数字が苦手だ。
日本でOLをしていた時、請求書の桁を間違えて冷や汗をかいたことが数回あった。
社内用の売り上げ数字を間違えて、会計事務所から電話があるなんてこともあったし、およそ事務には向いていない私を、よくもずいぶん長いこと雇ってくれていたものだと、あの会社には感謝している。
クリスマスの買い物に出かけて、夫によさそうなTシャツを見つけた。
夫の服を買うときに、いつも迷うのがサイズだ。手持ちの服はXLのものもあれば、Lもあって、よくわからないのだ。
Tシャツを前にして迷っていると、スーザン・ボイル似の店員さんが笑顔で声をかけてきた。
「何かお探しですか?」
「これが欲しいんだけど、サイズがどうかなーと思って」
「あなたがあげようとしている人はどのぐらいの体格なのかしら」
「えーーっと・・・・」
私の頭から、覚えたはずの「フィート」の単位がすっかり抜け落ちていた。スーザン・ボイルは私の目をヒタと見つめ
「イエス、マム!」
と次の言葉を待っている。
「私、フィートがわかんなくなっちゃった。センチメートルでもいい?」
「シュア! ゴーアヘッド(もちろんですとも!さあどうぞ!)」
実は、英語で数字を読むのも言うのも、ものすごく苦手である。
頭の中で、数字を並べて、それを日本式に三桁ごとにコンマをつけ、どの数字から「サウザンド」になり、どこから「ミリオン」になるかを丸く囲って、ようやく何とか数字になるので、ひどく時間がかかる。
「エイティーン・・・ノーノー、あー」
「イエス、マム!」
「ワン ハンドレッドー・・ナインティーン・・あれ」
「ゴーアヘッド!カモン!」
スーザンは私が数字を言うたびに、頭の中でセンチメートルに換算してくれているのだろう。目を泳がせながら真剣に聞いている。
「ワン ハンドレッドー・・ナインティー ・・・」
「イエス!カモーン、カモーン! オールモスト ゼア(あと少し!)」
「ワンハンドレッドー・・ナインティー・・ファイブ・・・ メートル !」
数秒の沈黙のあと、私とスーザンは顔を見合わせて大笑いした。
「195メートルだってーー!ゴジラかっつーの! ヒーヒー・・」と私が言うと、スーザンも涙を流して
「悪いけどそんな大きなサイズないわー、ヒーヒー・・」
結局、スーザンの息子が190センチでLでOKというのと、XLがやけに横幅が広いので、Lを買った。
思い出し笑いをしながらラッピングしてくれたスーザンに別れを告げ、喉が渇いたのでカフェに入った。
誠実そうなロコボーイが笑顔でレジに立っていた。
「イタリアンソーダってどんなの?」
「簡単にいうと柑橘系のソーダだよ。それにする?」
「いや、やっぱアイスティにするワ。パッションフルーツのアイスティの20オンスにする」
「僕もフレーバーならパッションフルーツが一番好きだよ。他にはいい?じゃ、3ドル78セントね」
5ドルより小さい紙幣がなかったので、日本でもそうするように、5ドル78セントを出す。
すると私の選んだコインの組み合わせが違っていて(10セント玉と25セント玉の区別がわかりにくい)、誠実ボーイが
「うーんと、これを返してー・・・」
と一つコインを私に戻したが、もうそうなると私は何がなんだかわからなくなってしまう。
「もう私わかんないから、何を出せばいいか言って。それを出すから」
誠実ボーイは笑いながらお金を受け取った。
「さっきもフィートがわかんなくなっちゃったし、英語で数字を言うのも時間がかかるんだよねー」
「外国の人は慣れるのが大変だと思うよ。だからわからなくても大丈夫さ。気にすんなー」
と、おつりと一緒に笑顔をくれた。
ここではどこに行っても、一人で行動していると特に、誰かと会話をすることが多い。たとえ初めて行ったスーパーのレジでも「ハイ、ハウアーユー、トゥデイ?」と声を掛け合う。
「聞いてくれてありがと。今日は寝不足であまり元気じゃないのよー」などと返ってくる。
手に取った商品を落としかけてキャッチすれば、隣りの人が「ナーイスキャーッチ!」と手を叩く。
もちろん、黙って買い物をすることもできるけれど、自分の垣根を取って、1歩外に進めば、1歩ぶんの違う景色が見えてくる。
英語や数字がわからないことが恥ずかしくない私もどうかと思うが(恥ずかしい段階は過ぎた)
そんな自分でよかったとも思う。
英語や数字やコインには、いつかきっと慣れるだろう。
日本でOLをしていた時、請求書の桁を間違えて冷や汗をかいたことが数回あった。
社内用の売り上げ数字を間違えて、会計事務所から電話があるなんてこともあったし、およそ事務には向いていない私を、よくもずいぶん長いこと雇ってくれていたものだと、あの会社には感謝している。
クリスマスの買い物に出かけて、夫によさそうなTシャツを見つけた。
夫の服を買うときに、いつも迷うのがサイズだ。手持ちの服はXLのものもあれば、Lもあって、よくわからないのだ。
Tシャツを前にして迷っていると、スーザン・ボイル似の店員さんが笑顔で声をかけてきた。
「何かお探しですか?」
「これが欲しいんだけど、サイズがどうかなーと思って」
「あなたがあげようとしている人はどのぐらいの体格なのかしら」
「えーーっと・・・・」
私の頭から、覚えたはずの「フィート」の単位がすっかり抜け落ちていた。スーザン・ボイルは私の目をヒタと見つめ
「イエス、マム!」
と次の言葉を待っている。
「私、フィートがわかんなくなっちゃった。センチメートルでもいい?」
「シュア! ゴーアヘッド(もちろんですとも!さあどうぞ!)」
実は、英語で数字を読むのも言うのも、ものすごく苦手である。
頭の中で、数字を並べて、それを日本式に三桁ごとにコンマをつけ、どの数字から「サウザンド」になり、どこから「ミリオン」になるかを丸く囲って、ようやく何とか数字になるので、ひどく時間がかかる。
「エイティーン・・・ノーノー、あー」
「イエス、マム!」
「ワン ハンドレッドー・・ナインティーン・・あれ」
「ゴーアヘッド!カモン!」
スーザンは私が数字を言うたびに、頭の中でセンチメートルに換算してくれているのだろう。目を泳がせながら真剣に聞いている。
「ワン ハンドレッドー・・ナインティー ・・・」
「イエス!カモーン、カモーン! オールモスト ゼア(あと少し!)」
「ワンハンドレッドー・・ナインティー・・ファイブ・・・ メートル !」
数秒の沈黙のあと、私とスーザンは顔を見合わせて大笑いした。
「195メートルだってーー!ゴジラかっつーの! ヒーヒー・・」と私が言うと、スーザンも涙を流して
「悪いけどそんな大きなサイズないわー、ヒーヒー・・」
結局、スーザンの息子が190センチでLでOKというのと、XLがやけに横幅が広いので、Lを買った。
思い出し笑いをしながらラッピングしてくれたスーザンに別れを告げ、喉が渇いたのでカフェに入った。
誠実そうなロコボーイが笑顔でレジに立っていた。
「イタリアンソーダってどんなの?」
「簡単にいうと柑橘系のソーダだよ。それにする?」
「いや、やっぱアイスティにするワ。パッションフルーツのアイスティの20オンスにする」
「僕もフレーバーならパッションフルーツが一番好きだよ。他にはいい?じゃ、3ドル78セントね」
5ドルより小さい紙幣がなかったので、日本でもそうするように、5ドル78セントを出す。
すると私の選んだコインの組み合わせが違っていて(10セント玉と25セント玉の区別がわかりにくい)、誠実ボーイが
「うーんと、これを返してー・・・」
と一つコインを私に戻したが、もうそうなると私は何がなんだかわからなくなってしまう。
「もう私わかんないから、何を出せばいいか言って。それを出すから」
誠実ボーイは笑いながらお金を受け取った。
「さっきもフィートがわかんなくなっちゃったし、英語で数字を言うのも時間がかかるんだよねー」
「外国の人は慣れるのが大変だと思うよ。だからわからなくても大丈夫さ。気にすんなー」
と、おつりと一緒に笑顔をくれた。
ここではどこに行っても、一人で行動していると特に、誰かと会話をすることが多い。たとえ初めて行ったスーパーのレジでも「ハイ、ハウアーユー、トゥデイ?」と声を掛け合う。
「聞いてくれてありがと。今日は寝不足であまり元気じゃないのよー」などと返ってくる。
手に取った商品を落としかけてキャッチすれば、隣りの人が「ナーイスキャーッチ!」と手を叩く。
もちろん、黙って買い物をすることもできるけれど、自分の垣根を取って、1歩外に進めば、1歩ぶんの違う景色が見えてくる。
英語や数字がわからないことが恥ずかしくない私もどうかと思うが(恥ずかしい段階は過ぎた)
そんな自分でよかったとも思う。
英語や数字やコインには、いつかきっと慣れるだろう。