11月28日、平成18年度当初に開学を希望していた大学等について、文部科学省の大学設置・学校法人審議会が設置認可の可否を、文部科学大臣に答申した。
その中に不可になった「学校」が二つあった。このことについて自分の考えをまとめたい。
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一つ目は、入学から終了まですべてインターネットだけですませることをめざした、特区扱いの学校法人立大学院大学である、旭インターネット大学院大学。この「学校」は修士だけではなく博士課程まで設置する気でいた。
この学校の設置を希望する同大設置準備委員会の酒井雅会長は、自宅2階を学長室や会議室にすると申請した。いくらすべてインターネットで行うと言っても、あまりにもその発想が斬新過ぎ&狭いので、全国紙のウェブサイト(asahi.com)で取り上げられた「学校」である。
審議会の判断は、『狭く、機能性を欠いており、大学運営に対応する施設となっていない』である。学長室などは大学設置基準で整備が義務付けられているもので、普通に考えれば華美にする必要はないが、学校の司令室である。それなりのものが求められるのは当然だろう。
計画によれば、会長の自宅2階部分は約60平方メートルで、和室に「学長室」のプレートを掲げる等している。
…畳18畳分である。6畳間3部屋分である。(苦笑)
酒井会長の意見では、「教員は海外や日本各地におり、インターネットで会議をするので広い会議室は不要。設備投資にお金を掛けて学生の負担を増やすようなことはしたくないと考えた」とのこと。ものはいいようである。
新聞などの報道によれば、旭インターネット大学院大学について審議会は、『研究指導教員数が基準に満たない』『理事長宅の2階を学長室や事務室に充てており、手狭で大学の管理運営に対応できない』とした。
後者ばかりが注目されたが、書類の審査でスタッフが大学院で博士まで出せる学校としては物足りないとされたわけだ。冷静に考えれば、よくこんな計画で大学院を作ろうとしたと思う。ある意味恐れ入ってしまう。
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二つ目の、WAO大学院大学ついて審議会は、『教員は本業が多忙で教育研究に支障が出かねない』『相応の学位や研究業績のある教員は皆無に近い』とされた。論外だと思う。
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このほかにも、学校自体は設置の認可を得られたものの、一部研究科の専攻過程が認められなかったものや保留の案件もある。
この状況はどうかしている.....
今回の審議会の判断は正しいと思う。支持できる。
いくら何でも無理だ。自由化、構造改革特区っていっても限度がある。
僕は基本的には学校法人が作れないような組織は、学校を作るべきではないと思っている。東証1部、2部、JASDAQだって、上場できるのはどんなものでも株式会社である。学校という市場・業界に入るには、せめて学校法人くらい作れるのが最低条件だと思っている。特区だから、構造改革だからといって、参入条件を甘くする。参入障壁とどこかで文句を言われるのがいやだからハードルを低くするのはいかがなものか。ものには程度と限度がある。学校法人並みにできますよと株式会社ががんばるならいいけど、できないのではどうしょもない。
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今回の申請では、特に気になる…気に入らない、申し訳ないけど不届きだと思う…のは、特区利用の専門職大学院大学の設置認可申請である。これは今年の7月に申請がなされたもので、平成18年度開学をめざしたのは過去最多の12校、12研究科、15専攻。
学校設置会社(以下「株式会社」)が開設の認可申請をした学校は6校。すべて特区だから申請できた。全部専門職大学院大学課程である。申請者5社(1社で2校申請したところもある)
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結果:認可3校、1校不可、2校は申請取り下げ。
学校法人・公立大学法人立の学校は6校。1校をのぞいて、専門職大学院課程。その1校が不可になった旭インターネット大学院大学である。
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結果:認可は4校(3校はすでに大学を運営している、1校は専門学校の運営法人)、1校不可、1校保留(専門学校が設立母体)
「合格」したところをみてみよう。学校名(研究科名):設立母体
構造改革特別区域法に基づく学校設置会社による設置
グロービス経営(経営):
経営教育及びベンチャーキャピタル事業等を運営する株式会社
日本教育(学校教育):
栄光ゼミナールの運営会社が母体
LCA(企業経営):
企業経営コンサルティングが本業
学校法人・公立学校法人による設置
文化ファッション(ファッションビジネス):
文化学園は大学・短大・専門学校の運営法人
事業創造(事業創造):
新潟総合学園は大学・専門学校の運営法人
産業技術(産業技術):
首都大学東京
映画専門(映画プロデュース):
東放学園専門学校の運営法人
認可は7校、7研究科、8専攻。
合格した中で、文化ファッション大学院大学は研究科・専攻課程が二つあるので全体で8専攻である。日本教育大学院大学の設置母体である栄光は、もう一つの日本翻訳大学院大学の設置申請を取り下げている。また、映画専門大学院大学は通信の課程も認可申請していたが、これは不可になっている。
大学設置の「不可」はまれで、そもそも申請取り下げなんて論外である。大学・大学院設置申請も、随分お気楽になったものだ。しかし審査はちゃんとやったと思う。同審議会の永田真三郎会長(関西大教授)は「学生確保を急ぐあまり準備が拙速になっている」との異例のコメントを出した。
…怒って当たり前である。
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旭インターネット大学院大学は、学校法人立の学校。特区における学校法人立の大学院大学をめざしていた。また、もう一つ不可になった、WAO大学院大学は株式会社立。特区における学校法人立でも、株式会社立学校でも、それ自体は全体の中の変化のエッセンス。主流にはならないものだと思う。国公立でも、学校法人立(私立)でも、経営があやしい場合もある。
従来とは設置・審査基準を別途設け、新規参入を認める。これまでにない基準の学校を認める。これが特区内の学校法人立の学校のありようだろう。また、株式会社立という経営形態を認め、学校設置者のバリエーションを増やす。株式会社のよさ(決定の機動性)を、学校運営に取り入れようというのが、株式会社立学校の(唯一の)存在意義だろうと思う。これらが、現在いくつか認められている特区内の株式会社立大学・大学院だ。
学校は、誰が作るものでも、なによりも安定性が必要だ。また、社会に対して、大丈夫そうだなって思われる存在でなくては、危なっかしくって困るのだ。ある一定のレベルは確保されなくてはならないだろう。
今回の2校の状況、その他申請取り下げも複数でたこと。なんで、こうなるんだ。どうして、その程度で申請することを考えるのだろう。冗談はよしてくれ。恥ずかしくはないか。そう、思った。
「申請すれば、特区で専門職大学院なら通るんじゃん。」
そんな本音が透けて見えてくる。
不可をもらった両校はいずれも「来年度の再申請は考えていない」とコメントしているらしい。当たり前だ。
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いくら事前チェックから事後チェックに行政のあり方を変えたといっても、事後チェックにも値しないものはストップだ。
審議会の決定全面支持!!!
この調子で、大学も株式会社立のものがごちゃごちゃ出てきたら、ちょっと困る。もちろん何もかもだめと言うことではない。だだ、今回のような大甘な設置認可申請をするようでは、特区の株式会社立の大学等全体が、ちょっと色眼鏡で見られるようになることを、大学を作りたい株式会社の方々は考えなければならないだろう。
大学という商品の信用を毀損するような、今回の設置認可申請の顛末だったと思う。
…そんなことを考えました。