萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第71話 渡翳act.7-side story「陽はまた昇る」

2013-11-18 09:45:10 | 陽はまた昇るside story
They left behind 忘れ得ぬ嘘
※念のため後半1/3ほどR18(露骨な表現はありません)



第71話 渡翳act.7-side story「陽はまた昇る」

They left behind? 

現実を取り残したままに去ることは出来ない。
それが生きている現実なのだと今また思い知らされる、そして逃げられない。

「英二なら解ったでしょう?お祖父さんがなぜ小説を書いたのか…書かれたすべての証拠もあること、」

穏やかな声が自分を見つめて静かな瞳が自分を映す。
この声に眼差しに自分は捉えられる、この唯ひとりは自分を従えてしまう。
だから今も動き全てが奪われる、体も心も時を停めたまま木洩陽はベッドを揺れて、オレンジの香が微笑んだ。

「ね、英二…言わない事で俺を護れるって想ってくれてるのでしょう?秘密を背負わせてごめんね、ありがとう英二…でもね?」

でもね?

ただ3つの音で黒目がちの瞳ゆっくり瞬いて、優しく自分を覗きこむ。
純粋な眼差しは凛と真直ぐ見つめて、そして頬ふれる掌やわらかに引っ叩いた。

「あっ、」

ぱちん、優しい音に声が出て視界ひとつ瞬いてしまう。
いま頬を叩かれた、その優しい掌は頬ふれたまま大好きな瞳が笑ってくれた。

「英二、嘘を吐かないでって前も言ったよね、さっきも言ったでしょう?家族に秘密は要らないの、なのに嘘吐いたからおしおき、」

おしおき、だなんて良い言葉ですね女王さま?

なんて心つい呟いてしまう、今そんな台詞のシーンじゃないだろうに?
それでも今言ってくれた言葉に誘われるよう口許もう微笑んで、大好きな瞳に言ってしまった。

「おしおきって良いな、ね、周太?もっと俺にお仕置きして、俺の女王さま?」

お仕置きでも何でもいいから自分に構って?
そんな本音が隠さず笑った真中で恋人は困ったよう笑ってくれた。

「そんな喜んじゃったら、おしおきにならないよ?…英二ってほんとに困るね、」
「周太に困ってもらうって俺、なんか嬉しいな、」

笑いかけて尚更に嬉しくなってしまう。
困って貰えてなんだか嬉しい、困らせる事すら出来る今が幸せでいる。
困って笑って自分で心を充たしてほしい、そうやって自分だけ考えていてほしい。
そんな我儘と笑いかけてブランケットごと抱えこんで、見つめて、そして呼吸ひとつ事実と微笑んだ。

「周太、たしかに俺は嘘吐きな男だよ?でも周太への気持ちは嘘なんて一つも無い、絶対の約束も今だって俺は本気だ、」

自分は嘘を吐いている、けれど気持に嘘は吐いていない。
こんな自分だから大切な人を泣かせてしまう、追い詰めてしまう、この後悔ごと恋人を抱きしめた。

「自分の気持ちに馬鹿正直だから俺は光一のことも周太に話したんだ、そんな俺だから周太こそ独り抱え込んで病気になったんだろ?
もし少しでも俺を本気で好きだって想ってくれるなら周太、俺に吐きだしてよ?苦しいことも涙も何でも周太の運命に俺を巻き込んでほしい、」

どうか自分を君の運命に巻き込んで?
共に泣いても生きられる相手だと認めてほしい、選んでほしい、独りで泣かせたくない。
もう独りにならないで、離れず傍にいて、そう願うまま英二は真直ぐ恋人の瞳に笑いかけた。

「周太、首を振って答えて?言葉にすれば違反だろうから、首を振って答えてくれるだけで良い、」

言葉にすれば規律違反になる、そんな職務と立場に自分たちは立っている。
それは違う部署でも同じ組織なら同じこと、だからこそ抜け道も見つめて英二は微笑んだ。

「周太、SATの訓練は喘息にきついだろ?」

SATの訓練はきついのか?

そう問いかけた真中で黒目がちの瞳が大きく強張りだす。
どうして良いのか解らない、ただ困惑が瞳を揺らせて長い睫を零れ落ちた。

「…英二、俺、」
「ダメだよ周太、言葉にしたら違反だろ?」

笑いかけて、人差指ひとつで唇を制止する。
物言いたげな唇は指にやわらかい、そんな温もり幸せなまま笑いかけた。

「約束だよ、周太。俺はSATからでも周太を攫うよ、今から一年以内に周太を辞職させて療養させる、この約束を喜んでくれるなら頷いて?」

約束と笑いかけて、けれど訊かれた質問は秘密のまま封じこむ。
こんなことは自分勝手だろう、けれど叶えたい約束のために秘密でいたい。
こんな約束は不平等かもしれない、それでも護りたい唯ひとつの想いに英二は綺麗に笑った。

「晉さんの小説のことも親戚関係のことも、俺は周太に何も応えないし誰にも言わない、今はね?だけど時が来たら話したいよ、
その時が来るって信じてくれるなら今の約束に頷いて?俺が周太をSATから攫っても良いって許可して命令してよ、俺の女王さま?」

君を攫う約束を、どうか喜んで頷いて?

この約束の為に自分は秘密も嘘も抱えこむ、それでも約束だけは真実だと解かってほしい。
こんな遣り方しか思いつけない自分でも受容れてほしい願いに見つめた真中、黒目がちの瞳に涙ひとつ微笑んだ。

「ん…さらって?」

攫って?

唯ひと言に願ってくれる、その声は小さいけれど自分に命じた。
この聲に自分を望んでもらえる、それがただ嬉しくて幸せごと抱きしめた。

「絶対に攫いに行くよ、周太?ちゃんと周太のこと攫うから、そしたら俺の嫁さんになってくれな?」

嫁になれ、だなんて男が男に約束する台詞としては言葉が変だと言われるかもしれない。
それでも自分にとっては全て懸ける願いで約束、だから幸せに微笑んだ真中で大好きな唇が命令した。

「その約束ほんとうなら英二…きすして?」

命令のよう願ってくれる瞳は羞んだまま自分を映す。
いま木洩陽ゆれる枕で黒い髪やわらかに艶めいて長い睫へ光は踊る。
きらきら縁どる瞳から気恥ずかしげな想いが微笑む、この眼差しに全てを見つめて英二は笑った。

「絶対の約束だよ、周太?大好きだ、俺の未来の花嫁さん、」

大好きだ、そう瞳を見つめて約束を告げられる。
幸せな呼名で笑って見つめるベッドは白く陽だまり優しい、その純白に祝福を見てしまう。
男同士だから幸せな約束も法律では認められない、それでも唯ひとつの想いに唇ふれて、接吻けた。

―大好きだ、幸せだ、オレンジの香も今は幸せだ、

想い心に呼んで重ねる唇は温かい、そしてオレンジが甘くて鼓動が疼く。
あまい優しい香、けれど罹患の徴なのだと解かっている、それでも今は優しく甘く愛おしい。
たとえ病の証だとしても大切な人の一部なら愛せてしまう、そんな想いに欲張りたくてキスのはざま囁いた。

「…周太、絶対の約束ならキスだけじゃないよな?」

囁いた吐息と見つめる至近距離、長い睫ゆるやかに瞬かす。
前髪ふれあうまま吐息も交わされる、あまやかなオレンジの香に英二は誘惑を微笑んだ。

「未来の花嫁さんと絶対の約束をさせて、体ごと…約束は肌で感じ合いたい、」
「ぁ…、」

微笑んだ唇かすかな吐息あまくふれて、その香ごと唇を重ねこむ。
重ねる温もりに惹かされて融かされる、この今を交わせる香も吐息も愛しくて離れたくない。

「周太、愛してる…周太、」

想い、名前を呼んで唇重ねて通う吐息ごと抱きしめる。
ブランケットごと肩を抱いて、白い衿に指かけて寛げて、指先ふれた素肌が鼓動を撃つ。
半月より長く離れていた温もりが掌ふれて肌を求めだす、その想いのままブランケット脱がせて紫紺の帯に手を掛けた。

「…っぁ、」

キスに小さな喘ぎこぼれて煽られる、そのまま帯解けに手は絡めだす。
窓ふる陽光きらめいて紫紺の川が床へ散る、その色彩に微笑んで唇ほどき笑いかけた。

「きれいだな、周太の肌は…困ってる顔も可愛い、俺こそ困るよ?」

本当に自分こそ困ってしまう、こんなの歯止めを忘れそう?
いま病み上がりの体と解かっている、それなのに忘れそうな自分が怖い。

―ほんとに俺、このまま全部しそうだよな?準備もちゃんとしてないのに、

心裡に言聞かせたくて廻らす思案に、男同士の現実で歯止めを作りたい。
もし準備も無く男が抱かれてしまえば体を傷める、そんなリスクを恋人に冒したくない。
だから今は全部を最後までは出来ないな?そう納得しながら首筋へ唇よせて、けれど羞んだ声が囁いた。

「…あの、おれずっとたべてないから…あまりしすぎないでね」

ずっと食べていないから、なんて誘い文句に今はなっちゃうんですけど?

「周太、一昨日から祖母のアップルサイダーしか食ってないとか?」

つい質問して確かめたくなる、だってそうなら今こそチャンスだろう?
もし温かい林檎と水分しか摂れていないなら今、準備も殆ど必要ない。

―胃から空っぽなら直腸も綺麗ってことだもんな?

男同士のセックスで「最後まで」するなら抱かれる側は直腸に受容れる。
だから浣腸などの洗浄を事前に施す、けれど腸内が空なら話は少し違う。
その稀なチャンスを今に抱いている?そんな期待に恋人は素直に頷いた。

「ん…おばあさまのりんごと水と薬だけなの、ココアもさっきのが久しぶりで…だからたいりょくないから」

ばきん、

自制心の折れる音が久しぶりに響いて自分の衿元に指かける。
すぐボタン外れてゆくままワイシャツゆるんで肌が露わになる、その素肌に視線がふれる。
見あげてくれる黒目がちの瞳は途惑うよう羞んで、この貞淑ごと欲しくて腰のベルト引き抜いた。

かたん、

落したベルトが床を鳴らす、そしてウェストボタンも外される。
もう肩からワイシャツ落ちかけて素肌へ木洩陽ゆらす、その光すら温かい。
この温もりごと交わしたい吐息と体温が恋しくて、白い浴衣ひらいて恋人へ乗り上げた。

ぎしっ…

ベッド軋むまま重ねた素肌に温もり通う、この体温に融かされる。
ワイシャツも脱ぎかけのままで腕は恋人の肌を抱く、なめらかな肌に頬よせて髪ふれる香が愛おしい。
抱きしめる肢体は鍛えた洗練が端正で、けれど華奢のくゆらす少年のような体に鼓動ごと掴まれ微笑んだ。

「きれいだ周太は…大好きだ、体ごと全部を愛させて…周太、」

体ごと全部を愛したい、全てを交わして融けあいたい。
そう願うまま愛しい肌へ唇なぞらせる、キスふれるごと小さな震えが募らせる。

「…ぁ、ん…」

震えごと喘ぎこぼれて、鼓動から煽られて唇が肌に想いを刻む。
光あわい肌へと薄紅の花ひらく、その花の数だけ愛しくて離せない。
そんな想いへ優しい掌が髪かきあげ頬ふれる、すこし怯えたような仕草が淑やかに惹く。

―あ、俺もう?

ほら、惹かれるまま自分の体は素直に反応しだす。
そんな感覚すら幸せで、微笑んで英二は浴衣の脚そっと寛げ下着へ手を掛けた。

「…ぁ、あのえいじ…あ」

途惑うような声、けれど手は動いて恋人の肌が露わになる。
まだ陽が高い時、窓から照らされる艶やかな肢体は少年のまま瑞々しい。
もう腕だけが白い浴衣に隠される、前より透けるような裸身が視線を奪う。

「きれいだ…また綺麗になったね、周太は…俺の花嫁さん、」

見惚れるまま微笑んで、なめらかな脚そっと抱えて広げさす。
ゆるやかに委ねてくれる肢体は素直で、その首すじから紅潮あざやかに頬を染めてゆく。
優しい薄紅いろの貌は困ったようで、けれど見上げてくれる瞳の熱が嬉しくて笑いかけた。

「周太、俺ずっと寂しかったよ…メールもなくて哀しくて俺、ほんと傷ついて…だから周太の全部で受けとめて、癒して?」

君の全てに受けとめられたい、君と離れた孤独も哀しみも癒してほしい。
この愛しい肌に体温に自分を受容れられる、その幸せを求めて下着ごとスラックスから脚を抜いた。

しゅっ、

かすかな衣擦れ聴きながら愛しい肌へ指なぞらせる。
ふれるごと肌なめらかに震えて恥じらう、その微かな仕草に惹きこまれる。
惹きこまれて、募らされる想いごと唇で指で肌ふれるまま密やかな窄まりへ接吻けた。

「ぁっ、えいじまって!」

恋人の声が驚いて優しい手が髪ふれてくる。
頭ごと押しのけようとして腰も逃げかけて、けれどワイシャツの腕に抱きこんだ。

「だめえいじっ、なにもじゅんびしてないのにだめっ…ぁあ」

制止の命令が訴えて、けれど今は聴けない。
今は求めるまま愛しい全てに溺れこむ、その願いごと接吻けながら微笑んだ。

「…だめじゃない周太、ここも周太は綺麗だから大丈夫…俺にまかせて、」
「っ、だってえいじしたく…っあぁ…っぁ、ぁ」

止めようとする声、けれど喘ぎへ融けて委ねだす。
逃げかけた腰も腕のなか緩められ素直になる、もう肌から赦しだす。
ふれる唇に密やかな蕾ほころびだして舌を挿しこむ、その温もりに恋人が艶めく。

「ぁ…えいじ…ぁあ…ん…」

あまくなる吐息ごと肌の蕾は花ひらきだす、この深くへ自分を納めたい。
そう願うまま接吻けを解いて、細やかな腰へ腰を重ねて脚をからめて幸せに笑いかけた。

「愛してる周太…俺を受けとめて、」

自分をどうか受けとめて?そして裡から愛させて欲しい。

いま肌を盡したキスのまま君の深くも自分で充たしたい、自分だけを見つめてほしい。
この今の瞬間に願いたいまま肌ふれる、ふれる尖端に優しい蕾かすかな息づきは温かい。
このまま挿しこんで愛しい花びらに埋もれたい、そんな願いの真中で恋人は羞むよう微笑んだ。

「あのえいじいま…げんかんひらいたみたい、」

いま、なんと仰いました?

「え?」

言われた事に停まって薄紅いろの貌を見つめてしまう。
いまの言葉は冗談だと想いたい、何か新しいプレイだといいな?
そんな願望ごと首傾げて見つめて、けれど恋人は浴衣そっと掻きあわせ微笑んだ。

「あの…玄関があいたの、おばあさまかえってきたみたい?」

なにこれ寸止めかよ?

そんな心の声が呟いて、つい諦めきれない想いごと恋人を抱きしめる。
せめて15分早くしていたら叶えられたはず、その15分を今ほんとうに戻したい。
けれど抱きこんだ恋人はもう浴衣ひとつ肌を隔てて、その一枚に落胆するまま階下から呼ばれた。

「英二、周太くん、お昼にしましょう、降りていらっしゃいな。ちゃんと英二はエスコートしてきなさいよ、節度あるマナーでね?」

ほら、祖母の声は陽気なまま悪戯っ気が笑う、こんな祖母だから自分はやっぱり敵わない?








(to be gcontinued)

【引用詩文:William Wordsworth「The Prelude Books XI[Spots of Time] 」】

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