中津川にいるので、「中山道歴史資料館」に行った(幾度目か)。
資料館が強調するには、ここ中津川は、幕末維新の流れを下から支えていた”民衆史”の中心点の1つだという。
世の幕末維新の関連の本は、ほとんどが歴史の表舞台の立て役者についてだが、
彼らを下から支えた民衆史に焦点を当てたものは少ない。
その中の最高傑作といえるのが、島崎藤村の『夜明け前』
(いちおうフィクションの体裁ではある)。
私にとっては、島崎藤村こそ”文豪”の名に値する作家。
一般には、藤村は、明治以降の文学者では、漱石・鷗外に次ぐ、
3番手以降の位置づけだろう。
だが、藤村は、まずはわれわれに”初恋”という概念を与えた。
「まだあげ初めし前髪の」で始まる「初恋」(若菜集)の詩(うた)に接したのは、
自分の初恋をとうに過ぎてからだが、
この詩に接して以来、私にとって初恋の感動はこれになった。
そして私が最初に藤村に接した小説『破戒』。
文学史上では、”自然主義”なんだろうが、
社会的タブーであった差別問題を
当事者の視点で描いた画期的な作品として有名。
そして大作『夜明け前』は、馬籠宿における、
幕末維新の生き生きとした民衆史でありながら、
維新の現実に失望した民衆・個人の苦悩を描いている点で
見事な文学である。
維新へと駆り立てた民衆が準拠したイデオロギーは平田国学であるが、
その社会的影響の変化についても勉強になる。
木曽の馬籠や中津川に旅する人は、ぜひ事前に読んでほしい
(文庫本4冊分なので旅行先で読むわけにはいかない)。
藤村の絶筆『東方の門』は、『夜明け前』の主人公と縁ある人が主人公で、
しかもより大きなスケールを予感させているが、
序盤で終わっているのが残念だ。
というわけで、今晩は、以前に買ったビデオ(からデジタルコピーした)映画『夜明け前』(主演:滝沢修)を鑑賞する。