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 まぼろしのロックンローラー

2018-01-22 20:51:39 | 日記
 目を開けると、大きな窓に雪が舞っていた。「雪ですね!」通っている歯科医院の窓はサンルームのように大きい。その窓いっぱいに雪が舞う。うつくしい。ロマンチックな雪に、たまには消えてなくなるようなうそをついてみたい。

 もと夫と彼女の幸せそうな写真を見て、この話も時効になるだろう と思った。もう、20年以上前のこと。塾がどんどん拡張路線を取っているころのこと。もと夫と私は別姓で夫婦であることは、銀行と不動産屋さんくらいしか知らなかった。夫がC型肝炎の治療になり、彼の分も働いていた。そんなときに、よく手伝ってくれたのが、アルバイトのH君だった。T大の3年生。息子のような年だ。ロックをやっていて長身で髪も伸ばしていた。うまく薬が効いて、夫のC型肝炎が治った。さらに教室を隣の駅に増やした。H君の授業もそちらになり、私はそこの責任者だった。

 気がついたのは、H君が就職活動を始めたころだろうか。いつも鍵を閉めて帰る私と待っていてくれたのは。もちろん、教材整理などをしていたが。駅まで5分。少しさびしいところなので一緒に行きます という。なんとなくそれが習慣になって、就職の話などをし駅までて歩いた。就職も決まったが、1月まで迷って、H君はそれをけった。

 1年間、H君は司法書士か行政書士の勉強をするという。心のどこかで塾にいてくれることを喜んだ。ネクタイは合わないという。また、1年間、H君は私を助けてくれた。私の心が苦しくなったのはその1年だ。H君の心にも私の心にも蓋をした。そして、司法書士の事務所に就職が決まったといって春期講習が終わると退職した。退職の日に、お別れ会があったが、私は出なかった。夫から彼がまだ会に来ないと電話があった。急いで教室の外に出ると、いつもの場所にH君がいた。何分待ったのだろうか。

 石神井川の夜桜は妖艶でうつくしい。一緒に見たいと言う。3年の年月を思い出しながら歩いた。その背の高さと髪の長さを感じながら歩いた。それだけのこと。うつくしうそはこれで終わり。

 
コメント
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