映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「インド倶楽部の謎」有栖川有栖

2018年10月12日 | 本(ミステリ)

久々の国名シリーズ

インド倶楽部の謎 (講談社ノベルス)
有栖川 有栖
講談社

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前世から自分が死ぬ日まで―
すべての運命が予言され記されているというインドに伝わる「アガスティアの葉」。
この神秘に触れようと、神戸の異人館街の外れにある屋敷に
"インド倶楽部"のメンバー七人が集まった。
その数日後、イベントに立ち会った者が相次いで殺される。
まさかその死は予言されていたのか!?
捜査をはじめた臨床犯罪学者の火村英生と推理作家の有栖川有栖は、
謎に包まれた例会と連続殺人事件の関係に迫っていく!

* * * * * * * * * *

待ってました、火村英生シリーズ新刊は、久々の国名シリーズでもあります。
ここに出てくるのが「アガスティアの葉」。
そういえば以前話題になって流行ったことがあったのでは。
個人個人のすべての運命が予言され記されているというインドに伝わる「アガスティアの葉」。
根っからのインド好きが集まる「インド倶楽部」で、
この度その運命のお告げを聞こうという会が開かれたのですが、
その後、この会に出席したうちの二人が他殺死体で発見される。
そのうちの一人は予言された日付と同日に殺されたらしい・・・?
この謎は・・・?
というのは、この部分に限って言えば拍子抜けするものなんですけどね。


20数年前に山奥で起こった土砂崩れのときの事件の話が興味深い一作でした。
ただ、作中に多く出てくる「前世」の話は、私には全く興味をそがれる部分でした。
そもそも興味が持てず、全く適当に読み流していたら、
しかしそれがある程度真相に関係するというのでガッカリ・・・。
一人くらい「私の前世がどうのこうの・・・」という人が現れるくらいならいいのですが、
皆が同時代・同地方のインドに生きていた知り合い同士・・・というのは無茶苦茶すぎる気がします。
もちろん、火村とアリスはそれを信じているわけではないのですけれど。
あくまでもそれを信じている人々がいる、という前提での推理です。

いつもながら火村とアリスの言葉のやり取りが洒落ていて、読んでいてもついニヤニヤ。
火村の推理をアリスの手帳にメモしてもらって、
後に答え合わせをするなどという下りはナイスでした。
ある人に「二人はソウルメイト」だなどと言われて、二人は打ち消すわけですが、
それはやはりテレなんですね。
「せいぜい俺たちはカレーメイトだ」などという。
こういう二人の距離感が大好きです。


「インド倶楽部の謎」有栖川有栖 講談社ノベルス
満足度★★★.5


7月7日、晴れ

2018年10月11日 | 映画(さ行)

ドリカムの音楽とともに

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本作は、TVでかもしれないけれど、ずーっと以前に見たことがある。
そんな懐かしさで、つい見てしまいました。
1996年作品。


自動車メーカーに勤めるサラリーマン・健太(萩原聖人)が渓流釣りをしていると、
キラキラした服を着た風変わりな美少女と出会います。
健太は東京へ戻ってから、実は彼女が世界的なアーティスト、望月ひなただったことを知って驚きます。
後日再会した二人は幾度か会ううちに次第に惹かれ合っていきます。
7月7日が誕生日のひなたは、まだ一度も天の川を見たことがないというので、
健太は仲間とのキャンプにひなたを誘い、
その夜二人で美しい夜空にくっきりと横たわる天の川を見るのです。
そして、次の7月7日に、二人できっとまた天の川を見ようと約束します。
そんなとき、健太の会社で新発売する車のCMに、ひなたの出演を依頼したいという話が出て・・・。

観月ありささんの絶頂期といいますか、可愛らしいですよねえ・・・。
萩原聖人さんも若い!!
そして散りばめられるドリームズ・カム・トゥルーの音楽。
なんだかすっかり甘酸っぱい気持ちになってしまいます。
そしてラストは7月7日の夜の奇跡!!


7月7日が誕生日・・・。
スズメとリツと同じだわ・・・などと思いつつ。
しかし、都会の明かりが全て消えれば、天の川が見えるという認識は正しい!!
見たのですよ、私はあの札幌の大停電の夜のすっばらしい星空を・・・。
年に一度くらい都会の明かりを落とす日があるといいかもしれません。
確か札幌でも「キャンドルナイト」とか言う取り組みがあったような・・・。
私は真面目に取り組んだことがなかったですが。
でも徹底しないと効果ないですしね・・・。


<WOWOW視聴にて>
「7月7日、晴れ」
1996年/日本/109分
監督:本広克行
出演:萩原聖人、観月ありさ、田中律子、升毅、うじきつよし
ロマンス度★★★★★
満足度★★★★☆


かごの中の瞳

2018年10月10日 | 映画(か行)

妻を支配下に置けなくなった時・・・

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夫ジェームズ(ジェイソン・クラーク)の赴任先、タイのバンコクで
穏やかな結婚生活を送るジーナ(ブレイク・ライブリー)。
彼女は子供の頃の交通事故で失明していたのですが、
この度、角膜移植により、片方の視力を取り戻すことになったのです。
目が見えるようになったジーナは、これまで眠っていた好奇心や冒険心が目覚めていきます。
夫はそのような妻の変化に戸惑い、そしてまた逆に疎ましく感じるようになっていきますが・・・

妻と夫の心理サスペンス。
ジェームズは、真面目で面白みのない男。
・・・しかし善良とは言い難いところがあります。
街なかで、視覚障害者である妻からしばし距離をとって、
妻の困っている様子を眺めていたりすることもありました。
彼は妻を自分の手中において支配することで自分を満足させていたように見受けられるのです。
傍目には思いやりに溢れた優しい夫ではあり、ジーナもそのことに満足していたのです。
その時までは。



ところが視力を取り戻したジーナは、最初に夫の顔を見て思う。
想像していたのとはイメージが違うと・・・。
つまりもっとイケてる感じを期待していたわけですが、無論そんなことは口に出しません。
けれど、ジェームズは妻の本当の性格を知らなかったのです。
本来奔放で冒険心に富んでいる。
特に性的嗜好はかなりカゲキ。
服装も派手になってイキイキし、どんどん美しくなっていく妻。
ジェームズは妻に対しての優位性を失い、劣等感と置いていかれるような焦燥感を持ちはじめて・・・。
踏み出してはいけない方向に進み始めてしまいます。

見くびっていた女がどんどん大きくなって夫を飲み込んでいく・・・、
まあ女性の立場としては胸のすく作品ではあります。
こんな感情のひりひりした夫婦関係はイヤですけれど。
サスペンスとしてはなかなか良かったのでは。


 

<ディノスシネマズにて>
「カゴの中の瞳」
2016年/アメリカ/109分
監督:マーク・フォースター
出演:ブレイク・ライブリー、ジェイソン・クラーク、アナ・オライリー、イボンヌ・ストラホフスキー、ウェス・チャサム

夫婦のヒリヒリ度★★★★☆
サスペンス度★★★★☆
満足度★★★★☆


「王とサーカス」米澤穂信

2018年10月09日 | 本(ミステリ)

報道の意味を問いながら

王とサーカス (創元推理文庫)
米澤 穂信
東京創元社

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海外旅行特集の仕事を受け、太刀洗万智はネパールに向かった。
現地で知り合った少年にガイドを頼み、穏やかな時間を過ごそうとしていた矢先、
王宮で国王殺害事件が勃発する。
太刀洗は早速取材を開始したが、そんな彼女を嘲笑うかのように、
彼女の前にはひとつの死体が転がり…
2001年に実際に起きた王宮事件を取り込んで描いた壮大なフィクション、
米澤ミステリの記念碑的傑作。
『このミステリーがすごい!2016年版』(宝島社)
"週刊文春"2015年ミステリーベスト10(文藝春秋)
「ミステリが読みたい!2016年版」(早川書房)
第1位。

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各ミステリ大賞総なめの本作、文庫化を待っていてやっと読むことができました。
私、太刀洗万智のシリーズはこれまで読んだことがありません・・・、
と思ったら、ず~っと以前に読んだ「さよなら妖精」に、
女子高校生として初登場していたのですって・・・。
覚えてませんでした・・・。
その女子高生が、しっかり成長して、今はフリーのジャーナリスト。
この度は仕事のため向かった先、ネパールで事件に遭います。
そこで起こった信じ難いような王宮の大量殺害事件・・・。
ですが、これは実際にあったことなんですね。
日本でもそのときには報道があったのかもしれませんが、私は全く覚えていません。
しかし、私のこうした他国の出来事への関心の薄さは、
本作のテーマに若干触れることでもあるわけだ・・・と、ヒヤリとしました。


それは実際に起った出来事なので、ここで太刀洗万智がその事件の謎解きをするわけではありません。
このことに関係していると思われる一人の軍人の死が問題です。
事件の詳細はさておいて、ここで太刀洗は、「報道」の本質を疑い揺らいでしまうのです。
それこそはこの亡くなった准尉が言っていた言葉なのですが、

「自分に降りかかることのない惨劇はこの上なく刺激的な娯楽だ。
意表を突くようなものであればなお申し分ない。」

ひどい事件の報道は、それが悲惨であればあるほど、関心を呼ぶ。
まるで見世物、サーカスのように、というのですね。
そして彼は更に言う。

「タチアライ、お前はサーカスの座長だ。
お前の書くものはサーカスの出し物だ。
我々の王の死は、とっておきのメインイベントというわけだ。」

その時、核心を突かれたようで返す言葉がなかった太刀洗。
この自分自身の仕事へのゆらぎを、どのようにして納得していくのか、
そこが読みどころです。


ここに登場するガイド役の少年サガルが生き生きとしてたくましく、ストーリーに良いアクセントを加えている
・・・などとのんきに思っていると、足元を救われます。
貧しい国の子どもたちは全て純朴などととんでもない。
生きるためには、綺麗事など言っていられないのだという厳しさは、
やはりこの著者のものですね。
各ミステリ大賞総なめというのも納得、読み応えたっぷりの一作でした。


「王とサーカス」米澤穂信 創元推理文庫
満足度★★★★★


あしたは最高のはじまり

2018年10月08日 | 映画(あ行)

父と娘の絆は母よりも強し

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南仏コートダジュール。
自由気ままに独身生活を送るサミュエル(オマール・シー)。
そこへ、かつて関係を持った女性クリスティンが赤ん坊を連れてやってきます。
彼女はこの子はサミュエルの娘だといって、サムエルに押し付けて、そのまま帰ってしまうのです。

サミュエルは慌てて彼女を追ってロンドンへ飛びますが、クリスティンは見つからない。
言葉も通じず、お金もなく、途方に暮れるサミュエル。
そんなとき、地下鉄駅で知り合ったゲイのベルニーに助けられます。

サミュエルはそのままスタントマンの仕事を得て、
ロンドンでわが娘グロリアと、ベルニー、3人で暮らすことに。
さてその8年後、行方もわからないままだったクリスティンが突然尋ねてきます・・・。

サミュエルは、グロリアに母から捨てられたと言うことはできないと思い、
「ママは諜報員で、世界中を駆け回っていて帰る暇がない」と言い聞かせ、
自身が母親に成り代わってグロリアにメールを送り続けていたのです。
愛情いっぱいで、明るくて、なんて素敵なパパなんでしょう!!
おまけにママ代わりのベルニーもいて、ここまではほとんど完璧な“家族”だったのに・・・。
今更のこのこ出て来る母親は、それだけで失格とも思えるのですが、
最後にはもっとショッキングな事実が・・・。
サミュエルにとっても、認めがたいショッキングな出来事でした・・・。



それはさておき、彼女がサミュエルのところに子供を預けに来たというのは
最高に正しい判断であったと言うべきでしょう。
へたをすれば施設行きということだってあったのに・・・。
サミュエルがお人好しだということも、お見通し・・・

オマール・シーはいかつい黒人男性ながら、超明るくて、どこかほっこり。
いいですよねえ。
つい出演作品を見たくなってしまいます。
本作は、まあありがちなストーリーではありますが、
サムエルとグロリアの仲の良さが、並の親子の水準をずっと超えていて、
本当に見ていて楽しくなってしまいます。



冒頭、サミュエルが子供の頃に、
父親から「男としての勇気」を試されて、断崖から海へ飛び込むようにと言われるシーンがあります。
そのことがサミュエルのスタントマンとしての職業を持つことにつながるのです。
でも実はそのことには裏があって・・・という運びになるところもナイスでした。

あしたは最高のはじまり [DVD]
オマール・シー,クレマンス・ポエジー,アントワーヌ・ベルトラン
KADOKAWA / 角川書店



<WOWOW視聴にて>
「あしたは最高のはじまり」
2016年/フランス・イギリス/117分
監督:ユーゴ・ジェラン
出演:オマール・シー、クレマンス・ポエジー、アントワーヌ・ベルトラン、グロリア・コルマトン、アシュリー・ウォルターズ
父娘の愛情度★★★★★
満足度★★★★☆

 


トレイン・ミッション

2018年10月06日 | 映画(た行)

いつもの列車が、非日常の場に

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老いてなおアクションに挑む、リーアム・ニーソンの心意気に拍手!!。


10年努めた会社から突然解雇宣言を受けた60歳保険セールスマン、マイケル(リーアム・ニーソン)。
家のローンや息子の教育費がまだまだかかるのに・・・、
失意のまま、いつもの時間の帰宅列車に乗り込んだマイケル。
すると、見知らぬ女性に話しかけられます。

この列車に乗っているある一人の人物を見つけ出せば、多額の報酬を受け取ることができる、というのです。
半信半疑のマイケルですが、やがて妻が人質に取られていて、
この話は断ることができないことだとわかります。
実はマイケルは以前は警官。
どうもそのあたりでこのような話に巻き込まれたようなのです。
そしてやがて、正体不明の一味が探している人物というのは、
ある事件の重要な目撃者であることを知ります。
この人物を彼らに知られればきっと殺されてしまうだろう・・・。
マイケルの孤立無援の悪戦苦闘が始まります。

本作のオープニングは、毎日毎日決まったことが繰り返されるマイケルの日常。
しかし、妻や家族ともうまく行っていて、満たされていることが伺えます。
なかなかおしゃれな物語の始まり。
しかし、その日はそれが一転して、非日常へとまっしぐらとなるわけですが。
その後は、殆どが列車の中のシーンです。



マイケルは毎日仕事で郊外の自宅からニューヨークまで、同じ時間の列車で往復をしているのです。
そのため、列車内ではすっかり顔なじみの人もいて、車掌などとも気安く挨拶を交わします。
そんな日常の場が、一転して緊張の場に。
誰が目指す人物なのか。
また誰が内通者なのか。
ときには列車外に踏み出すまでのハラハラシーンあり。
そして暴走する列車の恐怖。
大事故が起こって、やっとそれが収まったかと思えばまた一波乱。
スリルたっぷり、楽しめる一作でした。



仕事をクビになったマイケルのその後の生活はどうするのか・・・
という心配の答えもちゃんと最後にありました!!

トレイン・ミッション DVD
リーアム・ニーソン
ポニーキャニオン



<J-COMオンデマンドにて>
「トレイン・ミッション」
2018年/アメリカ・イギリス/105分
監督:ジャウム・コレット=セラ
出演:リーアム・ニーソン、ベラ・ファーミガ、パトリック・ウィルソン、サム・ニール、エリザベス・マクガバン

ノンストップサスペンス度★★★★☆
裏切り度★★★★★
満足度★★★★☆


「マザリング・サンデー」グレアム・スウィフト

2018年10月05日 | 本(その他)

生涯忘れられない、その日

マザリング・サンデー (新潮クレスト・ブックス)
真野 泰
新潮社

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メイドに許された年に一度の里帰りの日、
ジェーンは生涯忘れられない悦びと喪失を味わった。
平易な言葉で巧緻に世界を描き出す、ブッカー賞作家の新たな代表作。
2017年ホーソーンデン賞受賞作。

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新聞に出ていた書評に心惹かれて読んでみました。
私には久しぶりの翻訳もの。
だがしかし、本の海の広大さ・深渊さを改めて思い知りました。
私の知らないところになんてすごいものがあるのでしょう。
そういう世界の広がりを知ると、なんだかクラクラしてしまいます・・・。

冒頭、お屋敷に住む若い男性の部屋で、昼日中、素っ裸で過ごす男女、
というところからストーリーは始まります。
まずここから意表を突くわけですが。


マザリング・サンデーというのは、年に一度だけメイドたちがお里帰りを許される日。
1924年3月30日。
3月というのに6月のように好天で暖かいその日がこの年のマザリング・サンデーでした。
メイドのジェーンは孤児で帰るところがなく、どうして過ごそうかと思っていたのですが、
かねてから懇ろな仲のお隣の屋敷の坊っちゃん・ポールから、
今日は屋敷に誰もいなくなるので、来るようにと電話を受けるのです。
これまでの密会は野外とか馬小屋などで、彼の屋敷になど入ったこともなかった。
でも、彼は正面玄関を開けて彼女を迎え入れたのです。
通常メイドが正面の玄関から出入りすることなどありません。
そしてポールは、自室に彼女を招き入れ、
ふたりとも一糸まとわぬ姿となって、性交後も、ぼんやりとそのまま時を過ごしていたのです。
しかし、ポールには婚約者がいて、二週間後に結婚式が予定されている。
この日もポールは婚約者と会うため、この後出かけなければならないことになっているのですが、
一向に急ぐ様子がない。
ジェーンは裸体のまま、のんびりと身支度するポールをじっと観察しています。


この素晴らしく印象的なシーンは、
実はジェーンにとって生涯忘れるとこのない重要な意味のある日になるのです。
こんなシーンは今ならどこにでもありそうな光景ではありますね。
でも1924年、というところが重要です。
まだ英国では身分差ががっしりと根付いていて、
メイドが屋敷の坊っちゃんの部屋で、ともに裸体で過ごすなどということはまず考えられなかった・・・。
ほんの100年ばかり前ですが、そういう時代。


二人がともに裸体というのは、その時、身分差はなかったということなんですね。
ただの男と女でいる時間。
ポールはいよいよ出かけてしまい、その後しばらくジェーンは裸体のまま屋敷の中を歩き回ったりします。
その時の彼女は素晴らしく自由。
自分の身の上もわすれ、何ものにも縛られない一人の「人」として彼女はそこにいた。
この体験が、その後のジェーンの人生に大きく影響するのです。
それは他の多くの女性達が社会へ出て行くようになることと重なり合うわけでもありますが、
ジェーンの道は抜きん出て特異なのであります。


この日がジェーンにとって忘れられない日となる理由は実はもう一つあるのですが、
そこのネタバラシはやめにしておきましょう。
ポールの心境に、本作はあえて触れていないわけですが、
想像するとコレはかなり切ない・・・。
いやいや、実はそんなロマンチックなものではないのかもしれないですけれど。
そこが明かされないところが、なんとも深い。
いい本でした。

図書館蔵書にて
「マザリング・サンデー」グレアム・スウィフト 新潮クレストブックス
満足度★★★★★


クリミナル・タウン

2018年10月04日 | 映画(か行)

街ぐるみの巨悪の隠蔽・・・ではなかった。

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舞台はワシントンD.C.
アナログを愛するさえない高校生アディソン(アンセル・エルゴート)は、
幼馴染のフィービー(クロエ・グレース・モレッツ)との初体験に成功。
ちょうどそんなとき、親友のケヴィンがバイト先のカフェで射殺されるという事件が起きます。

その事件は、不良の黒人少年がギャング同士の抗争に巻き込まれただけとして
おざなりの捜査しかなされません。
でもケヴィンのことをよく知るアディソンは納得できず、
フィービーとともに真相を解明しようとします。
ところが、そのことに町の人々は全く協力的ではない・・・。

私、本作の予告編を見たときに、街中が何かを隠蔽するために真実を隠し、
捜査をやめさせようとしているのだと思ってしまいました。
・・・少なくとも予告編ではそういう描き方をしていたように思えたのですね。
ところが実際はそうではありませんでした。
このワシントンの街ではこんな事件などほとんど日常茶飯事で、
人々はすっかり反応が鈍くなってしまっているのです。
警察ならなおさらのこと・・・。
だから高校の級友たちも一応のショックを受けるのだけれど、すぐに日常に戻っていきます。
そんな中で、アディソンだけがしつこくこだわり
根掘り葉掘り人から何かを聞き出そうとする。
・・・まあ、周りからすればウザいやつで、大人たちからすれば、危険なマネ、ということなります。
非協力的というのはそういうこと。



しかし、実のところ、街中が何かの隠蔽を図っていた・・・という話のほうが面白かったと思う。
本作は結局、そうしたサスペンスとか謎解きめいたものはなくて、
アディソンが特別な推理をしたわけでもない。
事件の真相というのも全く意外なものではなかった・・・。
というか、裏の裏は表・・・?



「なにこれ?」というのが、見終わった私の偽らざる感想。
日本ではよくあるけれど、ハリウッドでもやっぱりあるんだ、アイドル映画・・・。
確かに、アンセル・エルゴートとクロエ・グレース・モレッツは初々しくて可愛かったけどさ・・・。

<ディノスシネマズにて>
「クリミナル・タウン」
2017年/アメリカ/86分
監督:サーシャ・ガバシ
原作:サム・マンソン
出演:アンセル・エルゴート、クロエ・グレース・モレッツ、デビッド・ストラザーン、キャサリン・キーナー
サスペンス度★★☆☆☆
満足度★★☆☆☆

 


ビジランテ

2018年10月03日 | 映画(は行)

“男”が何かを守ろうとする物語

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埼玉県の地方都市。
父親に暴力を受けていた3人の兄弟が登場します。
長男一郎(大森南朋)は、高校時代に家を飛び出して、以来音信不通。
次男二郎(鈴木浩介)は、父のあとをついで政治家の道へ。現在市議会議員。
三男三郎(桐谷健太)は、デリヘルの雇われ店長。
さて、物語は問題の父親が亡くなったところから。
30年ぶりに失踪していた一郎が戻ってくるのです。
折しも、父が所有していた土地がショッピングモールの予定地となっており、
土地を相続した次郎が、その土地を提供する手はずとなっていたのです。
ところが、一郎が土地を相続するとの父親の念書を持っており、
土地は絶対に売らないと宣言。
そのため、事態は悲惨な方向へ進んでいきます・・・。

二郎は、市の有力者から土地を相続するようにと圧力をかけられています。
これに失敗すれば、出世も見込めないし、現在の地位も危ない。
三郎はデリヘルの元締めのヤクザから、一郎に土地を手放すよう説得するように、と脅迫され、
デリヘル嬢を人質にまで取られてしまうのです。
ここに登場するヤクザは実に凶暴で、思わず目をそむけたくなる、
というか実際にそむけてしまうシーン多々・・・。
きゃー、イタイ・・・。

さて、本作の題名「ビジランテ」はあまり耳慣れないのですが、
「自警団」という意味。
法や正義が及ばない世界で、大切なものを守り抜く集団。
作中では二郎がボランティアで街の治安のために自警団に所属しています。
それに関連しての題名なのですが、
本意は、この兄弟それぞれの「守るべきもの」のことなのだろうと想像できます。



一郎は、あんなに反発していた父親で、しかも30年も離れていた家族であるにもかかわらず、
土地を守り抜くことに命をかける。
この人は多分に暴力傾向がある人で、嫌いぬいた父親に実は一番良く似ているのです。



二郎は、現在の地位と家族を守ることに命をかける。
特に最後のスピーチのシーンは壮絶なものがありました・・・。
こういう固執の仕方もありか・・・。



そして三郎は、こんなしようもない仕事ではありますが、
仕事に対する責任感というかデリヘル嬢に対する愛があるのです。
一つの部屋で雑魚寝する彼女たちを、彼は家族のように思っているのかもしれない。
それだから、彼は彼女たちを守ろうと、命をかけるのです。



そのやり方は三者三様で、実際に命を落としたり、そうではなかったり・・・。
男たちの、なにかを守ろうとする物語・・・。
壮絶です・・・。
しかしどこか自分の「メンツ」のための悪戦苦闘にも思えて、物悲しくもあります。
少なくとも女の物語ではないですね・・・。

ビジランテ [DVD]
大森南朋,鈴木浩介,桐谷健太
TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)



<WOWOW視聴にて>
「ビジランテ」
2017年/日本/125分
監督・脚本:入江悠
出演:大森南朋、鈴木浩介、桐谷健太、篠田麻里子、嶋田久作

暴力度★★★★★
満足度★★★★☆


「ツバキ文具店」小川糸

2018年10月02日 | 本(その他)

今だからこそ“手紙”

ツバキ文具店 (幻冬舎文庫)
小川 糸
幻冬舎

* * * * * * * * * *

鎌倉で小さな文具店を営むかたわら、手紙の代書を請け負う鳩子。
今日も風変わりな依頼が舞い込みます。
友人への絶縁状、借金のお断り、天国からの手紙…。
身近だからこそ伝えられない依頼者の心に寄り添ううち、
仲違いしたまま逝ってしまった祖母への想いに気づいていく。
大切な人への想い、「ツバキ文具店」があなたに代わってお届けします。

* * * * * * * * * *

鎌倉で小さな文具店を営み、時には手紙の代書を請け負うという
通称ポッポこと、鳩子。
その彼女の物語。


今や、個人の書店も珍しいですが、文具店というのも珍しいですよね。
私が子供の頃には学校のそばに必ず文具店があったような気がしますが、
今やちょっとした文具ならコンビニかスーパーで用が足りる・・・。
それに加えて、手紙の代書と来たら・・・。
今どきそんな商売があるのか・・・と思うわけですが、
でも本作を読むと素晴らしく魅力的な商売に思えます。
昨今、まともに手紙をかくことなどないので、
だからこそ今、実は貴重な仕事だなあ・・・と思えます。
そしてまた、古都鎌倉ならではだなあ・・・と。


ポッポはこの店の先代である祖母に赤ん坊の頃から育てられたのですが、
優しくしてもらった記憶が全然ありません。
小さい頃からしつけが厳しく、そして、
代書屋としての訓練である書道を徹底して仕込まれてきたのです。
彼女が幼い頃はそれが普通だと思っていたのですが、
長ずるに従い、コレは普通ではないと気づいていき、
高校生の時には反抗心一杯で立派なヤンキーに。
あくまでも祖母に反抗する彼女は、その後海外で放浪生活をすることになるのですが、
やがて祖母が亡くなり、この地に戻ってきたのです。
しかし、幼い頃から祖母に叩き込まれた技が、ここで役に立った。
ポッポは祖母の後をついで文具店を再開し、代書の仕事も請け負うことに・・・、
というのが、本作が始まる前の経緯です。
そして、ご近所や代書の依頼に来る様々な人と触れ合ううちに、
次第に祖母の気持ちを理解していく・・・。


ほんのりと温かみがあって、ユーモアにくるまれてもいる、
こういう物語、いいですよね~。
大好きです。
それにしても代書とは言いながら、「手紙」の力にあらためて驚かされます。
ポッポは一通の手紙に誠心誠意向かい合います。
手紙の内容や差出人に合わせて用紙を選び、筆記具を選び、
封筒、切手にまで配慮します。
こんなふうにしたためられた手紙に、心が通じないわけがない。
こんな手紙を(できれば絶好状でなくて)受け取ってみたいものです。


本作の登場人物たちの名前が、それぞれニックネームになっているのですが、
これがとてもイメージしやすくて素敵です。
隣人のおしゃれなおばさまは、れっきとした日本人だけれど「バーバラ」さん。
ちょっといかつい感じのオジサマには「男爵」。
小学校教師の女性に「パンティ」とはびっくりですが、そのワケを聞けば納得。
そして終盤にはラブストーリー!!にまでなっていって、なんともウレシイ読後感。
素敵でした。


「海街ダイアリー」や本作などを読むと、鎌倉に住んでみたくなりますね。


それで本作の続編である「キラキラ共和国」がとっくに出ていて、
すご~く読みたいのですが、図書館予約より文庫化を待ったほうが早そうです・・・。

「ツバキ文具店」小川糸 幻冬舎文庫
満足度★★★★★