10年以上を経てもなお、心にわだかまる大きなできごと
* * * * * * * * * *
カナダ、ケベック州モントリオール郊外。
作家トーマス(ジェームズ・フランコ)は、
恋人サラ(レイチェル・マクアダムス)と共に暮らしていますが、
関係がギクシャクしてきています。
ある大雪の日、運転中、目の前に飛び出してきた何ものかに驚いて、
急ブレーキを踏むトーマス。
車を降りると、一人の少年が呆然として座り込んでいます。
少年の無事を確認したトーマスは、ホッとして少年を家まで送り届けるのですが、
戸口に現れた母親ケイト(シャルロット・ゲンズブール)は
半狂乱になって、飛び出してゆきます。
ここのシーンは予告編にもあって、母親が慌てたわけがよくわからなかったのですが、
つまり少年は二人の兄弟で、弟の方が見当たらなかったのです。
トーマスはもっと気をつけていればよかったと思い、
母親は早く子どもたちを家に入れておけばよかったと思う。
誰のせいでもない事故ではありました。
けれどもその事故が、関わる人々のその後の人生を大きく変えていきます。
ストーリーは、この事故から12年にわたって彼らの人生を追っていきます。
トーマスはあくまでも事故ということで、罪には問われなかったのですが、
一人の子どもを死なせてしまった罪悪感に、ぼろぼろになってしまいます。
無事だった少年を母親のもとに届けるまでのほんの一時、
彼は少年を肩車して恋人に電話をします。
彼女・サラは結婚して子供がほしいと思っていた。
けれど、トーマスは子供はいらないと思っていたのですね、それまで。
でも、こうして少年と共に歩いているうちにふと、
こういうのも悪くない、と思えたのです。
だから、彼女にはもう一度前向きに話し合おうと電話をしたのでした。
しかし、その直後に、
その少しだけバラ色の人生設計がガラガラと崩れ落ちてしまうのです。
後になると非常に切ないシーンです。
罪悪感、喪失感、空虚感・・・
そのようなもので落ち込んでいるトーマスが、安らいだ気持ちになれたのは、
その後、再びケイトの家を訪れたときでした。
子を亡くした母は、もちろんトーマス以上の苦しみを背負っている。
でも、この二人は苦しみを共感することで互いに癒やされる気がするのですね。
言葉にしなくても分かり合える感情。
話し込んでいるうちに、すっかりくつろいだように寝込んで、
朝を迎えてしまった自分をいぶかしがるトーマスがいます。
だからといって、ここで安っぽい恋愛感情に走らないところもまた良いのです。
麻薬に溺れ、身を持ち崩したトーマスが立ち直ってからは、
彼の小説が売れ始めます。
皮肉なことに、彼の苦痛の体験が、小説家としての彼を一段階上へ引き上げたのです。
そして12年の後、小説家として成功しているトーマスの元へ、
あの無事だった方の少年が訪ねてきます。
すっかり成長したその彼の思いとは・・・。
少年にとってまだ幼かったあの日の記憶は
はっきりとしたものではないようなのですが、
トーマスに肩車してもらったことは覚えていたようなのです。
というのも、ここのうちは母子家庭だったのですね。
父親に肩車してもらうことのなかった彼にとっては、
トーマスに父親のような親しみを感じたのでしょう。
そうした彼にとってのトーマスへの思いはラスト近くまで伏せられたまま。
事故から10年以上を経ても、
なお人の心の中では大きく位置を占めることであったりもするわけです。
セリフなどで、詳しく語られたりはしないのですが、
登場人物それぞれの複雑な思いがとてもよく伝わる、優れた作品だと思います。
「誰のせいでもない」
2015年/ドイツ・カナダ・フランス・スウェーデン、ノルウェー/118分
監督:ビム・ベンダース
出演:ジェームズ・フランコ、シャルロット・ゲンズブール、レイチェル・マクアダムス、マリ=ジョゼ・クローズ、ロバート・ネイラー
人の心の複雑さ★★★★☆
満足度★★★★☆
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カナダ、ケベック州モントリオール郊外。
作家トーマス(ジェームズ・フランコ)は、
恋人サラ(レイチェル・マクアダムス)と共に暮らしていますが、
関係がギクシャクしてきています。
ある大雪の日、運転中、目の前に飛び出してきた何ものかに驚いて、
急ブレーキを踏むトーマス。
車を降りると、一人の少年が呆然として座り込んでいます。
少年の無事を確認したトーマスは、ホッとして少年を家まで送り届けるのですが、
戸口に現れた母親ケイト(シャルロット・ゲンズブール)は
半狂乱になって、飛び出してゆきます。
ここのシーンは予告編にもあって、母親が慌てたわけがよくわからなかったのですが、
つまり少年は二人の兄弟で、弟の方が見当たらなかったのです。
トーマスはもっと気をつけていればよかったと思い、
母親は早く子どもたちを家に入れておけばよかったと思う。
誰のせいでもない事故ではありました。
けれどもその事故が、関わる人々のその後の人生を大きく変えていきます。
ストーリーは、この事故から12年にわたって彼らの人生を追っていきます。
トーマスはあくまでも事故ということで、罪には問われなかったのですが、
一人の子どもを死なせてしまった罪悪感に、ぼろぼろになってしまいます。
無事だった少年を母親のもとに届けるまでのほんの一時、
彼は少年を肩車して恋人に電話をします。
彼女・サラは結婚して子供がほしいと思っていた。
けれど、トーマスは子供はいらないと思っていたのですね、それまで。
でも、こうして少年と共に歩いているうちにふと、
こういうのも悪くない、と思えたのです。
だから、彼女にはもう一度前向きに話し合おうと電話をしたのでした。
しかし、その直後に、
その少しだけバラ色の人生設計がガラガラと崩れ落ちてしまうのです。
後になると非常に切ないシーンです。
罪悪感、喪失感、空虚感・・・
そのようなもので落ち込んでいるトーマスが、安らいだ気持ちになれたのは、
その後、再びケイトの家を訪れたときでした。
子を亡くした母は、もちろんトーマス以上の苦しみを背負っている。
でも、この二人は苦しみを共感することで互いに癒やされる気がするのですね。
言葉にしなくても分かり合える感情。
話し込んでいるうちに、すっかりくつろいだように寝込んで、
朝を迎えてしまった自分をいぶかしがるトーマスがいます。
だからといって、ここで安っぽい恋愛感情に走らないところもまた良いのです。
麻薬に溺れ、身を持ち崩したトーマスが立ち直ってからは、
彼の小説が売れ始めます。
皮肉なことに、彼の苦痛の体験が、小説家としての彼を一段階上へ引き上げたのです。
そして12年の後、小説家として成功しているトーマスの元へ、
あの無事だった方の少年が訪ねてきます。
すっかり成長したその彼の思いとは・・・。
少年にとってまだ幼かったあの日の記憶は
はっきりとしたものではないようなのですが、
トーマスに肩車してもらったことは覚えていたようなのです。
というのも、ここのうちは母子家庭だったのですね。
父親に肩車してもらうことのなかった彼にとっては、
トーマスに父親のような親しみを感じたのでしょう。
そうした彼にとってのトーマスへの思いはラスト近くまで伏せられたまま。
事故から10年以上を経ても、
なお人の心の中では大きく位置を占めることであったりもするわけです。
セリフなどで、詳しく語られたりはしないのですが、
登場人物それぞれの複雑な思いがとてもよく伝わる、優れた作品だと思います。
「誰のせいでもない」
2015年/ドイツ・カナダ・フランス・スウェーデン、ノルウェー/118分
監督:ビム・ベンダース
出演:ジェームズ・フランコ、シャルロット・ゲンズブール、レイチェル・マクアダムス、マリ=ジョゼ・クローズ、ロバート・ネイラー
人の心の複雑さ★★★★☆
満足度★★★★☆
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