太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

ヨロコビ

2011-11-08 16:01:49 | 日記
本を読んでいたら、私の目に飛び込んできて、しばらく動けなくなった言葉があった。

心がむちゃくちゃ喜んでいるのがわかる。自分の心が喜ぶことが分かるのは、世界中で私ひとりなんだ!


これは たかのてるこ 著の「ガンジス河でバタフライ」という、旅のエッセイの中にあった。

一人旅がしてみたいが、小心者で勇気がなく、思い切って格安チケットを買ってしまったあとも、行かなくて済む理由を探し続けてしまう彼女。

思わず抱きしめてしまいたくなるほど、その気持ちがわかる。



私は過去の人生の大半を、何かの目的のために生きてきたような気がする。

ピアノを習うのは、ピアノが上手に弾けるようになるため、勉強をするのは、いい学校に入るため。

それをすることによって得られる何かが欲しくて、それが動機であることが多かったし、またそのことに疑問も持たなかった。


ただ、人生を大きく変える出来事は、何の目的もなく、ただそうしたかったからという理由で決めてきた。



進学校に入り、まわりに流されて大学受験をすることに反抗してみたかったという理由で、高3の夏にいきなり美大に進路変更したとき。

ある日突然、10年余の不自然な結婚生活がむなしくなり、離婚しようと決めたとき。

英語もろくに話せないのに、アメリカ人と結婚しようと決めたとき。



どの時にも、猛反対にあった。

反対されればされるほど、私はそれをやりたくなり、しかしその一方で、どうにかそれをしなくて済む、正当な理由も探していた。

私を思いとどまらせようとする周囲の意見は、ことごとく、私の心のどこかに潜んでいる不安そのものだった。



美大は90%受からないと言われていたし、離婚したあとどうやって生活するかも、アメリカ人と結婚してうまくいくのかもわからなかった。

先は見えなかったけれど、それが自分の心が喜ぶことだという確信があった。

そして、そう確信したことは、どれも確実に私を幸せにしてきた。


外側の準備などはいらない。

先々の安心を確保してから動くのでは、英語が話せるようになってから結婚するのでは、遅すぎる。

行き当たりばったり、猪突猛進、見切り発車、人はいろいろに言うけれど、どんなに準備しても、それは誰かのデータから得た想像にすぎず、

最悪のシナリオを繰り返し思い描き続けるほど、人生は長くないのだ。




今、チンプンカンプンな早口英語に愛想笑いをしながらも、ハワイに住むことも、私の心が喜ぶことに違いない。

絵を描きたければ描いて、海に行きたければ行き、おもしろそうなことが仕事になれば、仕事をすることもあるかもしれない。

今この瞬間、私の心が喜ぶことを楽しんでいる自分にOKを出せるようになった自分に、ずいぶん遠くまで来たもんだと思う。



それでも時折、中心がブレそうになる。

自分のヨロコビに正直に生きている人の生き方は、私に勇気をくれる。








クーガー

2011-11-08 11:32:22 | 日記
何人かのアーティストが集まって作品を展示販売するアートショーに行った。

「日本の方ですか」

話しかけてきたのは、細身で背が高くハンサムで、人柄の良さが顔ににじみでているような紳士だった。

「ワタシノ オクサン、 ニホンジン デス。ミチコサン ト イイマス」

彼の名前はカーターといって、アーティストであり、彼の描いた油絵は、色のトーンが優しい、どこまでも穏やかな絵だった。

「イチカワ 二 スンデ イマシタ。1967ネン デス」

と、日本語はここまでで、あとは英語で彼の歴史を語ってくれた。



彼はニューヨーク出身で、海外青年協力隊(こういう名前だったっけ?)のようなものに参加して、タンザニアやケニアで何年か過ごした。

ケニアでミチコさんに出会い、ミチコさんは英語があまり得意でなかったため、スワヒリ語でコミュニケーションしていたという。

カーターはミチコさんが好きで好きで、先にケニアを発った彼女を追いかけて日本に来てしまった。



家族の写真を、大事そうにお財布から取り出して見せてくれた。

娘は、とびっきりのエキゾチック美人、息子はキアヌ・リーブスかと思うほどのハンサムガイ。

そしてミチコさんは、弁天様のような美しい人だ。


私の夫が、私より7歳若いと知ると、

「クーガーっていうんだよ、年下の彼がいる人。知ってた?」

「クーガーって、あのチーターのような動物??」

「そうそう、かっこいいよね、クーガー。うちの娘のボーイフレンドも7歳年下だから、クーガーだよ」

「ふーん、ミチコさんはどうなの?」

するとカーターは、一瞬考えてから

「あッ!!ミチコさんもクーガーだった!!2歳若いんだよ、僕。あー、知らなかった、彼女もクーガーだ・・」






カーターには、どこかしら日本人のような雰囲気がある。

それは私の夫が持っているものと似ている。

うまく説明するのは難しいけれども、外国人と接する時の、ある種の緊張を感じさせない、とでもいおうか・・・

それは少しばかり日本語を話すからではなく、何か圧倒的にその人から出てくるもの。



それから、カーターとEメールのやりとりが始まった。

話す英語とは違って、ごまかしのきかないメールの英文を作るのは、ひどく時間がかかるのだが、

カーターの、ユーモアにあふれた、楽しい返事を読むと、またムクムクと何か書きたくなってしまう。

きっと近いうちに、ミチコさんと会える気がする。