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「真実の10メートル手前」米澤穂信

2018年10月16日 | 本(ミステリ)

無表情、太刀洗万智の魅力

真実の10メートル手前 (創元推理文庫)
米澤 穂信
東京創元社

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高校生の心中事件。
二人が死んだ場所の名をとって、それは恋累心中と呼ばれた。
週刊深層編集部の都留は、フリージャーナリストの大刀洗と合流して取材を開始するが、
徐々に事件の有り様に違和感を覚え始める。
大刀洗はなにを考えているのか?
滑稽な悲劇、あるいはグロテスクな妄執
――己の身に痛みを引き受けながら、それらを直視するジャーナリスト、大刀洗万智の活動記録。
「綱渡りの成功例」など粒揃いの六編、第155回直木賞候補作。

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先日「王とサーカス」を読んで、すっかり太刀洗万智ファンになってしまった私は、
すぐにこの本を借りて読みました。
フリージャーナリスト太刀洗万智が活躍する短編集です。

6編が収められていますが、どれも、太刀洗万智の人とは違う視点がキレを見せる、
確かに粒ぞろいの作品。


冒頭の「真実の10メートル手前」のみが太刀洗万智自身の視点で語られていますが、
その他は皆、別の第3者の視点から語られています。
そうして見た太刀洗万智は、なんだか常に冷静すぎて若干冷淡のように見える。
感情を顔に出さず、謎めいてさえも見える。
けれど、彼女のものの考え方や行動原理を知るうちに次第に魅力を感じるようになります。
また何かの拍子にふっと口元が緩んで微笑みを見せることもあって、
そんな表情に、人々は虚を突かれた感じになってしまうわけですね。
こんな、謎めいた美女になってみたかった・・・。


「王とサーカス」での彼女と同様、
彼女はジャーナリストという自身の立場を常に自制的にとらえていることも伺えます。
報道が語ることを錦の御旗にはしない。
しかしときには若干冷酷とも思える判断をすることもある。
こんなふうに若干ひりひりする登場人物の思考回路は、
やはり米澤穂信さんのものですね。

「恋累(こいがさね)心中」は、高校生の男女が心中した事件を取材するというストーリー。
残された遺書によっても心中は間違いがないと思われるのに、
なぜ離れ離れの死となってしまったのか・・・。
別の事件を追っていた太刀洗の推理と本事件の交差が見事です。
私、短編集でも「満願」よりこちらのほうが好きだわあ・・・。


図書館蔵書にて
「真実の10メートル手前」米澤穂信 東京創元社(単行本)
満足度★★★★☆