映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「殺人鬼がもう1人」若竹七海

2020年06月11日 | 本(ミステリ)

ダークポリスの町

 

 

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都心まで一時間半の寂れたベッドタウン・辛夷ヶ丘。
20年ほど前に“ハッピーデー・キラー”と呼ばれた連続殺人事件があったきり、
事件らしい事件もないのどかな町だ。
それがどうしたことか二週間前に放火殺人が発生、空き巣被害の訴えも続いて、辛夷ヶ丘署はてんてこまい。
そんななか町で一番の名家、箕作一族の最後の生き残り・箕作ハツエが
ひったくりにあうという町にとっての大事件が起き、
生活安全課の捜査員・砂井三琴が捜査を命じられたのだが…。
(「ゴブリンシャークの目」)
アクの強い住人たちが暮らす町を舞台にした連作ミステリー。
著者の真骨頂!!

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若竹七海さんの、連作ミステリ。
舞台は都心まで一時間半の寂れたベッドタウン・辛夷ヶ丘。
かつては一戸建てが夢で、都心までの通勤時間の長さも何のその、
多くの人がここに家を新築して移り住んできた。
しかし今は、その人たちもすっかり高齢化。
若い人は都心のマンションに住むようになって、
こんな街には寄りつかない・・・と、今時どこにもある町。

そんなところにあるのが辛夷ヶ丘署。
そこの生活安全課の捜査員・砂井三琴が主な登場人物の一人です。
身長180センチにも届こうかという大女で三白眼。
しかも7センチほどもあるハイヒールを愛用。
署内では「不倫をして飛ばされてきた」などと噂をされている。
・・・というほどの、左遷先にうってつけの寂れた警察署。
いえいえ、警察署が寂れているのは、大きな事件がないということで
良いことではありませんか!!


ところが、この三琴さん、常なるミステリとはちがってなかなかダークなのであります。
頭が良く推理力も抜群。
そして抜け目がない。
様々な詐欺事件などを片付ける傍ら、
ちゃっかり差し支えのない範囲で上前をはねたりします・・・。
実際それで困る人が出るわけでもない。
クールでドタバタでユーモラス。
実にいい味が出ています。
ここのところが、若竹七海さんの持ち味ですものね。


また、ここでホームクリーニング業を営む向原理穂も、
仕事熱心ながら、これまたなかなか抜け目がないようで・・・。
そう、女が自立して生きていこうと思ったら、真面目で誠実だけではやっていけないのです!!
妙にここの人々が気に入ってしまった私。

巻末の表題作「殺人鬼がもう一人」では、本当に殺し屋の女性が登場。
ある殺人の依頼を受け、現場に向かうと、
なんとすでに標的の人物は殺されていた・・・。
20年前に辛夷ヶ丘で起きた連続殺人事件<ハッピーデー・キラー>にもつながる事件の始まり・・・。
意外性ではピカイチ、そして本巻のラストを飾るにふさわしい一作。


このシリーズ、続きがあればまた読みたいです。
葉村晶シリーズに続いて、ファンになりそうです。

図書館蔵書にて
「殺人鬼がもう一人」若竹七海  光文社
満足度★★★★☆


コレット

2020年06月10日 | 映画(か行)

いつまでも夫の影ではいられない

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フランスの女性作家、シドニー・バブリエル・コレットの人生を描きます。



フランスの片田舎で生まれ育ったコレット(キーラ・ナイトレイ)。
14歳年上の人気作家ウィリーと結婚し、パリにやって来ます。
1980年代、ベル・エポックまっただ中のパリ。
サロンでは様々な芸術家たちが集い、活動を繰り広げています。
ウィリーは、コレットの文才に気づき、
自身のゴーストライターとして彼女に小説を書かせます。
そして、彼女の「クロディーヌ」シリーズはベストセラーに。
しかしコレットは、いつまで経ってもウィリーの影であることに納得できなくなり・・・
彼女はこの保守的で男性優位の当時の社会の中で、
ありのままの自分を貫き才能を開花させて行くのです。

「クロディーヌ」は、ほとんどコレットの分身。
当時「女性は慎ましくあるべき」というお約束を打ち破り、
赤裸々な女性の生活を描いたものであるようです。
だから実のところこれはコレットでなければ描き得なかった本。
でも、それを書くように言ったのはウィリーなんですね。
はじめ彼は大人の余裕でコレットに書くことを教えたのです。
確かに彼は14歳も年上で、大人だった、初めは。
けれど、さして文才も商才もなく、散財をつくし、女遊びに暇なくという、実はダメ男。
大人などというものではない、全く子どものような男でありました・・・。
彼は面白がってコレットを自由にさせていましたが、
単に夫らしい責任感も、まともな愛情も、持ち合わせていなかっただけなのかも。



コレットも普通の「夫人」よりも自由にさせてもらっているとは自覚していましたが、
それも所詮は夫の手のひらで転がされているだけ、とわかってきます。
何よりも、いつまでも自分はゴーストライターで、人々の賞賛はすべて夫のものなのですから。
そして、いくら本が売れても、夫が散財するために、いつまで経ってもお金がないのです・・・。
これで反逆しない方がムリというものです。
でも、この夫がいなければ、作家としてのコレットもいなかった、と言うことでもありますね。
だから世の中は面白い。



作中、スカートをはいていることに違和感を憶えていたと言う男装の女性が登場。
今で言うトランスジェンダーです。
男女の恋ばかりでなく、レズビアンやトランスジェンダーも登場。
19世紀末の物語ではありますが、LGBTの問題は今に始まったわけではなく、
いつの世にも「偏見や差別」という形で存在していたわけです。
そんなところにも興味が持たれる作品。

Amazonプライムビデオにて
「コレット」
2018年/イギリス・アメリカ/111分
監督:ウォッシュ・ウエストモアランド
出演:キーラ・ナイトレイ、ドミニク・ウエスト、デニース・ゴフ、フィオナ・ショウ

女性の自立への道度★★★★☆
満足度★★★.5

 


評決のとき(A Time to Kill)

2020年06月09日 | 映画(は行)

人種差別問題に真正面から

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人種差別問題に真正面から取り組む作品。

ミシシッピ州。
黒人労働者カール・リー(サミュエル・L・ジャクソン)の10歳になる娘が
2人の凶暴な白人青年にレイプされました。
幸い命は取り留めましたが、子宮が傷つき子どもの産めない体になってしまったのです。
復讐を誓ったカール・リーはマシンガンを持って裁判所に現れ、2人を射殺。
人種差別が根強く残るこの町では黒人の白人殺しは特に不利となります。
若手弁護士ジェイク(マシュー・マコノヒー)は、
苦労を覚悟でカール・リーの弁護を引き受けます。
この事件のため、街は白人と黒人の対立で真二つ。
白人至上主義のKKK団が乗り出してきて、
ジェイクの家族や助手を務めるようになったエレン(サンドラ・ブロック)にまで危機が迫ります・・・。

 

1996年作品。
四半世紀を経てもやはりアメリカの人種差別意識は変わっていないようですね・・・。

本作でジェイクは、数々の妨害に遭いながらも弁護を諦めません。
というのも、彼には幼い娘がいて、
もしカール・リーの娘と同じような目に遭ったとしたら、自分だって犯人を許しはしないだろう、
という強い確信があったのです。
この共感は、人種とは関係のないものだと彼は信じている。
このことを正しいと思う熱いジェイクの思い。
しかし、カール・リーは意外とクールに現実を見つめている、
というところも表されていて、リアリティがありました。

この作品、マシュー・マコノヒーの初主演作品なのだそうで、
なるほど、若きマシュー・マコノヒーはとてもキュート!! 
本作で一躍人気が出たというのに納得。
そして今にしてみれば、出演陣が凄い豪華メンバー。
アメリカの人種差別がまた大きな問題となっている今こそ、見る価値のある作品だと思います。

Amazonプライムビデオにて
「評決のとき」(A Time to Kill)
1996年/アメリカ
監督:ジョエル・シュマッカー
原作:ジョン・グリシャム
出演:マシュー・マコノヒー、サンドラ・ブロック、サミュエル・L・ジャクソン、
   ケビン・スペイシー、オリバー・プラット、ドナルド・サザ-ランド

人種差別に立ち向かう度★★★★★
満足度★★★★★

 


ロンドン、人生はじめます

2020年06月08日 | 映画(ら行)

夫の死でわかった、嘘にまみれた人生

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ロンドンの高級マンションに住む未亡人・エミリー(ダイアン・キートン)。
夫の死後に夫の浮気や借金が発覚。
急速に貯金は減っていくのにマンション老朽化の修繕費用がかかるし、
うわべだけのご近所づきあいにもウンザリ。
何かと心が満たされないことばかり。
そんな時、近くの自然に囲まれた公園内で、
手作りの小さな小屋に住むドナルド(ブレンダン・グリーソン)と知り合います。
しかしマンション建築予定地であるその場所から、ドナルドは立ち退きを要求されているのです。
ドナルドとともに、闘う決意をするエミリーですが・・・。

ロンドンにある広大な公園ハムステッド・ヒース。
そこには手つかずの原生林が残されており、その近辺は緑の多い高級住宅地となっています。
その一角で暮らしていたホームレスの男性が、
長年の居住を認められ、その場所の所有権を手にして、一夜にして資産家になった
---という実話から生まれたストーリー。



その小屋はともかくとして、こうした場所が私は大好き。
本当に人里離れた山の中ではなくて、適度に街にも近いと言うのがミソ。
こんな場所に私も住んでみたいです。
自然の中で、自給自足、自由に暮らす。
このときのエミリーにとってはドナルドの生活がとても好ましく思われたのでしょう。
お金のことで悩まず、ご近所の人に振り回されることもなく、
美しい緑の中で静に暮らすことが。



これまで彼女は働くこともなく専業主婦で生きてきたのですね。
でも夫が亡くなり、その夫との生活も嘘にまみれたものだったと知ったとき、
今後どう生きるべきなのか、彼女にはわからなくなってしまった。
つまりは、エミリーがこれまでとはちがう大きな一歩を踏み出すきっかけが
ドナルドとの出会いだったわけです。


ドナルドが17年前からハムステッド・ヒースに住んでいたことを証明するもの。
それを探し出す下りが若干推理小説っぽくて面白かった。
裁判でも、ドナルドは税金も払っていないと責められるのですが、彼は言います。
「自分には他の人より費用はかかっていない。
ゴミも出さないし、二酸化炭素も排出していない。」
良いですね。



そして二人は心を寄せていく訳ですが、
結局エミリーはこの小屋で彼と一緒に暮らすことができるのだろうか。
あるいは、今さらドナルドはマンション暮らしなどできるのだろうか・・・? 
そうした疑問にも見事に応えてくれる、なかなかの結末でもありました。

Amazonプライムビデオにて
「ロンドン、人生はじめます」
2017年/イギリス/102分
監督:ジョエル・ホプキンス
出演:ダイアン・キートン、ブレンダン・グリーソン、レスリー・マンビル、ジェームズ・ノートン

人生のやり直し度★★★★☆
満足度★★★★☆


「クロストーク」コニー・ウィリス

2020年06月07日 | 本(SF・ファンタジー)

人の考えが読めることは幸せか・・・?

 

 

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画期的な脳外科手術EEDを受けることにより、
恋人や夫婦がたがいの気持ちをダイレクトに伝え合うことが可能になった社会。
携帯電話メーカーのコムスパン社に勤務するブリディは、
エリートビジネスマンでボーイフレンドのトレントとの愛を深めるため、
干渉してくる親族たちや、コムスパンいちの変人と名高いCBの反対を押し切って、EED処置を受ける。
だが、ブリディが接続したのは、トレントではなくとんでもない相手だった!?
人の心がわかることは幸福につながるのか?
ソーシャル・メディアとコミュニケーションの未来を、
SFならではのテーマとミックスする、超常恋愛サスペンス大作。

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敬愛するコニー・ウィリス。
相変わらず、分厚い本です。
でもぐいぐい引き込まれて、さほど長さを感じません。

本作の主人公、ブリディは、携帯電話メーカーであるコムスパン社に勤務しています。
あるとき、恋人トレントからEED手術を受けようと言われます。
EED手術というのは、恋人や夫婦が互いの感情を共有できるようにする脳外科手術。
しかし、彼女のお節介で過干渉な親族たちやコムスパンいちの変人、CBから
猛反対を受けるのです。
それでも彼女はEED処置を受けてしまうのですが、
なんと彼女と接続したのは恋人トレントではなく・・・。

 

EED手術は感情を共有できるようになるという話だったはずが、
なぜかブリディはもっと完璧なテレパシー能力を身につけてしまうのです。
言葉を口に出さなくても、遠く離れていても、会話をすることができる。
だがしかし、例えば身の回りの人々すべての心の中の声が聞こえてきたとしたら、どうでしょう。
普通にいい人だって、その胸中は必ずしもいいことばかりではないですよね。
聞きたくない言葉、汚い言葉の無数の渦が洪水のようにブリディに襲いかかる・・・。

作中のCBが、登場の時から私は気に入ってしまって、大好きでした。
髪はボサボサ。
身なりもかまわず、いつも1人で地下のラボで機器の開発に取り組んでいる。
変人とみなされている彼は、会社の人たちとあまり関わりを持たないのですが、
なぜかブリディのEEDについては、執拗に反対だと言い続けるのです。
実は、彼がこのような「変人」になってしまったのには深いわけがあって・・・。


ま、予定調和ではありますが、実に楽しいラブストーリーでもありますので、
SFにさほど関心がない方でも楽しめると思います。
そしてもう1人の重要な登場人物、ブリディの姪・メイヴ(小学生)がなんとも魅力的。
天才少女ながら、でもやはり小学生、と言うのがミソですね。
これぞ、コニー・ウィリスワールド!!

「クロストーク」コニー・ウィリス 大森望訳 早川書房
満足度★★★★.5


図書館戦争 THE LAST MISSION

2020年06月05日 | 映画(た行)

図書隊の必要ない世界に

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「図書館戦争」の続編です。
国家による思想検閲、メディア規制が横行している世界の物語。

図書館の自由にとっては聖典的な本「図書館法規要覧」が一般展示されることになったため、
図書隊の特殊部隊・タスクフォースが警備に当たることになります。
ここでも笠原(榮倉奈々)と堂上(岡田准一)の愛ある上下関係が
もどかしくも胸キュンで描かれていきますが、
ここでキーパーソンとなるのが、笠原の同僚である手塚(福士蒼汰)の兄・手塚慧(松坂桃李)。
彼は図書隊の解体をもくろんでおり、図書隊に罠を仕掛けるのです・・・。

ということで、松坂桃李さんが頭のキレるカタキ役。
これもまた、いいな。
確か原作ではこの手塚兄と手塚弟のヒリヒリするような論理の応酬があったような・・・。
もともと図書隊員であった手塚兄が、現状を疑問視するあまり別の道を行くようになったのです。

本作からは少し離れるけれど、「メディア良化」ということでは私も少し考えてしまう。
いま、SNS等で過激な誹謗中傷の書き込みを規制する動きがありますね。
もちろんそのことに異論はないのですが、でもその取り扱いには相当の注意が必要です。
次第にその規制が過分なものとなり、一人歩きをはじめたりしないか・・・。
「表現の自由」が犯されていくことはないのか・・・。
本当に「図書館隊」が必要な世の中になったりしないよう、見守らなくてはなりません。


<WOWOW視聴にて>
「図書館戦争 THE LAST MISSION」
2015年/日本/120分
監督:佐藤信介
原作:有川浩
出演:岡田准一、榮倉奈々、田中圭、福士蒼汰、松坂桃李

あるかもしれない近未来度★★★★☆
胸キュン度★★★★☆
満足度★★★.5

 


図書館戦争

2020年06月04日 | 映画(た行)

図書館で、軍隊で、胸キュン

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原作がすごく好きだったものですから、逆に映画を見るのがためらわれたと言いますか・・・、
堂上教官が岡田准一さんってどうなのか?という思いもあって、
見ていなかったのですが、この際なので、見ました!!


まずは本作、このストーリーの大前提を理解しなくてはなりません。
あらゆるメディアを取り締まる「メディア良化法」が施行された近未来。
国家によるメディアの検閲が正当化されたため、
「本」を守るために闘う自衛組織「図書隊」が結成されました。
時に、「良化隊」と呼ばれる軍隊組織が「検閲」と称して、
悪書(暴力描写などがある本。次第にその基準のハードルが下げられてきている。)を
没収し焚書するために書店や図書館に乗り込んできます。
それを実力阻止するための組織が「図書隊」で、
しかしそれは専守防衛とされています。
すなわち、先にこちらからの攻撃はできない。
まあ、自衛隊と同様ですね。
そんな中でも図書特殊部隊(ライブラリータスクフォース)は、
戦闘に特化したチームで、ここに抜擢されれば、図書隊の中でもエリートということになります。
しかしこれはもう本当に「軍隊」であり、実弾を用いた戦闘となることは珍しくはありません。

さて、主人公・笠原郁(榮倉奈々)は高校生の時に、図書隊に救われた経験があり、
強い憧れを抱いて図書隊に入りました。
特に、その時に助けてくれた人物を「王子様」のように思い憧れ続けていたのです。
ただし、その人の顔はよく見えなかったし、名前も確認していなかった・・・。
そんな彼女が鬼教官・堂上(岡田准一)のきびしい指導を受け、
女性隊員として初めてタスクフォースに配属されます。
理想を胸に、友人や上官に囲まれながら成長していく郁の物語。



岡田准一さんと榮倉奈々さんの若干の逆身長差がなかなか面白い味を出しています。
本作の公開時以降、私も岡田准一さん出演作をいろいろ見て、
嫌いではなくなっていたので、今回いい配役じゃん!!と思った次第。
岡田准一さんの表情がなかなかいいのです。
郁が、高校生の時に出会った図書隊員を「王子様」と呼んでいるのを聞いたときの顔とか。

図書館で、軍隊で、しかも胸キュンのラブストーリー。
こんなことができるのはやはり有川浩さんしかいません!!
あ、私、別バージョンで、
郁が上白石萌音さん、堂上が佐藤健さんというのを見たいと思ってしまった・・・。

<WOWOW視聴にて>
「図書館戦争」2013年/日本/128分
監督:佐藤信介
原作:有川浩
出演:岡田准一、榮倉奈々、田中圭、福士蒼汰、橋本じゅん、西田尚美

ダークな未来度★★★★☆
胸キュン度★★★★★
満足度★★★★☆

 


セカンド・ベスト 父を探す旅

2020年06月03日 | 映画(さ行)

課題の多い父子関係

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先日見た「インスタントファミリー」に引き続きまして、「養子」の話です。
といってもこちらの方がもっと古い作品ですが。


グラハム・ホルト(ウィリアム・ハート)は40をすぎても独身。
田舎町の郵便局を開いています。
グラハムは自分は両親の失望の元だったと感じており、
その母はすでに亡く、父は寝たきりになっています。
ソリが会わず、そして今はすでに言葉も通じなくなっている父の介護と
単調な郵便局の仕事の毎日の中で、
グラハムは、ふと養子縁組みの広告を見てを心が動くのです。


その少年ジェイムズは、刑務所に入っている父を狂おしいほどに慕っています。
幼い頃父と過ごした数日間の記憶が強烈に彼を支配している。
亡くなった母親の記憶も相まってか、自傷・自殺癖もあり、通常よりもかなり扱いが難しい。
周囲の人々もこの二人の親子縁組みをかなり不安視しています。
そして実際、大変なことばかり・・・。
しかしそれでも、ようやく二人が互いを受け入れられるようになったとき、
突然ジェイムズの父親が現れるのです・・・。

 

父親に愛されたかったのに愛されなかったグラハム。
父に愛されてはいたけれどほとんど不在で満たされなかったジェイムズ。
こんな二人が、父と子になろうとするのは、実は自然なことなのでしょう。
結局は、血のつながりよりも心のつながりの方が大事のもののようです。
ただし、血のつながりは良くも悪くも断っても断ちがたいのが問題なのですが。

ここでも養父になるために、まず講習を受けて、
幾度か会って里子になって・・・という手順は同じでした。
まさしく、犬の子をもらうように簡単にはいきません。

実の父か、養父か、
心が揺れるジェイムズにグラハムは言います。
二番目(セカンド・ベスト)なんかイヤだ、と。
そういう率直な言葉が、互いに必要なのですね。


<Amazonプライムビデオにて>
「セカンド・ベスト」
1994年/アメリカ/
監督:クリス・メンゲス
原作・脚本:デイヴィッド・クック
出演:ウィリアム・ハート、プルネラ・スケイルズ、ジェーン・ホロックス、
   アラン・カミング、クリス・クレアリー・マイルス

父子の愛憎度★★★★☆
満足度★★★★☆

 


「ライオンのおやつ」小川糸

2020年06月02日 | 本(その他)

死を受け入れることは、これまでの生を受け入れること

 

 

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余命を告げられた雫は、残りの日々を瀬戸内の島のホスピスで過ごすことに決めた。
そこでは毎週日曜日、入居者がもう一度食べたい思い出のおやつを
リクエストできる「おやつの時間」があった―。
毎日をもっと大切にしたくなる物語。

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癌で余命宣言を受けた雫が、残りの日々を過ごすために
瀬戸内海の島のホスピスを訪れるところから物語は始まります。
失意と恐れ。絶望。多分そうしたものでいっぱいのはずではありますが、
彼女を迎えたのは思いのほかのどかで静かな島の光景。
そして決しておし付けがましくなく入居者を見守ろうとするホスピスの人々。
決して奇跡が起こったりはせず、雫は静かに運命を全うしていくわけですが、
徐々に自分の「死」を受け入れていくさまが丁寧に描かれています。

 

このホスピスの名前が「ライオンの家」。
ライオンは百獣の王であり、彼を襲う敵はいない。
だからライオンの生活は安全で、安心。
怖いものはない。
そうした意味をこめてこの名前がついているわけです。
そのようなライオンの心持ちで、旅立っていけるように。
そしてここでは週に一度、入居者一人のリクエストによる「おやつ」が出ます。
その人の、これまでの人生の中で一番心に残っているおやつ。
それは有名店のお菓子というのではなくて、
子どもの頃お母さんがよく作ってくれた素朴なお菓子だったりするのですが・・・。
さて、雫が食べたいと思うのはどんなものでしょうか?

大好きだったおやつのこと。
病気のことを告げられなかった育ての父親のこと・・・
自分の人生を愛おしく思うことは同時に死を受け入れることにつながっているように思います。
つまり、死を受け入れることは、これまでの生を受け入れること。
この島で過ごすことで、雫は自分の生を受け入れることができたのでしょう。

 

私は常より癌で死にたいと思っていまして、
こんな本を読むとますますその思いを強くしてしまいます。
こんな風に美しく平和な島でならなおさら・・・。
ただし、現実となったら、決してこの雫さんのように穏やかな心持ちではいられず、
もっとジタバタするのだろうなあ・・・。
本作はほとんどおとぎ話なのかもしれません。
でも、通常の半分ほども長くはない人生に、どのように満足して旅立てるのか・・・。
彼女自身と周囲の人々の思いは深く私の胸にも広がって、涙が止まりませんでした。

美しい物語です。

「ライオンのおやつ」小川糸 ポプラ社
満足度★★★★☆


ガーンジー島の読書会の秘密

2020年06月01日 | 映画(か行)

ドイツに占領された英国の島で

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第二次世界大戦中イギリス本土にドイツ軍は上陸しませんでしたが、
イギリスで唯一ナチスドイツに占領された島、それがイギリス海峡のチャンネル諸島です。
本作はその中のガーンジー島が舞台となっています。

終戦後間もなく、ロンドンに住む作家ジュリエットは、
戦時中ガーンジー島で始まったという「読書会」に興味を持ちます。
そこで、その読書会に関する記事を書こうと思い立ち、島を訪ねます。
しかし、読書会の創設者といわれるエリザベスの姿がありません。
誰もがそのことに触れるのを嫌がっている。
美しくのどかな島で温かな読書会の人たちと交流しながら、
彼女は隠された島の出来事をたどります・・・。

そもそもその「読書会」というのは、ドイツ軍の占領下にある島で、
夜間外出禁止されていたにもかかわらずご近所の親しい仲間で集まり、
禁断の「豚肉」を食べ、お酒を飲んでしまった。
その帰り道をドイツ兵に見つかってしまったのです。
その時、エリザベスがとっさに禁止されていない文化活動である
「読書会」をしていたと言いつくろうのです。
その後、体裁だけでも「読書会」として集まることにしたのですが、
いつしか本当の読書会として定着した、というわけ。



それはそれとして、当のエリザベスがいない。
まだ幼い一人娘を残して、遠くへ行っているというのです。
一体どこへ・・・? 
それこそが、島がドイツに占領されていたからこそ起きた出来事のためだったのです・・・。



戦時中という閉塞された時代の中で、エリザベスの自分の意思を貫き通す、
強い女性像が徐々に浮かび上がってきます。
そしてそのことを知るジュリエットも、徐々に変わっていきます。
彼女はこの島を訪れる直前にある資産家にプロポーズされ、豪華な指輪をもらいます。
けれど、この島に来てから、彼女はこの指輪をつけることをためらってしまう。
慎ましい島の暮らしの中では不釣り合いだと言うこともあるのですが、
次第に彼女はこの指輪が重荷になってくるのですね。
いえ、重荷というよりも、首輪か足かせのように感じてしまう。
彼女はこの婚約が自分の自由を縛り付けるもののように思えてくるのです。
そして自分の心が読書会の一人、ドーシーに惹かれていることを後ろめたく感じてしまいます。



ドイツ軍に占領された島という希有な歴史、女としての生き方、そしてラブロマンス!!
いろいろな要素が絶妙に絡まり、素晴らしくときめく作品でした。
それと、TVドラマ「ダウントン・アビー」の出演俳優が何人か登場したのも嬉しい。

<Amazonプライムビデオにて>
「ガーンジー島の読書会の秘密」
2018年/フランス・イギリス/124分
監督:マイク・ニューウェル
出演:リリー・ジェームズ、ミキール・ハースマン、グレン・パウエル、
   ペネロープ・ウィルトン、マシュー・グード、トム・コートネイ、ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ

歴史発掘度★★★★☆
女性の生き方度★★★★★
満足度★★★★★