私の苦手な読書ジャンルにファンタジーがある。
例えばトールキンの「指輪物語」なんかは大いに苦手で、高校生の頃に映画の公開に合わせて「読んでみよう」と勇んで買ったものの、「んんん〜〜〜〜、よくわからん!」と途中で投げ出してしまった数少ない私の「投げ出し本」の一つになっている。
この作品の場合、単に現実ではない世界が描かれていることにとどまらず登場人物が多すぎるし、それらの名前が訳のわからないものが多かった。
このためファンタジーなのにイメージが膨らまず何がなんだかわからないまま強烈な疲労感が生じたため、あっけなく挫折したのであった。
でもファンタジー全般がダメかというとそういうことはなく、例えばオーウェルの「1984年」だとか、上橋菜穂子の「鹿の王」などは読めなくはないのだ。
とはいえ、どちらかというとファンタジー物は敬遠しているというのが正直なところ。
「指輪物語」がトラウマになっているということもできなくはないが、やはりリアルな物語に興味が誘われるのは性分なのかもしれない。
そんななか、久しぶりに買った小説は一種のファンタジーだった。
重松清著「ルヴィ」。
自殺を遂げた中堅作家が3年ほど前に自殺した女子高校生の「ルヴィ」に出会い、死ぬかもしれない人たちを死から救うという物語。
7人の命を救うとルヴィは天国へ行って成仏することができる。
それに同行するのが自殺したばかりの中堅作家なのだが、果たしてどのような死ぬかもしれない人たちに出会い、どのようにして救うのか。
なかなか面白い生と死の境目を扱ったファンタジーなのであった。
重松清というと「ファミレス」や「希望が丘の人々」など数作を読んできたが、いずれも現代の普通の生活を通じて家族や社会のちょっとした問題点をユニークに描いているのが魅力的だと思っていた。
今回の「ルヴィ」は少し表現は違うものの、死んだものの目を通じて、今まさに死を選ぼうとしている人たちに生きるきっかけを与える。
そのことが小さな希望を読者に感じさせ、自分にも少し当てはめたりして感動をもらう。
こういう物語がファンタジーだが真実性をもってリアルに迫ってくるのは、やはり自死に関するニュースが多すぎるからだろうか。
それでも圧倒的多数の人は苦しくても生きようとする。
それが惰性であるのか、はたまた意志の強さによるものか。
それは人それぞれかもしれないが、そういう現代人の姿をファンタジーで描いた読み応えのある小説なのであった。