光と音と水と風の織り成す空間

2012-11-29 00:28:04 | その他旅行き

豊島は小豆島の西にあるまずまず大きな島です。
少し前、番組名は忘れましたが、この島にある豊島美術館を訪れるTV放送を見ました。
こんな美術館があるんだ。
変な美術館です。
だって美術品の飾られていない美術館なんですから。
建物の内と外、その空間が作品なのです。
おもしろいのかな?
機会があれば行ってみたいと思っていましたが、早くもその機会を得る事ができました。



豊島へは宇野から小豆島行のフェリーで。
小豆島へ行く途中、豊島の家浦港と唐櫃港に寄って行く便でした。
天気は雨上がりの曇り。
前日まで雨予報だったので、雨が落ちて来ないだけありがたい。
唐櫃港で下船し、美術館まで20分くらい車道を歩く。



右手が開け、海へと続く棚田が並ぶ。
振り向くとそこに美術館はありました。
地中に埋もれる様に、丸く白い建造物が2棟並んでいます。
これか。
目立たぬよう設けられた別棟のチケットセンターで説明を受ける。
建物そのものだけでなく、入口まで辿る白い回廊やそこから望める棚田、海の眺めも作品の一部として鑑賞してください、とのこと。
写真撮影は本館(アートスペース)内のみNG。
おー、外は撮影OKなのね。
秋の雰囲気が満ちて、なかなか魅力的な遊歩道でした。







アートスペース入口にも係員の方がいて、鑑賞に当たっての注意事項を聞きます。
非常に音が反響するので配慮するよう声を抑えておっしゃります。
土足では入れず、上履きに履き替えて入場。
夏場は裸足で入るらしい。
狭く短いトンネルを潜ると作品内。
TVの映像で内部がどんなかは知っていたので、見た目の驚きはありませんでしたが、自身を取り巻くその場の雰囲気まではTVでは当然体感できません。
そこはなんというか、穏やかな場所でした。



白いコンクリートの床と、
床から斜めに立ち上がる天井が丸く覆う広い空間。
上も下もただただ白い空間があるだけ。
本当に音が響く。
先客は5人ほど。
みんな静かに佇んで鑑賞中。
自らはわずかな音も立てまいと思う場所。
天井には二ヶ所、
大きく丸い穴が開いて外とつながり、
光と風と音が入ってくる。
朝、
雨が降ったのか、
床に水滴が粒々と残っていた。
なんとも静かな感覚。
丸い大きな窓からは周りの林に住む小鳥の声が入ってくる。
カラスの遠慮ない鳴き声も差別なく。
何の音か?小さく連続して響いてくる。
新たな入場者が上履きに履き替える音が入口から響く。
それすらも作品の一部。
音が聞こえない時でも身の廻りに何か存在しているような気配がある。
見所のひとつは床を転がる水滴。
床のいたる所にある小さな穴から水が生まれ、滴となり留まる。
複数の滴はひとつになり、
自身の重さに耐えきれず、
ほんのわずかに傾いた斜面を流れ出す。
途中で千切れる事無く、
蛇の様にひもの様に、
ながくながく伸びて、
光を体内を透過させ留まらせ、
白く黒く、
その瞬間だけの明暗を閃かせ、
軽やかに床を這う。
床に触れてみるとコンクリートは透明な樹脂のようなもので覆われ、水を弾くように作られていた。
いくつか床の浅い窪みに穴があり、
一体となった水を引き込み落とす。
穴の底に水がしたたる音が周りの空間に小さく小さく反響する。
ココココココ。
音があるのに静けさが高まる。
丸い窓には白く長いリボンが結ばれ、
わずかに吹き込む風に形を変える。
足音を忍ばせ歩けば、
窓から覗く背景が移ろい、
白い空、
赤い紅葉、
緑の斜面が借景となり、
自分が自然に含まれている感覚を増幅してくれる場所なのだと理解した。



過去、人為的施設でこんな経験をしたことは皆無です。
来て良かった。
入場した時のがさつさが退場する時はすっかり無くなり、放り投げて履いた上履きは音立てぬよう元の場所に納め、そっとそっと靴を履く自分がいました。
三連休だし、人が一杯だったらどうしようと心配でしたが、入れ替わる他のお客さんの人数は6~7名で、この素晴らしい空間を存分に楽しむ事が出来ました。
天候や季節が変われば、また違う経験が出来るのでしょうね。
2年前の瀬戸内国際芸術祭の混雑時は、人数と時間を区切った入れ替え制だったとか。
その芸術祭、来年の春からまた開催されるようです。
もし訪れてみたいと思われているなら、今がチャンスですよ。
平日に来れれば、冬のしんと冷えた空気の中、この空間を独り占めできるのでは。