッカへ。
ひとつの生命体の、その意志の向こうにあるものとは何か。
創作の根源にあるテーマを浮き彫りにする、奇跡を見つめた旅の記録。
* * * * * * * *
梨木香歩さんの、鳥の「渡り」にまつわる、ノンフィクションエッセイ。
先の「水辺にて」という、彼女のカヤックにまつわるエッセイの姉妹編と言ってもいいかもしれません。
エッセイというよりも・・・、
本巻の解説氏の言う"ネイチャーライティング"、
はい、この言い方が一番しっくりきますね。
梨木香歩さんは、本当に自然の営みの中にいるのがお好きのようです。
鳥たちを訪ねて知床、諏訪湖、カムチャツカ・・・。
様々な鳥についての知識も、なんと豊富なこと。
正直、雀とカラスの見分けくらいしかつかない私には、
鳥の名前を挙げられてもよくわからなかったのが残念。
でも、私も嫌いではないです。
登場する鳥についてはちゃんと解説も付いているのですが、
う~ん、図説も是非つけてもらいたかった、カラーで
・・・と、残念に思いながら読んでいました。
ところが読み進むうちに、
渡り鳥のことだけではなく、
二次大戦中のアメリカ在住の日系人たちのこと、
開拓のために知床へ渡った人々のことなどに触れていきます。
そうでした、鳥だけではなく、人もまた、
自分の居場所を求めて壮大な旅をするのでした。
生物は帰りたい場所へ渡る。
自分に適した場所、自分を迎えてくれる場所。
自分が根を下ろせるかもしれない場所。
本来自分が属しているはずの場所。
還っていける場所。
たとえそこが、今生では行ったはずのない場所であっても。
本巻の解説は立教大学大学院教授、野田研一氏によるものですが、名解説です。
「他者とともに、他者の世界へ向かう試み。
それがひいては自己へ向かう試みである。」
とこの本のことを言っています。
それは上記のような文章でもうかがえるのですが、
そこが梨木香歩さんのエッセイのすばらしいところです。
だからやっぱりこの本には図解は必要ないのだな、と納得しました。
本書は鳥の図鑑ではないのですから。
・・・でも、後で図鑑で調べてみるのは悪くないですよね?
それにしても、「水辺にて」でも感じましたが、
このような自然に恵まれた北海道に住んでいるというのに、
札幌住まいの私は、ほとんど本当の北海道を知らないということに愕然としてしまいました。
恥ずかしく、残念なことです・・・。
せめてバードウォッチングくらいはじめましょうか?
ちょっと長くなりますが、梨木果歩さんの北海道の秋の森の描写。
カツラの枯葉のような甘さ、マツの類の香の清冽さ、
サケの死骸が土に還っていく寸前のような安心感、
茸やヤマブドウの実が生まれてくる、朽ちていく、分解されていく、発酵する、
それらが湿り気と、すぐにそれを相殺する乾いた風の繰り返しで、
なんとも透明感と深みのある凛とした空気を醸し出し、
何かの加減で、それが大気に紛れ消え去る前に一筋、
ふっと鼻孔をかすめることがあるのだ。
明るいもの悲しさ、と呼びたいような、秋の豊穣。
素晴らしい表現です。
私のよく知っている森が目の前にあるかのようです。
もしかすると、最近私は、彼女の物語よりも
こうしたネイチャーライティングのほうが好きかも。
「渡りの足跡」梨木香歩 新潮文庫
満足度★★★★☆
渡りの足跡 (新潮文庫) | |
梨木 香歩 | |
新潮社 |
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この鳥たちが話してくれたら、
それはきっと人間に負けないくらいの冒険譚になるに違いない―。
一万キロを無着陸で飛び続けることもある、壮大なスケールの「渡り」。
案内人に導かれ、命がけで旅立つ鳥たちの足跡を訪ねて、
知床、諏訪湖、カムチャッカへ。
ひとつの生命体の、その意志の向こうにあるものとは何か。
創作の根源にあるテーマを浮き彫りにする、奇跡を見つめた旅の記録。
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梨木香歩さんの、鳥の「渡り」にまつわる、ノンフィクションエッセイ。
先の「水辺にて」という、彼女のカヤックにまつわるエッセイの姉妹編と言ってもいいかもしれません。
エッセイというよりも・・・、
本巻の解説氏の言う"ネイチャーライティング"、
はい、この言い方が一番しっくりきますね。
梨木香歩さんは、本当に自然の営みの中にいるのがお好きのようです。
鳥たちを訪ねて知床、諏訪湖、カムチャツカ・・・。
様々な鳥についての知識も、なんと豊富なこと。
正直、雀とカラスの見分けくらいしかつかない私には、
鳥の名前を挙げられてもよくわからなかったのが残念。
でも、私も嫌いではないです。
登場する鳥についてはちゃんと解説も付いているのですが、
う~ん、図説も是非つけてもらいたかった、カラーで
・・・と、残念に思いながら読んでいました。
ところが読み進むうちに、
渡り鳥のことだけではなく、
二次大戦中のアメリカ在住の日系人たちのこと、
開拓のために知床へ渡った人々のことなどに触れていきます。
そうでした、鳥だけではなく、人もまた、
自分の居場所を求めて壮大な旅をするのでした。
生物は帰りたい場所へ渡る。
自分に適した場所、自分を迎えてくれる場所。
自分が根を下ろせるかもしれない場所。
本来自分が属しているはずの場所。
還っていける場所。
たとえそこが、今生では行ったはずのない場所であっても。
本巻の解説は立教大学大学院教授、野田研一氏によるものですが、名解説です。
「他者とともに、他者の世界へ向かう試み。
それがひいては自己へ向かう試みである。」
とこの本のことを言っています。
それは上記のような文章でもうかがえるのですが、
そこが梨木香歩さんのエッセイのすばらしいところです。
だからやっぱりこの本には図解は必要ないのだな、と納得しました。
本書は鳥の図鑑ではないのですから。
・・・でも、後で図鑑で調べてみるのは悪くないですよね?
それにしても、「水辺にて」でも感じましたが、
このような自然に恵まれた北海道に住んでいるというのに、
札幌住まいの私は、ほとんど本当の北海道を知らないということに愕然としてしまいました。
恥ずかしく、残念なことです・・・。
せめてバードウォッチングくらいはじめましょうか?
ちょっと長くなりますが、梨木果歩さんの北海道の秋の森の描写。
カツラの枯葉のような甘さ、マツの類の香の清冽さ、
サケの死骸が土に還っていく寸前のような安心感、
茸やヤマブドウの実が生まれてくる、朽ちていく、分解されていく、発酵する、
それらが湿り気と、すぐにそれを相殺する乾いた風の繰り返しで、
なんとも透明感と深みのある凛とした空気を醸し出し、
何かの加減で、それが大気に紛れ消え去る前に一筋、
ふっと鼻孔をかすめることがあるのだ。
明るいもの悲しさ、と呼びたいような、秋の豊穣。
素晴らしい表現です。
私のよく知っている森が目の前にあるかのようです。
もしかすると、最近私は、彼女の物語よりも
こうしたネイチャーライティングのほうが好きかも。
「渡りの足跡」梨木香歩 新潮文庫
満足度★★★★☆
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