今月の温泉旅は、三重県の榊原温泉(津市)。
かの清少納言もイチ押ししたというこの温泉(『枕草子』における「七栗の湯」)は、京から伊勢に至るルート上にあり、伊勢を前にしての水垢離ならぬ湯垢離の場であったという。
それほど由緒ある所なのだが、観光地としてはいたって地味。
同じ三重県でも、長島温泉や湯の山温泉などに較べてネームバリューは小さい。
ということもあり、名古屋周辺の温泉地の1つとして、前々から気にはなっていたが、ロケーションの半端さ(観光の売りもない)もあって、なかなか足を運ぶ気になれなかった。
ただ背後の青山高原上に33基もある風力発電用風車群はぜひ見たい。
そんな折り、「湯元榊原館」が1人客対象のビジネスプラン(15800円/2食)をやっているのをネットで知り、楽天トラベルで空き状況を確認して、そのまま予約(旅館て、電話で問い合わせると、一人客だと50%の確率で断られるから嫌なんだよな)。
実はもう1つ理由があって、今月にETCを取り付けたので、休日に高速を利用できる場所ということもあった(政府の策謀にのせられたな)。
名古屋宅から東名阪・伊勢自動車道と乗り継いで90分で着いた(休日料金1250円)。
玄関前には着物姿の女性が立っており、スルッと入ってきた我が愛車シルバー・メタリックのローバー・ミニを褒める。
我が愛車を褒めてくれるのはいつも女性で、確実に持ち主よりモテている。
横に長い建物は、周囲を威圧する程に大きく、久々に泊る本格旅館。
私に対応する従業員も次々にバトンタッチされ、なるほど人的サービスも宿代のうちだなと思わせる。
老舗旅館なので、従業員の教育はいき届いている。
室内掃除は不要にしたが、アメニティなどはきちんと取りかえてくれていた。
この点さすが旅館で、休暇村やグリーンプラザとは違う。
またレストランでのコーヒーと抹茶の無料券ももらった。
建物自体は、年期が入った大旅館によくあるように、増築を重ねた結果、通路が複雑になっている。
客室は、部屋の隅に鏡台がある典型的な8畳和室に窓側のイス空間。
古さは設備にも現われて、トイレは洗浄器なし(廊下の共用トイレにはあり)。
冷蔵庫には宿の飲物が入っているが、持参したものを入れられるスペースがあるのは良心的(館内で買えるビールは地ビールとドライ)。
窓の下には川がちょっとした渓谷の風情をみせ、遠景も里山の風景を構成しているが、正面が民家なのは残念。
浴室は、最下階と屋上にある。もちろん前者が正しい温泉。
案内の写真に載っている屋上の露天に浸かっても、この地は眺める対象がない。
やはり客は下の階の源泉に集まる。
浴室は、日替わりで男女が交換するが、構成は等しく、大浴場・源泉浴場・半露天の3種。
ここの源泉は32℃なので、大浴場と半露天は加熱しているが、加熱なしの真の源泉の数人分の浴槽に客は集まる。
しかもその温度なので、入浴時間が長くなる。
泉質は”アルカリ単純泉”だから、それほどありがたがるほどの効果はないと思うが、源泉にじっと浸かっている客はみな神妙に沈黙。
ただアルカリが強いのか、体に石鹸をつけると、ぬめりがいつまでも落ちない(成分表にはpH表示なし)。
こういう古い温泉旅館は、建物の古さを補うためにかえって料理に力を入れるもの。
食事には栄養的価値を優先する私としては、カロリーオーバーの豪勢さは不必要なのだが、ここのは肉は遠慮気味で、野菜がたっぷりなので安心。
2日目のカニ鉄板焼きも豪勢。
最後に出てくる飯の位置づけには、1日目は文句を言いたかったが、2日目の白米の時はちゃんと鉄板焼きの時に出してくれた。
また、最後の茶が、数種類の茶葉を好みでブレンドして飲む仕掛けになっているのは、気に入った。
煎茶の点前って退屈で、抹茶ほど盛り上がらないのはよくわかるが、日常的に喫するのは煎茶の方だから、もっと楽しく淹れる方法がないものか、と思っていた。
煎茶こそ、味だけでなく、色や香りの多様性を楽しめる茶なのだから、こうやって、ハーブティーも含めたブレンドを楽しむ方向に煎茶再生の道がありそう(様々な薬効も期待できるし)。
榊原温泉自体のロケーションは、山麓の里山。
田舎の中(写真)。
宿はいくつもあるのだが、温泉街を形成していない。
ていうか、街的場所がまったくない。
なので、歓楽街的な下品さはなく、のどかで落ち着けるといえるが、買物は3㎞先のコンビニ…。
観光名所は青山高原の風車群だが、行こうと思っていた翌日は雨だった(雨の直前に裏の金毘羅山に登った)。
私のように原稿執筆に来るならいいが、そうでない人には連泊は辛そう(かといって湯治という雰囲気でもない)。
かくいう私は、いろいろ文句を書いたものの、半露天に浸かっている時「また来たい」と思った。
風車を見れなかったし、秋が深まった頃にまた来たい。
片道90分だから、帰りも10時に発って、昼の会議に間に合う。
つまり、我が「毎月2泊の旅」用の宿に晴れてリスト入りしたわけだ。