映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

森の中のレストラン

2024年10月09日 | 映画(ま行)

食べることは生きることとつながってほしい

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森の中で自殺を図ろうとしていて、しかし失敗した、恭一。
そんなところを、猟師の欣二に助けられます。

数年後、恭一は欣二が所有する森の奥のレストランを、任されていました。
元々恭一はフレンチの名店で腕を磨いたシェフだったのです。
この森の奥のレストランの料理は評判を呼び、遠方からの客も多い。
でもその一方、このレストランは森で命を絶とうとするものが
「最後の晩餐」をする場所・・・というウワサも広まっていたのでした。

その通り、実は恭一は自殺志願者に、
その人が最後に食べたいと思う「最後の晩餐」を差し出し、
森に送り出していたのです。
特にその人を引き留めようともせずに。

それはつらさのあまり生きる意欲を失った人の気持ちが分りすぎるくらいに分るから・・・。
でももちろん、自分で思いとどまってやはり生きようと思うことを止める訳ではありません。

そんなある日、絶望を抱えた少女・沙耶が店にやって来ます。
恭一は何も聞かず、沙耶を店の手伝いに置くことにして、
そうするうちに双方生きる喜びを取り戻していく・・・。

 

 

実は恭一は娘を亡くしていて、
そのため生きる意欲をなくしてしまっていたのでした。

本来食べることは生きることと直結するもの。
だから、自殺志願者に一番食べたいものを提供することは、
死を助長することにはつながらないのではないかな・・・と、ちょっと思ってしまいました。
ということで、生きる意欲を取り戻すような、
そんなレストランになってくれればいいなと思う次第。

 

それにしても、沙耶が抱えた「絶望」が酷すぎました。
家庭の問題というのは、つまり密室状態で、外からはわかりにくいのですよね。

こんな状況を耐えるしかないという人々を救う場があってほしい・・・。
仮に逃げ出しても、生活が成り立たないから耐えるしかない、ということが多いのではないかな。
だから、とりあえず駆け込み寺みたいな、しばらく暮らすことのできる場があるといいな・・・。

と、本題ではなのかも知れませんが、考えてしまいました。

<Amazon prime videoにて>

「森の中のレストラン」

2022年/日本/92分

監督:泉原航一

脚本:幸田照吉

出演:船ヶ山哲、畑芽育、森永悠希、奥菜恵、小宮孝泰

家庭内暴力度★★★★★

満足度★★★☆☆


ぼくが生きてる、ふたつの世界

2024年10月08日 | 映画(は行)

聴こえる世界、聴こえない世界

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五十嵐大さんのエッセイ
「ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と
聴こえない世界を行き来して考えた30のこと」
を映画化したもの。

宮城県の小さな港町。
耳の聞こえない両親の元で、愛情を受けて育った五十嵐大(吉沢亮)。

幼い頃には母の“通訳”を務めたりもしました。
しかし、成長すると共に、
周囲から特別視されることに戸惑いやいらだちを感じるようになります。
そして、母を疎ましく感じるように・・・。

20歳。
大は逃げるように上京し、誰も自分の生い立ちを知らない大都会で、
アルバイト生活を始めます。

聞こえない両親の間に生まれた聞こえる子どもを「コーダ」と呼びます。
その特殊な状況で迎える子どもにとっての困難なことについては、
丸山正樹さんの小説に詳しく描かれています。
本作は、まさしくその「コーダ」であるご本人、
五十嵐大さんの体験談なので、リアルなコーダ事情を伺うことができます。

大は生まれたときから両親と共に生活していたわけなので、
ろうの両親のことを当たり前に受け入れて、
普通に話すこともできて、手話もできるのです。
(母親の両親と同居なので、言葉はそちらから覚えたか?)

子どもが泣いていても気づかないこともあって、
子育ては少し大変だったかも知れませんが、
お母さんの一生懸命さに愛情が伝わります。

大が小学生の頃のある日、友人が家に遊びに来て、
大のお母さんの話す言葉が「ヘン」だと言います。
そんなことから、大は自分の母親を恥ずかしいと思うようになってしまいます。
参観日のお知らせのお便りも、親に見せずに捨ててしまいます。

また大は、障害のある両親ということで
自分は世間から「かわいそう」と思われていることにも傷ついてしまいます。
それまで自分のことを不幸だなどと考えたこともないのに・・・。

思春期に入ると大の反抗的態度はますます酷くなっていきますね。
それも仕方のないことかな・・・。
でも私はやはり母親の立場に立ってしまって、
息子の冷たい態度に何も言い返すことができず、
ただただ悲しく困り果ててしまうお母さんを、そっと抱きしめたくなってしまいました。

大は、上京しパチンコ屋のバイトの後、小さな出版社で働くようになりますが、
親と離れ、働き、様々な人と暮らすうちに、彼自身も成長していきますね。

いつしか、自分が母親に放った酷い言葉や態度が
どれだけ母親を傷つけてけていたかが分るようになってくる。

振り返ってみると、本作はコーダの話ではありますが、
実は一般的な家族、子どもと親の関係というのはまったく同じですよね。
決して特殊な話なんかじゃない。

親というのはありがたいものです。
ご両親の結婚前エピソードもステキだったな。

<シネマフロンティアにて>

「ぼくが生きてる、ふたつの世界」

2024年/日本/105分

監督:呉美保

原作:五十嵐大

脚本:港岳彦

出演:吉沢亮、忍足亜希子、今井彰人、ユースケ・サンタマリア、烏丸せつ子、でんでん

 

親の愛度★★★★☆

反抗期度★★★★★

満足度★★★★★


「タラント」角田光代

2024年10月07日 | 本(その他)

人生を通じて、考えること

 

 

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学生時代はボランティアサークルに所属し、国内外で活動しながら、
ある出来事で心に深傷を負い、無気力な中年になったみのり。
不登校の甥とともに、戦争で片足を失った祖父の秘密や、
祖父と繋がるパラ陸上選手を追ううちに、
みのりの心は予想外の道へと走りはじめる。
あきらめた人生に使命〈タラント〉が宿る、慟哭の長篇小説。

解説・奈倉有里

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かなり厚みのある文庫本でしたが、読み始めてすぐに引き込まれて行きました。

40歳目前のみのりは夫と二人暮らし。
学生時代はボランティアサークルに所属し、国内外で活動していました。
ところがある出来事があって、今はそのような活動から身を引いています。

実家は香川のうどん屋さん。
そこには最近不登校になったという甥・陸や、戦争で片足を失った祖父・清美もいます。
口数少なく、戦争のことも語ろうとしない祖父のところに、ときおり来る女性からの手紙。
陸とみのりは密かにその女性のことを調べてみるのですが、
どうもパラリンピックに出場しようとしている人らしい。
一体祖父とどういう関係の人なのか・・・?


・・・というのは、本作の幾重にも重ねられたストーリーの1つ。

「タラント」というのはここでは「使命」というような意味に使われているのですが、
みのりが、「ボランティア」活動に対して思ってきたこと、思うことも重要なテーマです。

みのりは学生時代、他にやりたいこともないということで
なんとなくボランティアサークルに入るのですが、
必ずしも強い「正義感」に駆られて活動していたというわけではありません。
ボランティアの意味を常に考えながら、
自分の「ふつう」の日々と、自分とはぜんぜん違うだれかの「ふつう」の日々を
通じ合わせる方法を見つけたい・・・と思うようになっていったのです。
でも具体的に何をすれば良いのかは分らないまま・・・。

 

その頃からの友人・玲は今も国と国のはざまで困っている人々のために、海外を飛び回っている。
そして同じく当時からの友人・翔太は、そんな場所で写真を撮ることを仕事にしている。

「もし目の前に血を流して倒れている人がいたら、助けるか、写真を撮るか」
という、かねてからの命題にも、いまだ答えはありません。

そしてまたもうひとりの友人・ムーミンの暗い運命は、
理想と現実のギャップの大きさをみのりに見せつけたりもする。

 

またこうしたみのりの過去から今までの思いとはまた別に、
みのりの祖父・清美の戦前から戦後の話が語られて行きます。
出兵し、片足を失い・・・。
終戦となってようやく帰り着いた家は焼け落ち、家族も何も残っていない・・・。
その時のことが生々しく描写されています。
清美本人は、そのような体験のことを家族にも決して語ろうとはしなかったのですが。
元々は若き前途ある青年。
戦争が何もかもを変えてしまった・・・。

そんな祖父が、なぜパラリンピック、走り高跳びの競技に挑戦しようとする
若き女性と知り合うようになったのか。

色々考えさせられることが山盛り。
でも未来へ向けて滑り出す終盤の展開が、心地よいのです。
確かな読み応え。

 

文庫の解説が、我が敬愛する奈倉有里さんというのもポイント高い。

 

「タラント」角田光代 中公文庫

満足度★★★★★

 


秒速5センチメートル

2024年10月05日 | 映画(は行)

失われた儚く美しい何か

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本作、松村北斗さん主演で実写映画化されるというニュースがありました。
新海誠監督作品でも、これはまだ見ていなかったなあと、慌てて見た次第。

全3話からなる連作短編集となっています。

貴樹と明里は小学校卒業と同時に、明里の引っ越しのために
離ればなれになってしまいます。
とにかく一緒にいることで気持ちが安らいでいた2人でした。
中学になってから、明里からの手紙が届き、
貴樹は明里に会いに行くことを決意します。

しかしその日は雪。
栃木までの列車の旅ではありますが、雪のために運行が遅れに遅れ、
なかなか目的の駅にたどり着きません。
本当に明里と会うことができるのだろうか・・・不安でいっぱいになる貴樹。(桜花抄)

やがて、貴樹も中学半ばで東京から鹿児島の離島に転校し、
そのままそこで高校生になります。
同級の花苗は、中学の頃からずっと貴樹を思い続けていました。
貴樹はいつも優しく接してくれましたが、どうも思い人がいるように思えて・・・。(コスモナイト)

社会人になり、東京でSEとして働く貴樹。
付き合っていた女性とも別れ、会社も辞めてしまいます。
季節が巡って春。
貴樹はある女性に気づき、振り返りますが・・・。(秒速5センチメートル)

 

 

純粋でみずみずしい、少年少女の恋。
けれどそれはあまりにも儚いものでした。

私が思うに、つまりあの時、唇と唇が触れ合うということで、
純粋だった“何か”が壊れてしまったということなのでしょう・・・。
もちろんそれは汚らわしいことではないのだけれど、
まだ名前のない美しい「思い」が、別のものに変わってしまうには十分な出来事だったのでは。
それは、互いに用意していた「手紙」をそれぞれ渡すことができなかった、
そしてその後も、手紙を交わすことは間遠になり、やがて途絶えてしまっていた
ことに現れているように思われるのです。

 

儚く美しいものが壊れ、苦い思いが残る・・・。
でも私たちは成長し大人になって、人生を続けなければなりません。
失われた美しいものは、桜の花びらが散るのを見て、かすかに思い出されるだけ・・・。

切なくも美しい物語。

「コスモナイト」では、種子島が舞台になっていて、
ロケットの打ち上げと思われるシーンがあります。
空へ向かってもくもくと伸び上がっていくロケットの白い航跡。
それを見上げる若い男女。
若い力、これからの人生への期待のようなものを思わせる
忘れがたいシーンでした。

そして、いつものごとく、水と光のなす透明なキラキラ感。
やはり美しいなあ・・・。
これぞまさに新海誠作品、という気がします。

こんな情景を、多分松村北斗さんは完璧に演じて表現してくれるのではないでしょうか。
実写版映画も楽しみです。
でも、松村北斗さんが演じるのは多分「青年期」だと思うので、
それほど出番はないのではないかな・・・?

<Amazon prime videoにて>

「秒速5センチメートル」

2007年/日本/63分

監督・原作・脚本:新海誠

出演(声):水橋研二、近藤好美、花村怜美、尾上綾華


あまろっく

2024年10月04日 | 映画(あ行)

一家の「あまろっく」とは?

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通称「尼ロック」と呼ばれる尼崎閘門によって、水害から守られている兵庫県尼崎市。

39歳近松優子(江口のりこ)は、リストラでこの尼崎の実家に戻って来ました。
実家は父(笑福亭鶴瓶)が小さな鉄工場を営んでいて、母はすでに他界しています。
優子は仕事ができて、それについてもプライドがありすぎるほどあったのに、
次の仕事は見つからず、結局定職に就かないまま
ニート状態で数年が過ぎてしまいます。

そんなある日、「人生に起こることは、何でも楽しまな」が信条の脳天気な父が、
再婚相手として20歳の早希(中条あやみ)を連れてきます。

家族団らんにこだわり、楽しもうとする早希。

自分より年下の“母”に戸惑う優子。

やがて、ちぐはぐでかみ合わない共同生活が始まります。
しかし、ある悲劇が起こり、優子は家族の本当の姿に気づきます。

経営者に甘んじて、まともに仕事らしい仕事もしない父。
「俺はこの家の尼ロックだ」、「俺はこの会社の尼ロックだ」と公言して、
寝転んでいるか、誰かとおしゃべりをしているか。
けれど本当に人がいいので、周囲の人には好かれているのです。

それにしても、そんな人物が20歳の女性と結婚とは・・・!
しかも、笑福亭鶴甁さんと中条あやみさんって、
ムリムリムリ・・・と、思ってしまうわけですが。
早希さんはよほど家族の愛に飢えていたと思われますね・・・。

ところが、思いがけない展開にビックリ。
人と人とのドラマは本当に予測がつきません。
あれだけイヤミなほどにツンケンしていた優子も変わっていきます。

水害から町を守るために作られたという尼ロック。
その説明から入っていく本作。
ステキな町の物語でした。

<Amazon prime videoにて>

「あまろっく」

2024年/日本/119分

監督・原案:中村和宏

脚本:西井史子

出演:江口のりこ、中条あやみ、笑福亭鶴瓶、松尾諭、中村ゆり、駿河太郞

変な家族度★★★★☆

郷土愛度★★★★☆

満足度★★★★☆


クワイエット・プレイス:DAY1

2024年10月02日 | 映画(か行)

「何か」との戦い、最初の日

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音に反応して人間を襲う「何か」によって人類滅亡の危機に瀕した世界で
沈黙を守って生き延びる一家の姿を描く「クワイエット・プレイス」の第3作。

でもこれは、2作目の後の物語ではなく、
大都市ニューヨークに「何か」が襲来した最初の日に、時を巻き戻して描かれています。

ねこのフロドとともに、ニューヨーク郊外のホスピスで療養しているサミラ(ルピタ・ニョンゴ)。
その日、ホスピスのレクリエーションで、バスに乗ってマンハッタンへ出かけます。
しかし、そんな時、突如として空から隕石が降り注ぎ、
周囲は一瞬にして阿鼻叫喚に包まれます。
そしてその直後に、隕石とともに襲来した「何か」が、人々を無差別に襲い始めるのです。

やがてその「何か」は、音に反応して人の存在を嗅ぎつけることがわかります。
そして、それらは水が苦手であることも。

軍は、マンハッタンにかかる橋をすべて爆破し「何か」をマンハッタンに封じ込めますが、
それは残った人々の逃げ場をなくすことでもあるのです。
やがて、マンハッタン南の波止場から避難船が出ることが知らされ、
残った人々は静々とそちらへ行進を始めますが・・・。

サミラはホスピスにいたことで分るように、余命残り少ないのです。
そのためか、避難船の方には向かおうとしない。
一人別の方へ向かいます。
そんな時にエリック(ジョセフ・クイン)という男性と出会い、
行動を共にするようになります。

本作、エイリアンである「何か」の不気味さ、凶暴さの描写がスゴイのはもちろんなのですが、
サミラの切ない身の上と、それに同情し付き添うようになる
エリックとの心のふれあいが美しく描かれます。

こんな作品にもかかわらず、おざなりではなくきっちりと叙情的。
ちょっと見直しました。
でも、そこをじっくりと味わう心の余裕は第3作目だからこそ。
時系列通り、これが第一作だとしたら、
こんな時になに浸ってるのよ、ということになってしまうでしょう。

続編として成功している作品だと思います。

<Amazon prime videoにて>

「クワイエット・プレイス:DAY1」

2024年/アメリカ/100分

監督:マイケル・サルノスキ

出演:ルピタ・ニョンゴ、ジョセフ・クイン、アレックス・ウルフ、ジャイモン・フンスー

スリル度★★★★☆

叙情性★★★★☆

満足度★★★★☆


あの人が消えた

2024年10月01日 | 映画(あ行)

一体何を見せられているのか

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宅配会社の配達員・丸子(高橋文哉)。

彼の配達受け持ち区域の中に、「次々と人が消える」とウワサされるマンションがあります。
丸子はほとんど毎日のようにそのマンションを訪れるうちに、
怪しげな住人の秘密を知っていきます。
ある日、そのうちの一軒に魅力的な女性・小宮(北香那)が越してきます。
どうやら、その人は丸子が好きなアプリ小説を書いている当人らしい。

しかし、その後、小宮の姿が消えてしまいます。
丸子は小説家を目指す職場の先輩・荒川(田中圭)に相談。
怪しい住人の正体や小宮の行方を探り始めます。

作中で荒川が、
「寿司屋にマグロ食いに行ったら、ガパオライスがでてきた」
というたとえを多用します。
それくらいに、話の展開が予想外というかちぐはぐということ。

まさしく本作自体もその通り。
いなくなった女性の行方と、怪しげな住人の正体をさぐるミステリ的作品
かと思って見始めたわけですが、ところが・・・?

いや、これは素っ頓狂な警察のストーリー・・・?
戸惑いつつそんな状況を受け入れて、それを楽しみ始めた矢先に・・・。

ストーリーは勝手に二転三転。

本作のすべてが伏線、と、予告映像にあった意味が、
最後まで見てやっと分ります。

たくらみに満ちたストーリー。
ヤラレタ~。
最後の最後もまた、意表を突かれること間違いなし。

水野監督は、あのTVドラマ「ブラッシュアップライフ」を演出した方か。
なるほど~。

 

<シネマフロンティアにて>

「あの人が消えた」

2024年/日本/104分

監督・脚本:水野格

出演:高橋文哉、北香那、坂井真紀、袴田吉彦、菊地凛子、中村倫也、染谷将太、田中圭

予測不能度★★★★★

満足度★★★★☆