萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第73話 残像act.4-side story「陽はまた昇る」

2014-01-07 10:15:17 | 陽はまた昇るside story
snare 残像の罠



第73話 残像act.4-side story「陽はまた昇る」

切りとられた出口の空は、雲に明滅する。

一歩踏み出して、革靴の黒い反射に太陽の高度を知らす。
そっと頬涼ませる風に行雲が速い、その陰翳が往き過ぎる。
太陽と雲と風、空ゆく交錯に季節を見つめながら英二は微笑んだ。

―きっと追いかけてくる、

予測、というより予定と言った方が良い?
そんな想定に白い制帽を被らす手許、紺色の袖から文字盤がのぞく。
きらり腕時計の反射鏡面に背後を見、そこへ映りこんだ影が呼んだ。

「宮田君、」

穏やかに深く低く、けれど透る声が自分を呼ぶ。
その声に振り向いた先、白髪のグレースーツ姿が微笑んだ。

「消防庁の表彰式、私も同行させてもらえませんか?」

ほら、やっぱり付いてきた。

きっと追いかけて来るだろう、そして話したがる。
こんな予定通りの行動を嗤いながら英二は爽やかに微笑んだ。

「小隊長の許可が頂ければ、」
「その通りですね、国村君の許可を頂きましょう、」

回答に穏かな瞳が笑って、その底で疑惑は満足へと傾く。
いま応えた言葉達にも値踏みはされた、そんな相手を冷徹が嗤う。

―俺が従順で優秀な男か知りたいんだろ?

書庫室のPC端末から、きっと経歴も身上書もチェックされている。
だからこそ小一時間ほど前の初対面より満足感は親しい、そんな相手に笑いかけた。

「こちらに1時間ほどで戻る予定ですが、観碕さんのお時間は大丈夫ですか?」

観碕“さん”

そう明確に呼びかけて、穏やかな瞳すこし細まらす。
いま呼ばれた呼称と相手に眼差しが見る、その思案からエリートが微笑んだ。

「私は嘱託の楽隠居ですからな、自由も保障されています、」

明るいトーンの冗談めかし、そこに衒いも気負いも見えない。
けれど底深く鎮まらすプライドの罅と賞賛が自分には解る。

―若輩の「さん」呼びに値踏みしてる、俺が阿呆か冷静なのか、

内務省系官僚「官庁の中の官庁」出身エリート、警察庁の中枢に居たキャリア。
それは警察官にとって雲上の存在だろう、だから崇められることに慣れきっている。
だからこそ2年目ノンキャリアに「さん」で呼ばれた事実は判断二つに分かれて、その思惑に英二は微笑んだ。

「確かに自由ですね、嘱託で居られるから私も気楽にお話し出来ます、」

敬語、けれど気楽なのだと笑いかける。
現役時代の職位と階級へ敬意、けれど現在の嘱託としてある身近さ。
そんな新旧の立場ふたつながらへ示した言動に品好い笑顔ほころんだ。

「そうですね、気楽に話せるのは楽しいものです。肩書の無い自由でしょう、」

楽しい、それも観碕の本音だろう。
けれど肚底にはもう拭えない身分意識が根深い。

―誰に対しても「君」で呼んでいる癖に、白々しいだろ?

国村君、さっきもそう呼んでいた。
そんな相手の本音と肚底に嗤いながら快活と微笑んだ。

「はい、肩書の重りが無いことが一番の自由かもしれません、」

言葉にした詞に、懐かしい笑顔と声が重ならす。
この詞を15年前に聴いた、あの笑顔と全く違う男が英二に笑いかけた。

「宮田君は出世を好みませんか?」

ストレートな質問だな?
そんな感想に可笑しくて笑いたくなる、けれど爽やかに微笑んだ。

「人並の出世欲はあると思いますが、今は目の前の業務で手一杯です、」

人並、今は手一杯、目の前の業務、
こんな詞を二年目の男が言うなら値は幾らつく?
その想定価格に嗤いたくなる真中で品の佳い笑顔は愉しげにほころんだ。

「これからの若さが眩しいですね、私もそんな時がありました、」

私“も”

自分も「同じ」だと笑いかけてくる。
この言葉ごと老人の目から疑惑は親密へすこし傾く。
けれど「同じ」の意味が指す方向はどちらだろう?そんな思案の先に上司を見、敬礼向けた。

「小隊長、おつかれさまです、」

敬礼を老人は笑顔で見る、けれど眼差しは二つ感情ぶつからす。
その理由は「敬礼の有無」観碕には一度も敬礼していないからだろう?
だからプライドまた罅割れる、そんな視線を頬受ける向こうテノール明るく笑った。

「おつかれさん宮田、お待たせ悪いね?」

軽やかな笑顔は白い制帽かぶりながら広報二人と来てくれる。
制服姿ばかり、けれどスーツの一人に上司は笑いかけた。

「おつかれさまです、御休憩ですか?」

さらり呼名を外して笑いかける。
そこにある意図へ無言の伝心を見てとる前、観碕は微笑んだ。

「消防庁にご同行したくて待っていました、略史編纂の一環ということでお願い出来ませんか?」
「そうですか、広報サン大丈夫ですか?」

気さくに笑いかけて広報担当二人とも頷いてくれる。
その確認に笑って光一はパトカーを指さした。

「じゃあ二手に分かれて行きましょうか、五人だと狭いですから。宮田、先導してくれる?」

サシで話すチャンスじゃない?

そんな提案がパートナーの眼差しから笑う。
こんな事態も予定通りに微笑んで英二は質疑した。

「はい、でも護衛を考えると五人乗りの方が安全かと、」

自分が運転、光一が助手席、後部座席に広報二人と観碕。
そんな配置がいちばん観碕の安全確保がしやすい、けれど「盾」を作ることになる。
そこにある上下関係の軛をどう解釈するだろう?そんな思案に明朗な上司は言ってくれた。

「そうだね、後部座席なら大丈夫とも思いますが、いかがしますか?」

軽やかに肯定しながら本人に選択ごと委ねてくれる。
この回答にも「鍵」を浮ばす視界、元官僚は気さくに笑った。

「宮田君の助手席に座らせて頂けますか?老人の昔話が嫌いじゃ無ければだがね、」

提案型かつ「老人」である現状まで利用する。
こんな言い回しには頷くしかないだろう、それこそ意図通りなままパートナーが微笑んだ。

「それなら宮田とお二人でどうぞ、広報おふたりは私の運転で行きましょう、」
「ええ、お願いします、」

ほっとしたよう笑って広報二人とも歩きだす。
正直なところ気詰まりだった、そんな安堵が二人に見える。

―それくらい「観碕」は重いってことだな、

いま光一に連れられる制服姿から現実は覗かれる。
こんな相手が「標的」なことが可笑しくて、けれど爽やかな笑顔を見せた。

「どうぞこちらへ、」

笑いかけ一台のパトカーに誘導してゆく。
背後がこちら向く一台へ歩み寄り、そのまま運転席を開錠するとスーツ姿は助手席扉を開いた。
扉を自分の手で開ける、そんなことにも好感を醸すのは観碕の素なのだろう、それが「同じ」だと思い知らす。

だから想う、きっと自分も間違えば「観碕」になるのだろう?

―でも俺は正直で自分勝手だから、

心裡に笑って自分と相手の相違を確かめる。
たぶん自分勝手だから自分は違う途を選ぶ、そんな自信とパトカー走らすと助手席が笑いかけた。

「宮田君のお茶、とても美味しかったです。ご家族も茶の心得があるのでしょうね?」

意外とストレートな訊き方なんだ?
意外で、けれど納得しながら英二はフロントガラス越し微笑んだ。

「はい、祖母が少し、」
「お祖母さまの手ほどきですか、流派は?」

何げないトーンがまた訊いてくる、こんなストレートを誰も「篤実」と見るのだろう。
そんな手管も「同じ」で可笑しくなりながらも英二は爽やかな困り顔を見せた。

「ちょっと失念してしまいました、すみません、」

本当に「祖母の」流派は忘れてしまった。
その正直に答えたフロントガラス越し、品の佳い貌が笑った。

「いいえ、今時の人は茶道を知らない方が普通でしょう?だから宮田君のお茶が気になりました、」

茶が気になった、

そんなストレートの言葉に意図を計ってしまう。
きっと茶の事を訊かれるとは思っていた、その通りに観碕は探らす。

―馨さんの茶と同じ味だと解かったこと、俺に宣言したいんだろ?

観碕は馨の茶を呑んだことがある。
それは馨の日記にも記されていた、だからこそ茶を淹れてやりたかった。
茶の味から馨の俤と重ねさせて、けれど馨とは無縁なのだと誤認させてやりたい。

誤認、そこから生まれていく罠に嵌まったと気づいたら、どんな貌するのだろう?

―観碕は自分自身で現場に動いた、それが精神から崩させる、

想い、鼓動にも穏やかなまま自分の罠は編み上げられだす。
そのターゲットは助手席の至近距離から自分を見つめて、値踏み続ける。
こんな今日の涯に信頼と疑惑のバランスは一日でどう変化する?そんな推定と見るフロントガラス、空は陰翳が濃い。







(to be continued)

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Short Scene Talk ふたり暮らしact.10 ―Aesculapius act.20

2014-01-07 01:39:18 | short scene talk
二人生活@bothy2
Aesculapius第2章act.11と12の幕間



Short Scene Talk ふたり暮らしact.10 ―Aesculapius act.20

「はい、雅樹さんお酌どうぞ(笑顔)」
「ありがとう光一、照(人前でつきっきりお酌されるって照れちゃうなでも幸せ照)」
「光ちゃんもなかなかの女房ぶりだなあ?お酌のタイミングが良いよ、巧いモンだ笑」
「に…照真赤(女房ってオヤジさんそんな僕と光一の関係を無意識に言い当てないで照る困るでもなんか嬉しい喜混乱)」
「うんっ、俺は雅樹さんの女房だね(ドヤ笑顔)だからお酌も雅樹さん限定だねっ(お酌もナンデも雅樹さん限定だもんね)」
「はっははあ、こりゃ別嬪な幼な妻だなあ?雅樹さんも果報モンだよ、なあ大笑(男が女房ってなあ笑でも光ちゃん似合うな笑)」
「はい…僕も果報モンだと思っています照(真赤×笑顔)(ああ本当に僕ってラッキーだよねこんな可愛い綺麗で優しいんだ光一は照大喜)」
「ほい?雅樹さんも認めちまうんだな、笑(雅樹さん真面目なのに冗談も言うのか意外だが面白いなあ)」
「はい、照(真赤×笑顔)(ほんと幸せなんだから認めたくなるよね喜いま光一どんな貌してるか、あれ?)」
「小屋オジサン、この酒なかなか旨いね(上機嫌笑顔)」
「光一、いつのまにお酒、」
「んっ、今ちっとコップに頂いたねっ(上機嫌笑顔)」
「ははっ光ちゃんもイケる口なんだな?やっぱり吉村先生のトコは皆して酒がイケるんだなあ、笑」
「光一ダメだよお酒なんて、まだ十三歳なんだから7年早いよ?お祭りとかじゃないんだし(お祭なら儀式だけどこんな外でなんて困)」
「だったら今日はイイね、今日は俺の誕生日で祭みたいなもんだねっ(笑顔)雅樹さん、チットだけお祝いに、ね?」
「そうか、光ちゃん今日が誕生日かい?だったらお祝いしてやらんとなあ、笑」
「ほら雅樹さん、小屋オジサンもお祝いって言ってるね(上機嫌ドヤ笑顔)ね、チットだけお酌して?(極上笑顔)」
「仕方ないな、すこしだけ舐めるだけだよ?(困笑顔)(ああ僕やっぱりこの笑顔に負けて甘くしちゃうんだ父親の威厳とか急には無理かなやっぱり溜息でも幸せだな照幸)」




Aesculapius第2章act.11と12の幕間、12/23掲載の続き。
光一のお酌×雅樹@富士山小屋のワンシーンです。

Aesculapius「Pinnacle13」加筆ほぼ終わっています、また読み直し校正の予定です。
ソレ終わったら第73話の続きor他の何かを掲載しようかなと。

深夜ですが取り急ぎ、




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