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哺乳類進化研究アップデート No.11ー類人猿はどうやってシッポを失くしたのか

2021-10-16 07:11:04 | 哺乳類進化研究アップデート

多くの哺乳類には尾(シッポ)がありますが、ヒト、チンパンジー、ゴリラ、オランウータン、テナガザルなどを含む類人猿には尾がありません。どうやって類人猿はシッポを失くしたのでしょうか。それは、ある遺伝子の作用であることがわかってきました。それについて、サイエンス誌のニュースに出ていましたので紹介したいと思います。

出典は「”ジャンピング遺伝子”は、人間や他の類人猿の尾を消し去り、先天性欠損症のリスクを高めた可能性がある‘Jumping gene’ may have erased tails in humans and other apes—and boosted our risk of birth defects. in Science, NEWS, 21 SEP 2021, by GRETCHEN VOGEL.」です。

(オランウータンなどの類人猿は、尾を持たない)

 

マウスからサルまでの哺乳類には尾があります。しかし、ヒトを含む類人猿はそれを欠いています。類人猿が尾の発生に関わるタンパク質を作る方法を変えたDNAの断片が見つかったのです。これは、一方では危険な影響ももたらし、脊髄を含む先天性欠損症のリスクをもたらす可能性が示唆されています。

ニューヨーク大学(NYU)医学部の大学院生のボー・シーアは、尾の発生に関わることが知られている遺伝子について、類人猿特有の変化を探し始めました。その結果、TBXTと呼ばれる遺伝子において、Aluエレメントと呼ばれる短いDNA挿入を発見しました。これはすべての類人猿に存在しましたが、他の霊長類には存在しませんでした。

Alu配列は、ゲノム内を移動でき、ジャンピング遺伝子またはトランスポゾンと呼ばれることもあります。おそらく古代ウイルスの残骸であり、それらはヒトゲノムに一般的に存在し、私たちのDNAの約10%を構成しています(ウイルスは、進化の原動力になっているということが近年知られるようになりました)。Aluの挿入により、遺伝子が中断され、タンパク質の生成が妨げられることがあります。別の場合には、Aluエレメントはより複雑な効果を示し、タンパク質がどこでどのように発現するかを変えます。カリフォルニア大学サンディエゴ校の進化生物学者であるパスカル・ガヌーは、この性質が進化的多様性の大きな推進力になっていると言います。挿入は「多くの場合高くつくが、たまに大当たりします」と彼は言い、進化が維持するという有益な変化が生じます。

TBXTは、ブラキュリと呼ばれるタンパク質をコードします。ギリシャ語で「短い尾」を意味します。これは、TBXTに変異があると、マウスの尾が短くなる可能性があるためです。しかし、一見したところ、類人猿特有のAluエレメントは遺伝子に重大な破壊を引き起こしているようには見えませんでした。しかし、詳しく調べてみることで、ボー・シーアは、2番目のAluエレメントが近くに潜んでいることに気づきました。そのエレメントは類人猿だけでなく、広くサルに存在しますが、類人猿では、2つのAluがくっついてループを形成し、TBXTの発現を変化させて、結果として得られるタンパク質が元のタンパク質よりも少し短くなることに気付きました。

シーアたちは、実際にヒト胚性幹細胞がTBXTメッセンジャーRNA(mRNA)の2つのバージョンを作っていることを発見しました。1つは長く、もう1つは短くなっています。一方、マウスの細胞は長めのmRNAしか作りません。次に、彼らはゲノムエディターCRISPRを使用して、ヒト胚性幹細胞のいずれかのAluエレメントを削除しました。いずれかのAluエレメントを失うと、mRNAの短いバージョンが消えました。

短縮された類人猿特異的なTBXTが尾の発生にどのように影響するかを評価するための実験として、シーアたちは、CRISPRを使用してTBXTの短縮バージョンを持つマウスを作成しました。短縮遺伝子の2つのコピーを有するマウスは生存しませんでしたが、長いバージョンと短いバージョンを持つものは、ほぼ正常な尾の長さから全く尾なしまで、様々な性質を持って生まれてきました。これらの研究結果は、プレプリント(査読前論文)としてbioRxivに掲載されました。

これらの研究結果は、TBXTの短いバージョンが尾の発生を妨げることを示唆しています。遺伝的に改変されたマウスでは尾の長さが混在していることから、他の遺伝子も協力することで、類人猿の完全な尾の除去が達成されたとも考えられますが、類人猿特有のAluの挿入は、類人猿が出現した約2,500万年前の重大なイベントであった可能性が高いのです。

一方で、遺伝子を改変したマウスは、異常に高いレベルの神経管の問題、脊髄の発生における欠陥を示しました。脊髄が閉じない二分脊椎や、脳と頭蓋骨の一部が欠けている無脳症などの先天性欠損症は、人間ではかなり一般的に見られ、1000人に1人の新生児に出現します。

私たちが尾を失ったことで、その代価も払うことになりましたが(進化にはいつもトレードオフの事象がついてきます)、運動の改善であろうと他の何かであろうと、尾を失うことには明らかな利益があったと考えられます。一部のヒトでは小さな尾を持って生まれてくることがあり、そうしたヒトたちのゲノムを配列決定することでさらなる知見が得られる可能性もあります。



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