子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

BLU-RAY「STOP MAKING SENSE」:大きなスーツと走る男とうねるグルーブ。これぞ金字塔

2010年12月19日 21時08分38秒 | 映画(旧作・DVD)
楽屋からステージに向かってゆっくりと歩いてくるデヴィッド・バーンのスニーカーを捉えたオープニングから,文字通りステージが燃え上がるような熱狂のエンディングまで,練りに練り上げられた演出が間断なく続くグルーブを余すところなく捉えた,奇跡のようなフィルム。一般にはアカデミー賞を総なめにした「羊たちの沈黙」の監督として知られているジョナサン・デミだが,デヴィッド・バーンの才気に誘発され,鋭い映像センスが花開いた本作こそが,紛れもなく彼の最高到達点だろう。

「Remain In Light」でロックの歴史に燦然とその名を刻んだトーキング・ヘッズが,1984年に行った(そしてグループとしては結果的に最後となった)ツアーを記録したライブ・フィルム。MCやステージ前後の描写はなく,純粋にステージで起こった出来事を追って記録しただけのシンプルな映像ながら,Pファンクにも匹敵するようなうねりを持った演奏と,日本の歌舞伎(直接の影響は篠田正浩の「心中天網島」からかもしれない)の黒衣をも活用した斬新な演出が相まって,最後まで観客を飽きさせない。

ラジカセから流れるリズム・ボックスの音に合わせて,バーンがよろめきながら力強いカッティングでギターをかき鳴らす「Psycho Killer」から始まり,オリジナルメンバーの他の3人,ベースのティナ・ウェイマス,ドラムのクリス・フランツ,そしてジェリー・ハリスンが一人ずつ演奏に加わっていく序盤はまるで,優れた音楽教師の公開講座のようだ。そこにバーニー・ウォーレルが加わった瞬間から,一気にファンク色を強めるところのギア・チェンジは何度観てもゾクゾクする。
スタンド・ライトを巧みに使ったスローな「This Must Be The Place (Naive Melody)」や,トム・トム・クラブのキュートな「Genious Of Love」といった変化球を挟んで,前述の「Remain~」に収録された「Crosseyed And Painless」で会場全体が至福に包まれるまでの後半の怒濤の展開は,スコセッシの「シャイン・ア・ライト」を筆頭に,その後も数多く作られたライブ映画の追随を許さない。

ブルーレイへのアダプトに際して,レストアが行われた気配はなく,画質という点では落胆したが,あらゆる瑕瑾を全てカヴァーしてしまうだけの内容が詰まっている。ロックに多少なりとも興味を持っている人ならば,とにかく一度は経験しなければならないマスト・アイテムだ。
★★★★★
(★★★★★が最高)


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