心がひんやりの短篇集
* * * * * * * * *
北村薫さんの短篇集。
この本のテイストは"陰"です。
ホラーというほどではありませんが、
ほんのちょっぴりの毒、心の底がひんやりとするストーリーの数々。
それも、ストーリーのラストほんの数行で、真相が読めて怖くなってくる
・・・という構図の転換がなんとも心にくいのです。
前書きで、「妊娠中の方は、読まないでください」と注釈のある
「腹中の恐怖」
腹中の恐怖と言われて思い出すのは映画「エイリアン」だったりしますが、
今作はそんな血みどろの話ではありません。
ある種の人の「念」の怖さ。
知らなければなんともないのに、知ってしまったらもう耐えられない。
そういう事ってありますよね。
表題作「元気でいてよ、R2-D2。」
R2-D2は、おなじみスターウォーズに登場するロボットですが、
今作に、彼が登場するわけではないのです。
語り手の女性が、居酒屋で飲みながら、友人に話をしている。
その彼女の語りを文章化してあるのがこのストーリー。
どうやら彼女は一人暮らしで、
自然と身の回りのモノや、ベランダの向こうの庭木などに語りかけてしまうらしいのですね。
その居酒屋においてあるコーヒーメーカーが、なんだかR2-D2に似ているので、
彼女はそのコーヒーメーカーにも語りかけてしまうのです。
彼女の語りを聞くうちに、彼女の生活感や恋愛観がわかってきて、
なんかイイなと思えてくる。
でも、最後に慄然とさせられてしまうのは、
別に殺人事件があったり、彼女が誰かに傷つけられたりするわけではないのです。
彼女が語りかけていた木のことが書かれているだけなのですが・・・。
なんて鮮烈でショッキング。
R2-D2に語りかける言葉がなぜ「元気でいてよ」なのか。
実に味わい深い作品です。
ラストの「ざくろ」は、怖いですよ。
60歳の女性のモノローグとなっていますが、
なぜか小学生の書いた文章のように平仮名交じりなのが気になってしまうのですよね。
でも、それには秘密が・・・
人の思考の不思議を思います。
「元気でいてよ、R2-D2。」北村薫 集英社文庫
満足度★★★★☆
元気でいてよ、R2-D2。 (集英社文庫) | |
北村 薫 | |
集英社 |
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北村薫さんの短篇集。
この本のテイストは"陰"です。
ホラーというほどではありませんが、
ほんのちょっぴりの毒、心の底がひんやりとするストーリーの数々。
それも、ストーリーのラストほんの数行で、真相が読めて怖くなってくる
・・・という構図の転換がなんとも心にくいのです。
前書きで、「妊娠中の方は、読まないでください」と注釈のある
「腹中の恐怖」
腹中の恐怖と言われて思い出すのは映画「エイリアン」だったりしますが、
今作はそんな血みどろの話ではありません。
ある種の人の「念」の怖さ。
知らなければなんともないのに、知ってしまったらもう耐えられない。
そういう事ってありますよね。
表題作「元気でいてよ、R2-D2。」
R2-D2は、おなじみスターウォーズに登場するロボットですが、
今作に、彼が登場するわけではないのです。
語り手の女性が、居酒屋で飲みながら、友人に話をしている。
その彼女の語りを文章化してあるのがこのストーリー。
どうやら彼女は一人暮らしで、
自然と身の回りのモノや、ベランダの向こうの庭木などに語りかけてしまうらしいのですね。
その居酒屋においてあるコーヒーメーカーが、なんだかR2-D2に似ているので、
彼女はそのコーヒーメーカーにも語りかけてしまうのです。
彼女の語りを聞くうちに、彼女の生活感や恋愛観がわかってきて、
なんかイイなと思えてくる。
でも、最後に慄然とさせられてしまうのは、
別に殺人事件があったり、彼女が誰かに傷つけられたりするわけではないのです。
彼女が語りかけていた木のことが書かれているだけなのですが・・・。
なんて鮮烈でショッキング。
R2-D2に語りかける言葉がなぜ「元気でいてよ」なのか。
実に味わい深い作品です。
ラストの「ざくろ」は、怖いですよ。
60歳の女性のモノローグとなっていますが、
なぜか小学生の書いた文章のように平仮名交じりなのが気になってしまうのですよね。
でも、それには秘密が・・・
人の思考の不思議を思います。
「元気でいてよ、R2-D2。」北村薫 集英社文庫
満足度★★★★☆
北村先生は人の心の温かさを描く作品が多いように思われるのですが、
実は、人の心の暗い部分をとてもよくご存じだからこその温かさなのかもしれないと思いました。
(私は、北村作品の中で、時と人の三部作の「スキップ」が好きなのですが、たんぽぽ様はどの作品がお好みなのでしょうか)。
「スキップ」は、三部作の一一作目ですよね。私も、なんといってもスキップの鮮烈な印象、忘れられません。
大好きです。
そのあと、他の人のまねっこみたいな作品が続きましたよね。
>人の心の暗い部分をとてもよくご存じだからこその温かさ
同感です。
結構人と人との折り合いの悪さが主題に上がることも多いですね。けれど、主人公のひたむきさ、強さに救われていく。
この短篇集の中では、やはり表題作が好きでした。
なんとも意外な結末ですが、ショッキング。このショックをショックと感じられる人と、仲良くしたいものです。
しばらく前に、「物語(小説)を読んだり、映画を観たりすることに費やす時間はない。もっと実用的な時間を過ごしたい」
というようなことを言われ、とてもショックを受けました。
40代のその女性からは、手作り作品についても、「300円で買えるような作品をわざわざ作るつもりはない」と言われたことがあります。
(たんぽぽ様のように素敵な作品は作れませんが、私も手芸が好きなのです…)
人の価値観はそれぞれですが、世の中のたくさんの物語たちが、それを聞いたらどんなに悲しいだろうと思いました。
私は、よい読み手とはいえませんが、物語が大好きです。
どんなにか物語に助けられ、導かれ、励まされたことでしょう。
たんぽぽ様のようにまっすぐに本や映画とと向き合っていらっしゃる方の存在は、私の中でとても大きいです。
こちらで、たんぽぽ様に出合えて、本当によかったと感謝しております。
>もっと実用的な時間を過ごしたい、
という方は、多くの時間をどのように過ごしているのか、興味があります。
人それぞれなので、それはそれでよし。
私は以前TVゲームに嵌って、娘たちを押しのけるようにドラクエなどやっていたこともあるのですが、ある時から、急ににその時間が無為なことに思えて、それからはほとんどやらなくなりました。でも、その面白さはわかるので、今もゲームにハマる人を責める気はありませんし、人の興味は尊重したいと思います。
けれど、考えてみたら本も映画も、人によっては無為な時間ということですね。
文学といえるほど高尚なものを読んでいるのでもなし・・・。
それでもやっぱり、パールさんと同様、私にとっては物語の中で遊ぶことが生活の一部なのだと思います。
想像力こそが、ヒトの証ですよねえ・・・。
共感いただけるパールさんの存在が、いつも私の背中を押してくれます。
こちらこそありがとうございます。