黄昏、君待つ風
第67話 陽照act.4-side story「陽はまた昇る」
夕食の箸を動かしながら時おりペンを執る。
いつもの手帳にメモ取りながら打合せは進む、この時間は一週間前と違う。
たった一週間、けれど食事する相手も席も、会話内容も違っていて時間の経過が大きい。
「宮田、このコースで注意点を列挙してくれる?」
「はい、ここは作業道が入り組んでいます、この辺りは樹林の雰囲気も似ているので錯覚しやすいです、」
上司の求めに応えて箸を置き、登山図の要所を示していく。
その指先を黒木たち3人の視線が追う、どれも前と違う責務を感じながら英二は言葉を続けた。
「今期ツキノワグマの目撃があったのは、この5地点になります。どれも食料になる草木が多い場所ですが、9月下旬ならこの辺りです。
あと、こちらは鹿の多いポイントになります、害獣駆除の流れ弾に気をつけて下さい。先月に1件、道迷いのハイカーが被弾しています、」
説明していくルートは、この一年で幾度も駈けた。
青梅警察署山岳救助隊に卒業配置された去年10月、あの日から脚で頭で奥多摩の山を学んだ。
そんな日々はいつも説明される側で質問する側だった、それが今この第七機動隊山岳レンジャーで逆の立場に立つ。
―初めて御岳の登山道を巡回してから一年経ってないんだ、まだ、
心に歳月を数えながら頭と指先はルートを追い、言葉は説明に専念する。
その隣で箸を動かすアンザイレンパートナーの存在は前と同じで、けれど今は上官としても佇む。
膳を囲む仲間が同僚で先輩達だという事も青梅署と変わらない、それでも自分に対する視線は全く違う。
―もう単なる後輩で同僚じゃないんだな、俺の立場は、
いま向けられる視線たちの感情に、自分の立場が思い知らされる。
夕食を摂りながら山の話をする、それは一年変わらない日常の風景と同じだろう。
だけど緊張感、かすかな嫉妬と値踏みの眼差し、それから讃嘆、こうした空気は今までと違い過ぎる。
そんな相違の理由たちは隣に座る存在から始まった、それが自分を幾度も援けてくれる重みが今この時に解かる。
―俺よりも光一の方が、もっと、
食事と打合せを進めながら考えてしまう。
自分ですら立場に変化の途惑いがある、ならば光一はもっと変動が大きい。
それを自分は光一の隣で超えられる、けれど光一は独り山岳レンジャー第2小隊の指揮官として一ヶ月を超えた。
ずっと生きてきた故郷を離れて、「山」と離れることは光一にとって楽しい筈が無い。
それ以上に、唯ひとり想い続ける存在の名残から離れることは光一に何を想わせるだろう?
そんな時間たちは自由に生きる山っ子にとって安易なはずがない、そう想い辿るまま言葉の意味が解る。
『話したかったからね、』
毎晩ずっと光一は周太と話してきたのか?そう尋ねた答えの言葉と笑顔が今、ようやく解かる。
もしも自分が光一と同時に異動していたら、光一は独りきり自身の変動と途惑いと孤独を抱え込んだろう。
光一にとっての周太がどういう存在なのか少しだけ解かるようで、二人だけの時間が必要だったと想える。
―俺が後から異動でよかった、俺の為にも光一の為にも、たぶん周太にも…ありがとうございます、
打合せに食事する時間、後藤の采配に納得と感謝が起きあがる。
あの深い眼差しも声も懐かしい、そして明後日への心配がまた鼓動を締める。
この打合せが終わったら電話してみようか?そんな思案と説明を終えた向かい日焼あわい端整な顔が笑った。
「野生動物の生態や樹林の特徴まで掴んでるんですね、一年でここまでって凄いな、」
「ありがとうございます、先生たちのお蔭です、」
素直に笑って答えた向かい、穏やかに綺麗な瞳が笑ってくれる。
この笑顔について聴いていることを思い出す隣、テノールの声が機嫌よく笑った。
「後藤サンと吉村先生にキッチリ仕込まれてるからね、宮田は。で、今回はビバーク1泊だけどナンカ質問他にありますか?」
問いかけた上官の笑顔に3人から幾つかの確認が向けられる。
すぐ応答は済んで登山図を仕舞うと、端整な笑顔が訊いてくれた。
「湯原くんは宮田さんと同じ教場の同期だって聴いたんだけど、穂高にも登ったことあるらしいね?」
「そうらしいです、穂高のこと浦部さんにも聴いたそうですね、」
答えながらつい嬉しくて微笑んでしまう。
大好きな人にまつわる話は嬉しい、けれど緊張も同時に起きる。
―あの男に操られているかなんて本人も解ってない場合がある、内山みたいに、
緊張感と話題に、懐かしさと小さな苛立ちが思い出される。
あの同期を嫌いじゃない、けれど周太に構うことが二つの理由で気になってしまう。
その理由1つを今も向かいに座る端整な顔に見つけそうで、それでも微笑んだ前から齋藤が尋ねた。
「湯原って、銃器の第1で箭野さんが可愛がってるヤツだよな?宮田さんと同期ってことは、高卒任官じゃないんだ?」
やっぱり周太って、稚く見えちゃうんだな?
いつもながらの誤解に可笑しくて笑いたくなる。
けれど本人に伝わるのが怖くて英二は、真面目な微笑で4期上の先輩に答えた。
「はい、湯原も大卒です。私の期で入学から初任総合までずっと首席でした、」
「ずっとってすごいな、国村さんもずっと首席だったけど湯原も出世しそうだな、」
浅黒い貌ほころばせて齋藤が言ってくれる、その言葉は素直な賞賛が明るい。
けれど自分には少しも嬉しくない心配2つが鼓動で軋む、その向かい端整な貌が微笑んだ。
「湯原くん、首席だったんだね。そういうの全く言わないし見せないけど、納得だな。すごく頭が良いって高田も褒めてたよ?」
「高田のやつ、湯原に大学のノート見せてもらってるらしいな、東大の。大学に行ってるから湯原って高卒だって想ってたよ、」
率直なトーンで言ってくれる齋藤の言葉に、色んな意味で納得が笑いたくなる。
確かに周太の容貌で大学に行っていると言われたら疑いなく高卒任官だと思うだろう?
また可笑しくて笑いたい、けれど笑ったと伝わってしまう可能性に笑えない隣で誣告者候補がからり笑った。
「齋藤さん、湯原のこと完全に高卒だって思ってたんだね?ま、アンダケ可愛いと仕方ないけどさ、」
ちょっと煽らないでくれないかな光一?
そう言いたいけれど言えない、今は微笑むしかない。
そんな立場もどかしくて小さな苛立ちが熾きだす右斜め前、齋藤が笑った。
「ああ、正直なとこ可愛いって思ってたよ?あいつ、高田から色々聴くけど素直で良いヤツだよな、」
「そ、湯原って性格から可愛いんだよね。宮田もそう想うだろ?」
楽しげに隣で頷いてくれる雪白の顔が、何だか今は小面憎い。
そんな身勝手な自分に困りながら微笑んで頷いた向かい、端整な笑顔も言ってくれた。
「確かに湯原くんって可愛いですよね、話し方とか表情が純粋で少年ぽくて。良い体してるのに華奢な雰囲気だし、」
良い体って何それ勝手に見ないでくれる?
同じ隊舎の寮にいるなら共同浴場で見るだろう、けれど自分はここでまだ一緒に入っていないのに?
そんな反論に苛立ってしまう、こんな反論は自分勝手と解っていても肚は立つ。
それでも貌は微笑んで、けれど箸先つい力籠って冷奴が砕け潰れた。
「あ、」
小鉢から一欠け、大らかな放物線を描いて白く跳ぶ。
宙を飛ぶ豆腐の一片はスローモーションのよう、左斜め前の膳に落下した。
―よりによってそこに落ちるんだ?
つい心呟いた先、精悍な顔は憮然と白い一片を見つめている。
いちばん失態を見せたくなかった相手、けれど起きてしまった事態に英二は微笑んで謝った。
「すみません、黒木さん。俺のと交換します、まだ金平は手を付けてないので、」
笑いかけた先、鋭利な瞳が豆腐の落ち着き先を眺めている。
元は金平牛蒡だった小鉢を見つめて黒木は落着いた声で言ってくれた。
「いや、白和えも嫌いじゃないから、」
なんかその言い回し懐かしいな?
そう想った途端に朗らかな人の好い笑顔が記憶から笑った。
―あ、藤岡と似てるんだ?
あの気の好い同期と気難しげな先輩が、ちょっと似ている?
こんな意外が可笑しくてまた笑いたくなる隣からテノールが愉しげに暴露した。
「すみませんね、黒木さん。宮田ってナンカ食事中に粗相しちゃうんです、青梅署では味噌汁ぶちまけたりして有名でね、」
そんな情報まで流してくれるんだ?
そう思った端からまた可笑しくなる向かい、浦部が綺麗な笑顔ほころばせた。
「なんか意外です、宮田さんがそういう失敗するのって。でも本音のとこ、そういうのって俺けっこう好きだな、」
「ははっ、確かに宮田さんがって意外でなんか良いな、」
一緒に齋藤も可笑しそうに寛いだ笑顔を見せてくれる。
こんなふう親しんでもらえるのは嬉しいけれど気恥ずかしい?
そんな幾らか複雑な想いに吉村医師の言葉が記憶から笑ってくれた。
―…宮田くんの失敗が原さんの君への壁を崩したんだと思いますよ…才能と容姿の自己評価について周囲との温度差が大きいんです、
原が青梅署に異動して間もない日、食卓でコップの水を吹きだしてしまった英二に原は大笑いした。
それから原が少しずつ親しんでくれるようになったことを吉村医師は温度差にあると教えてくれた。
それが今、この第七機動隊山岳レンジャー部隊でも同じなのだろうか?
―そんなに俺のこと評価してくれてるんなら山のことでは絶対ミス出来ない、光一の補佐も、それから周太のことも、
この場所で負う立場と責任を考えながら今ここに居ない人を想ってしまう。
今日の周太は大学で研究生になる返答をして、そのあと友人と食事してから戻ってくる。
そんな時間たちが周太にとって幸せであってほしい、そんな願い微笑んで英二は丼飯へ箸を運んだ。
(to be continued)
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第67話 陽照act.4-side story「陽はまた昇る」
夕食の箸を動かしながら時おりペンを執る。
いつもの手帳にメモ取りながら打合せは進む、この時間は一週間前と違う。
たった一週間、けれど食事する相手も席も、会話内容も違っていて時間の経過が大きい。
「宮田、このコースで注意点を列挙してくれる?」
「はい、ここは作業道が入り組んでいます、この辺りは樹林の雰囲気も似ているので錯覚しやすいです、」
上司の求めに応えて箸を置き、登山図の要所を示していく。
その指先を黒木たち3人の視線が追う、どれも前と違う責務を感じながら英二は言葉を続けた。
「今期ツキノワグマの目撃があったのは、この5地点になります。どれも食料になる草木が多い場所ですが、9月下旬ならこの辺りです。
あと、こちらは鹿の多いポイントになります、害獣駆除の流れ弾に気をつけて下さい。先月に1件、道迷いのハイカーが被弾しています、」
説明していくルートは、この一年で幾度も駈けた。
青梅警察署山岳救助隊に卒業配置された去年10月、あの日から脚で頭で奥多摩の山を学んだ。
そんな日々はいつも説明される側で質問する側だった、それが今この第七機動隊山岳レンジャーで逆の立場に立つ。
―初めて御岳の登山道を巡回してから一年経ってないんだ、まだ、
心に歳月を数えながら頭と指先はルートを追い、言葉は説明に専念する。
その隣で箸を動かすアンザイレンパートナーの存在は前と同じで、けれど今は上官としても佇む。
膳を囲む仲間が同僚で先輩達だという事も青梅署と変わらない、それでも自分に対する視線は全く違う。
―もう単なる後輩で同僚じゃないんだな、俺の立場は、
いま向けられる視線たちの感情に、自分の立場が思い知らされる。
夕食を摂りながら山の話をする、それは一年変わらない日常の風景と同じだろう。
だけど緊張感、かすかな嫉妬と値踏みの眼差し、それから讃嘆、こうした空気は今までと違い過ぎる。
そんな相違の理由たちは隣に座る存在から始まった、それが自分を幾度も援けてくれる重みが今この時に解かる。
―俺よりも光一の方が、もっと、
食事と打合せを進めながら考えてしまう。
自分ですら立場に変化の途惑いがある、ならば光一はもっと変動が大きい。
それを自分は光一の隣で超えられる、けれど光一は独り山岳レンジャー第2小隊の指揮官として一ヶ月を超えた。
ずっと生きてきた故郷を離れて、「山」と離れることは光一にとって楽しい筈が無い。
それ以上に、唯ひとり想い続ける存在の名残から離れることは光一に何を想わせるだろう?
そんな時間たちは自由に生きる山っ子にとって安易なはずがない、そう想い辿るまま言葉の意味が解る。
『話したかったからね、』
毎晩ずっと光一は周太と話してきたのか?そう尋ねた答えの言葉と笑顔が今、ようやく解かる。
もしも自分が光一と同時に異動していたら、光一は独りきり自身の変動と途惑いと孤独を抱え込んだろう。
光一にとっての周太がどういう存在なのか少しだけ解かるようで、二人だけの時間が必要だったと想える。
―俺が後から異動でよかった、俺の為にも光一の為にも、たぶん周太にも…ありがとうございます、
打合せに食事する時間、後藤の采配に納得と感謝が起きあがる。
あの深い眼差しも声も懐かしい、そして明後日への心配がまた鼓動を締める。
この打合せが終わったら電話してみようか?そんな思案と説明を終えた向かい日焼あわい端整な顔が笑った。
「野生動物の生態や樹林の特徴まで掴んでるんですね、一年でここまでって凄いな、」
「ありがとうございます、先生たちのお蔭です、」
素直に笑って答えた向かい、穏やかに綺麗な瞳が笑ってくれる。
この笑顔について聴いていることを思い出す隣、テノールの声が機嫌よく笑った。
「後藤サンと吉村先生にキッチリ仕込まれてるからね、宮田は。で、今回はビバーク1泊だけどナンカ質問他にありますか?」
問いかけた上官の笑顔に3人から幾つかの確認が向けられる。
すぐ応答は済んで登山図を仕舞うと、端整な笑顔が訊いてくれた。
「湯原くんは宮田さんと同じ教場の同期だって聴いたんだけど、穂高にも登ったことあるらしいね?」
「そうらしいです、穂高のこと浦部さんにも聴いたそうですね、」
答えながらつい嬉しくて微笑んでしまう。
大好きな人にまつわる話は嬉しい、けれど緊張も同時に起きる。
―あの男に操られているかなんて本人も解ってない場合がある、内山みたいに、
緊張感と話題に、懐かしさと小さな苛立ちが思い出される。
あの同期を嫌いじゃない、けれど周太に構うことが二つの理由で気になってしまう。
その理由1つを今も向かいに座る端整な顔に見つけそうで、それでも微笑んだ前から齋藤が尋ねた。
「湯原って、銃器の第1で箭野さんが可愛がってるヤツだよな?宮田さんと同期ってことは、高卒任官じゃないんだ?」
やっぱり周太って、稚く見えちゃうんだな?
いつもながらの誤解に可笑しくて笑いたくなる。
けれど本人に伝わるのが怖くて英二は、真面目な微笑で4期上の先輩に答えた。
「はい、湯原も大卒です。私の期で入学から初任総合までずっと首席でした、」
「ずっとってすごいな、国村さんもずっと首席だったけど湯原も出世しそうだな、」
浅黒い貌ほころばせて齋藤が言ってくれる、その言葉は素直な賞賛が明るい。
けれど自分には少しも嬉しくない心配2つが鼓動で軋む、その向かい端整な貌が微笑んだ。
「湯原くん、首席だったんだね。そういうの全く言わないし見せないけど、納得だな。すごく頭が良いって高田も褒めてたよ?」
「高田のやつ、湯原に大学のノート見せてもらってるらしいな、東大の。大学に行ってるから湯原って高卒だって想ってたよ、」
率直なトーンで言ってくれる齋藤の言葉に、色んな意味で納得が笑いたくなる。
確かに周太の容貌で大学に行っていると言われたら疑いなく高卒任官だと思うだろう?
また可笑しくて笑いたい、けれど笑ったと伝わってしまう可能性に笑えない隣で誣告者候補がからり笑った。
「齋藤さん、湯原のこと完全に高卒だって思ってたんだね?ま、アンダケ可愛いと仕方ないけどさ、」
ちょっと煽らないでくれないかな光一?
そう言いたいけれど言えない、今は微笑むしかない。
そんな立場もどかしくて小さな苛立ちが熾きだす右斜め前、齋藤が笑った。
「ああ、正直なとこ可愛いって思ってたよ?あいつ、高田から色々聴くけど素直で良いヤツだよな、」
「そ、湯原って性格から可愛いんだよね。宮田もそう想うだろ?」
楽しげに隣で頷いてくれる雪白の顔が、何だか今は小面憎い。
そんな身勝手な自分に困りながら微笑んで頷いた向かい、端整な笑顔も言ってくれた。
「確かに湯原くんって可愛いですよね、話し方とか表情が純粋で少年ぽくて。良い体してるのに華奢な雰囲気だし、」
良い体って何それ勝手に見ないでくれる?
同じ隊舎の寮にいるなら共同浴場で見るだろう、けれど自分はここでまだ一緒に入っていないのに?
そんな反論に苛立ってしまう、こんな反論は自分勝手と解っていても肚は立つ。
それでも貌は微笑んで、けれど箸先つい力籠って冷奴が砕け潰れた。
「あ、」
小鉢から一欠け、大らかな放物線を描いて白く跳ぶ。
宙を飛ぶ豆腐の一片はスローモーションのよう、左斜め前の膳に落下した。
―よりによってそこに落ちるんだ?
つい心呟いた先、精悍な顔は憮然と白い一片を見つめている。
いちばん失態を見せたくなかった相手、けれど起きてしまった事態に英二は微笑んで謝った。
「すみません、黒木さん。俺のと交換します、まだ金平は手を付けてないので、」
笑いかけた先、鋭利な瞳が豆腐の落ち着き先を眺めている。
元は金平牛蒡だった小鉢を見つめて黒木は落着いた声で言ってくれた。
「いや、白和えも嫌いじゃないから、」
なんかその言い回し懐かしいな?
そう想った途端に朗らかな人の好い笑顔が記憶から笑った。
―あ、藤岡と似てるんだ?
あの気の好い同期と気難しげな先輩が、ちょっと似ている?
こんな意外が可笑しくてまた笑いたくなる隣からテノールが愉しげに暴露した。
「すみませんね、黒木さん。宮田ってナンカ食事中に粗相しちゃうんです、青梅署では味噌汁ぶちまけたりして有名でね、」
そんな情報まで流してくれるんだ?
そう思った端からまた可笑しくなる向かい、浦部が綺麗な笑顔ほころばせた。
「なんか意外です、宮田さんがそういう失敗するのって。でも本音のとこ、そういうのって俺けっこう好きだな、」
「ははっ、確かに宮田さんがって意外でなんか良いな、」
一緒に齋藤も可笑しそうに寛いだ笑顔を見せてくれる。
こんなふう親しんでもらえるのは嬉しいけれど気恥ずかしい?
そんな幾らか複雑な想いに吉村医師の言葉が記憶から笑ってくれた。
―…宮田くんの失敗が原さんの君への壁を崩したんだと思いますよ…才能と容姿の自己評価について周囲との温度差が大きいんです、
原が青梅署に異動して間もない日、食卓でコップの水を吹きだしてしまった英二に原は大笑いした。
それから原が少しずつ親しんでくれるようになったことを吉村医師は温度差にあると教えてくれた。
それが今、この第七機動隊山岳レンジャー部隊でも同じなのだろうか?
―そんなに俺のこと評価してくれてるんなら山のことでは絶対ミス出来ない、光一の補佐も、それから周太のことも、
この場所で負う立場と責任を考えながら今ここに居ない人を想ってしまう。
今日の周太は大学で研究生になる返答をして、そのあと友人と食事してから戻ってくる。
そんな時間たちが周太にとって幸せであってほしい、そんな願い微笑んで英二は丼飯へ箸を運んだ。
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