今日こんなことが

山根一郎の極私的近況・雑感です。職場と実家以外はたいていソロ活です。

那須岳の雪崩遭難に思う

2017年03月27日 | 山歩き

那須岳での高校生たちの雪崩遭難は、教員引率の安全講習中という、
高校生たちにとっては自分の意思で行動をコントロールできない状況であっただけに、
なおさら可哀想だ。

私が高校(都立)の時(ワンゲル部員だった)は冬山は禁止だった。

でも、それだけにかえって冬山に対する憧れが強く、
本格装備が必要ないギリギリの雪山には自分たちだけで行った。 
そして、そこで雪崩の跡に出くわした。

この”春山”安全登山講習会は半世紀も同じことをやってきて、今回が初めての事故だという。
かように、自然災害というのは、経験則が効かない。
言い換えれば、自然に対して、毎年無事なのだから今年も大丈夫という”経験則”に陥ることは、
とっても危険な思考である(さらに以前の「玄倉川水難事故」もこの思考が原因)。

ヒマラヤ経験者であっても、日本の山で遭難死した人は多い。
自然を相手にしている行為には、過去の経験よりも、この先の予測力が大事。 

今朝の積雪は、例年にない量だったという。
この事実こそ、経験則を無効にするに充分と心得てほしかった。 

雪崩は山腹の斜面で起きる。
だから雪崩の危険がある時(「雪崩注意報」という情報の有無にかかわらず、
雪崩には細心の注意を払うのが雪山では当たり前)、 山腹の斜面を避けるのが鉄則。
すなわち雪崩の発生源(斜面)より常に高い稜線を歩く。
今回の事故現場は、細かい地形は不詳だが、麓から稜線に達する斜面といってもいい
(さらにその谷部だった可能性が高く、それなら雪崩が集まる最悪のルート)。
雪崩はその斜面の上からやってきたようだ。
だから、縦列で登っていた先頭部がやられた。
深い新雪のラッセル中なので、とてもじゃないが逃げられないから。 

結果論だが(自然災害はどうしてもそうなる。他山の石とするしかない)、
思いがけない新雪のため、登頂予定を変更し、ラッセル訓練にしたのは、
雪山の講習としては、それなりに合理的な判断といえる。 

問題はルートだ。
本日の”例年にない”降雪直後なら、
新雪雪崩は予想の内に入れておかなくてはならない(過去経験に頼ってはならない)。
ということは、上部に積雪のある斜面は絶対に避け、ちゃんとした稜線にすべき。
近くにそれがなかったら、広い雪原か、そもれなかったらあきらめる。

雪山における雪崩は、鉄砲水と同じで、絶対に避けねばならない致死的危険だから。
ましてや”安全講習”なのだから。 

それから、雪崩が来た時、「伏せろ!」と指示したらしいが、この指示は疑問だ。
雪崩は、津波や鉄砲水を同じく巻込まれたら、もうおしまい。
伏せる(フリーズする)ことに防御の効果はまったくない(実際、死因は圧死だった)。
頭部防御のために伏せる意味があるのは、コブシ程度の落石レベル。
人を呑み込む強大なパワーに対する防御は「逃げる」しかない。
できるだけ早く、速く。
そして逃げる方向が大事。
雪崩の速度は時速100kmを越すから、反対(後ろ)方向に逃げても無理。
幸い、雪崩は幅が限定されているから、進行方向の直角(側面)に逃げるのが一番リスクが低い(竜巻の場合も同じ)。
人間が本能的に獲得している最適な”逃避行動”を、その場で阻止した意味がわからない(”パニック”を恐れたのかも)。 

よしんば逃げるには遅過ぎたとしても、伏せて重心を低くすることは、
圧死を招くだけで、やはり意味がない。
力学的に言えば、むしろ重心をできるだけ高く(できたらジャンプ)することで、
雪崩の上層部(密度が低い)で流された方が、圧死・窒息のリスクが下り、自力で這い出られる可能性を増やす。 

ちなみに、冬山(厳冬期)と春山(3月以降)は、気温こそ冬山の方が厳しいが、
積雪量はむしろ春山の方が多い。
春山は、吹雪による凍死は減るが、表層雪崩に加えて、全層雪崩の危険が増える。 


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2 コメント

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追悼 (菊田真千子)
2017-03-28 09:59:24
高校時代 栃木で 山岳部に 所属していました
今回の事故で 亡くなられた 若者たちに 追悼申し上げます
那須岳は 何回か 登りました
この季節に 何故?と 悔やまれます
これから アルプスを目指していただろうにと 思うと 可哀想で いたたまれません
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追悼 (山根)
2017-03-28 18:19:43
菊田さん、コメントありがとうございます。高校生たちは指導のもとでその場所に行かされて、犠牲になりました。
残された私たちは、この事故からできるだけ多くの教訓を引き出すことで、忘れないものとしたいです。
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