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「犬のしっぽを撫でながら」 小川洋子

2009年03月05日 | 本(エッセイ)
犬のしっぽを撫でながら (集英社文庫)
小川 洋子
集英社

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「犬のしっぽを撫でながら」 小川洋子 集英社文庫

小川洋子さんのエッセイです。
小説家のエッセイはやはり読みやすく、内容も濃いので、充実しています。

まず初めの方には、『博士の愛した数式』を巡ったいろいろなことを描いています。
私は、算数は苦手・・・。
でも、この本を読んだ時に、著者小川さんは数学が得意な方かと思いました。
「世界は驚きと喜びに満ちている・・・」
こう言って、数学にまつわる話を中心に進む驚くべきストーリー。
・・・しかし小川さんは、数学が大の苦手だったとあります。
でも、わかる気もするんですね。
数学が苦手で、普段数字から縁が遠いからこそ、
数字が時として見せる神秘、美しさ、
そういうものにいっそう驚きをもって気がつくのかも。
数字は苦手ながらも、私でも、
「友愛数」などの説明を聞くと「ほう~」と思わされます。
数学のできる方は無条件に尊敬する。
この、私の生活信条は今も変わりません。


また、この本では「アンネ・フランク」のことにも触れています。
著者はアンネ・フランクの足跡をたどる旅をしたことがあるそうです。
フランクフルトの生家。
アムステルダムの隠れ家。
ポーランドのアウシュビッツ。
隠れ家へ続く薄暗い階段の一段一段に、
アウシュビッツの引き込み線に生えた小さな花の一つ一つに、
死は忍び込んでいた。
・・・と、表現しています。


たとえば、年齢を偽り、身分証明書を偽って、かろうじて生き残ったユダヤ人。
また、もしくは飛行機に子ども一人を乗せて旅をさせたばかりに
その飛行機が事故でその子を失った母親。
このようなときに、人は罪の意識にとらわれるのです。
死ぬべき自分が助かってしまった・・・、
子どもを1人で飛行機に乗せた自分のせいで子どもは死んだ・・・。
実際はその死は自分の責ではないのにもかかわらず・・・・。
死そのものを悲しむだけでは足りずに
自分に罪を着せるというフィクションの中で
更に苦しみを深めてゆく・・・。
しかし著者は、この営みは、
人間の持つ最も崇高な善の有様が表されているといいます。
自分が死者でない事実が、安堵よりも悲しみをもたらし、
悲しみに身体を浸すことで、祈りが生まれると。
深い言葉です。

また、他にはひたすら散歩を待ち望む愛犬ラブの話もあり、
(ここでようやく表題の『犬のしっぽを撫でながら』に結びつくのですが)
数の神秘、命の静謐、・・・としんみりとしたところで、
愛くるしい犬のしぐさにほっと癒されるという、心憎い配置になっています。

満足度★★★★☆



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