<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
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当時のパソコンはオペレーションシステムではなく、必ずプログラム言語「BASIC」が付属していた。
オペレーションシステムがくっついていないパソコンなどあり得ないのだが、工学的に無知なユーザーである私には、当時のパソコンは後に利用することになる高性能パソコンと比較するとオペレーションシステムが無いも等しい代物なのであった。

私の愛機「X1」ではHu-Basicという言語が装備されていた。

新発売されたばかりのX1を購入したために、実は困ったことが起こってしまった。
パソコンは今でこそ操作するためにプログラム言語なんか覚える必要はないが、当時はBASIC言語の命令で全ての作業を行っていた。
データのカセットテープへの書き込みと読み込みはもちろん、計算式の構築、ゲーム、などなど。
しかもプログラムに出来合いのものはなく自分ですべてを作成しなければならなかった。

これが富士通のFM-8だとかNECのPC-8801などであれば、使い方を記したすでに多くのハウトゥー本が出版されていたから、それらを参考書に使えば比較的楽にマシンを使いこなせるはずだった。
ところがこっちが買ったのは発売されたばかりのX1。
シャープのパソコンは基本的にMZシリーズというのが本流だったので、Xシリーズのことは、月刊雑誌「Oh!MZ」にもなかなか掲載されることはなかった。
つまり参考にできるものがまったくなかったのだ。

そこで、NECのN-Basicの解説本を購入し、それをHu-Basicに当てはめて簡単なプログラムを書く練習を始めた。
当時は大学生だったから、そんな退屈なことをする暇があったのだ。

Basic言語はメーカーが違ってもよく似ていたので簡単なプログラムは苦労しながらも書けるようになってきた。
しかし、ことがグラフィックのことに及ぶとそうは問屋が卸さない。
どの言葉を、どのようにプログラムすれば良いのか芸大生の私には、当初見当がつかなかった。
「エライ高い買い物をしてしまった。」
と一瞬ではあったものの悔やんだこともあった。

それでも説明書をじっくり読んでいくと、だんだんとひとつひとつの命令の意味がおぼろげながら分かるようになってきた。

まず「LINE」という関数と2つの座標で直線を引けることがわかった。
続いて「CIRCLE」という関数と中心点座標、半径などのパラメータで円が描けることがわかった。
しかし、それでどうせっちゅんだ。
と私は悩んでいた。
絵を描くためには多くの直線や曲線が必要で、時として面を色で塗りつぶしたくなることもある。
ちなみに塗りつぶしは「PAINT」という関数で塗れることがわかった。

膨大な量のデータをどうやって整理したらのいいのか。
いちいちデッサンした絵を方眼紙に写し取り、XとY座標を一点一点拾っていくなどという、チマチマとしたことはアホらしくてできない。
それでも簡単な図形ぐらいなら頑張って描いてみよう。
と、三角形や四角形を駆使して描いてみることにした。
しかしその初めてのCGは、それはそれは悲惨な作品なのであった。
しかも「Jpeg」なんてイメージファイルは無かったし、資金不足で白黒のドットプリンターも買えなかったため、その作品はモニター画面に映してカメラでパシャッと撮影でもしない限り、第三者に見せることもできなかったのだ。

CGは手間がかかる。
お金もかかる。
おまけに数学の知識も要りそうだ。

絵を描く為に直線や円をいじっていくうちに、数学の図形問題をやっているような気分になってきた。
なんとしてでもCGをものにしたかった私は不要になったはずの高校時代の数学の教科書や参考書をお仕入れの段ボール箱から取り出し、勉強のし直しを始めたのであった。

そうこうしているうちに、世界文化社から「パソコンテレビX1のすべて」なる雑誌が発売された。
なぜ理系雑誌の会社でもない世界文化社から出版されていたのか、今もって謎なのだが、その本にはX1の優れたグラフィック機能(当時のレベルで)を使って絵を描く「ペイントソフト」のBasicプログラムが掲載されていたのであった。

ペイントソフトといってもPhotoshopやPainterなどの現在のソフトを想像しては、もちろんいけない。
だいたい表示可能な色が7色で画面サイズが640×200ドットのパソコンで写真の加工はできないし、筆の質感とか鉛筆の質感を表現することなできるはずもない。
雑誌に掲載されていたBasicのプログラムは複数のパートに分かれていて、ひとつは線を描く為の座標を入力するプログラム。
またひとつは入力プログラムで作成した座標データで線を描画するプログラム。
そしてさらにその線画に色を塗るペイントプログラム。
などになっていたのだ。

描き方は簡単だった。
もちろんマウスやタブレットなんて存在しないのでカーソルキーを上下右左に動かし任意の座標でスペースキーを押すと最初の点を読み込み、そしてカーソルを動かし次の座標でスペースキーを押すとふたつめの点を読み込む、という具合に一本のラインの座標を入力していくのだ。
このプログラムでは円または円弧を使用することはなかった。
マウスが存在しない時代だったので、こういうまどろっこしい作業が当たり前で苦にならなかった。

線画が完成すると、描画ソフトで全体を描かせた後、ペイント工程に入る。
線画のデータは一旦カセットテープに記録し、ペイントソフトを立ち上げて、再びカセットテープから線画データを読む込むのだ。
今度もカーソルキーを動かして塗りつぶしたい場所にカーソルを移動させ色を番号で選ぶと、その色で塗りつぶされる仕組みになっていた。
その塗りつぶされ方が、なかなかシュールなのであった。

つづく

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