映画と本の『たんぽぽ館』

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「王とサーカス」米澤穂信

2018年10月09日 | 本(ミステリ)

報道の意味を問いながら

王とサーカス (創元推理文庫)
米澤 穂信
東京創元社

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海外旅行特集の仕事を受け、太刀洗万智はネパールに向かった。
現地で知り合った少年にガイドを頼み、穏やかな時間を過ごそうとしていた矢先、
王宮で国王殺害事件が勃発する。
太刀洗は早速取材を開始したが、そんな彼女を嘲笑うかのように、
彼女の前にはひとつの死体が転がり…
2001年に実際に起きた王宮事件を取り込んで描いた壮大なフィクション、
米澤ミステリの記念碑的傑作。
『このミステリーがすごい!2016年版』(宝島社)
"週刊文春"2015年ミステリーベスト10(文藝春秋)
「ミステリが読みたい!2016年版」(早川書房)
第1位。

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各ミステリ大賞総なめの本作、文庫化を待っていてやっと読むことができました。
私、太刀洗万智のシリーズはこれまで読んだことがありません・・・、
と思ったら、ず~っと以前に読んだ「さよなら妖精」に、
女子高校生として初登場していたのですって・・・。
覚えてませんでした・・・。
その女子高生が、しっかり成長して、今はフリーのジャーナリスト。
この度は仕事のため向かった先、ネパールで事件に遭います。
そこで起こった信じ難いような王宮の大量殺害事件・・・。
ですが、これは実際にあったことなんですね。
日本でもそのときには報道があったのかもしれませんが、私は全く覚えていません。
しかし、私のこうした他国の出来事への関心の薄さは、
本作のテーマに若干触れることでもあるわけだ・・・と、ヒヤリとしました。


それは実際に起った出来事なので、ここで太刀洗万智がその事件の謎解きをするわけではありません。
このことに関係していると思われる一人の軍人の死が問題です。
事件の詳細はさておいて、ここで太刀洗は、「報道」の本質を疑い揺らいでしまうのです。
それこそはこの亡くなった准尉が言っていた言葉なのですが、

「自分に降りかかることのない惨劇はこの上なく刺激的な娯楽だ。
意表を突くようなものであればなお申し分ない。」

ひどい事件の報道は、それが悲惨であればあるほど、関心を呼ぶ。
まるで見世物、サーカスのように、というのですね。
そして彼は更に言う。

「タチアライ、お前はサーカスの座長だ。
お前の書くものはサーカスの出し物だ。
我々の王の死は、とっておきのメインイベントというわけだ。」

その時、核心を突かれたようで返す言葉がなかった太刀洗。
この自分自身の仕事へのゆらぎを、どのようにして納得していくのか、
そこが読みどころです。


ここに登場するガイド役の少年サガルが生き生きとしてたくましく、ストーリーに良いアクセントを加えている
・・・などとのんきに思っていると、足元を救われます。
貧しい国の子どもたちは全て純朴などととんでもない。
生きるためには、綺麗事など言っていられないのだという厳しさは、
やはりこの著者のものですね。
各ミステリ大賞総なめというのも納得、読み応えたっぷりの一作でした。


「王とサーカス」米澤穂信 創元推理文庫
満足度★★★★★