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ウクライナで米ロ手打ち   文科系

2015年07月31日 11時33分32秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)
 田中宇の国際ニュースに、耳よりな記事が載っていた。ウクライナがクリミアの独立を認める憲法改正案を国会可決したという。これはロシアの望んできた着地点だが、アメリカが陰で動いてロシアと手打ちをしたという。田中宇のニュースの考え方には必ずしも賛成する僕ではないが、こういう世界史的事実関係については、いつも見る事にしてきたので、ここに紹介したい。
 でもこの事実、米ロは本当に密かに、かつ遠慮がちに進めているらしい。ウクライナ問題は元々アメリカが火を付けたもの。このマッチによる火事に対して、今アメリカがロシアと一緒になって火消ししているのだから、不思議な光景である。アメリカがマッチを付けて、米ロでポンプを押すという、結果的にはマッチポンプということになった。ロシアの「決断+粘り」勝ちをアメリカが認めたということだろう。
 かくして日本は又、蚊帳の外。マッチで付けられた大火事だけ日本には残って、ロシアとは制裁など冷えたままである。政界だけではなく、(「ロシア悪」とだけ騙された)マスコミまでがそうなっている。アメリカのやり方はいつもこうだ。日中対立を散々煽っておいて日本の頭越しに中国と手打ちとか、「分割して統治せよ」とか「合従連衡」とかは昔からある作戦だが、それにしても・・・・。
 このニュースを紹介してみよう。 


【(前略) 今年初め、露独仏の努力でウクライナ東部の停戦協定(ミンスク2)が締結された後も、米国は、停戦違反を繰り返すウクライナの反露的なポロシェンコ政権を支援し続けている。米国は、NATOや、欧州の対米従属状態など、自国の覇権体制を守るため、ウクライナの内戦を起こしてロシア敵視を強化し、米国が欧州を引き連れてロシアと恒久対立する新冷戦体制を作ろうとしており、危機はまだまだ続くというのが、これまで多い分析だった。

 ところが今、米国は突然、ウクライナの内戦を急いで終わらせようとする動きを始めている。7月16日、米国の圧力を受けて、ウクライナのポロシェンコ大統領が、東部地域に自治を与える憲法改定の法案を議会に提出した。同日、米国からヌーランド国務次官補がウクライナ議会に乗り込み、議会の3分の2の賛成が必要な憲法改定の法案が間違いなく可決されるよう、圧力をかけた。

 これまでウクライナ危機をさんざん扇動してきたヌーランドが(おそらくオバマの命を受け)危機を沈静化する憲法改定をしろとウクライナに圧力をかけるのは皮肉だ。圧力の効果で、東部の親露派を敵視して自治付与の憲法改定に反対してきた議員たちもしぶしぶ賛成し、法案は288対57で可決され、憲法裁判所の判断を経て正式決定することになった。

 東部に自治を与える憲法改定は、ミンスク2の停戦協定に盛り込まれた、ウクライナにとっての義務だった。ロシアは以前からウクライナに憲法改定を求めてきたが、ウクライナは拒否していた。憲法で東部に自治が与えられれば、内戦は終結し、ロシアとウクライナの対立も下火になり、ウクライナ危機が解決に向けて大きく動く。これは、ロシアが切望し、米ウクライナが拒否してきた展開だ。

 米国がウクライナ問題で急にロシアに譲歩するようになったのは、米国がイラン核問題やシリア内戦、ISISなどの中東の諸問題でロシアに頼らねばならなくなったため、中東諸問題の解決の主導役をロシアにやってもらう代わりに、ウクライナ問題で米国がロシアに譲歩することにしたからだ、と解説されている。だからイラン核問題が解決された直後のタイミングで、米国がウクライナに自治付与の憲法改定をやらせたのだという。米欧は、中東の問題解決をロシアにお願いするため、ウクライナを見捨てたとも評されている。

 しかし、イランやシリアの問題解決との交換という筋書きは、よく考えるとおかしい。ロシアは、米国が何も譲歩しなくても、独自の国益に沿ってイランやシリアの問題解決を進めていたからだ。米国はロシアに譲歩する必要などなかった。

 米国がウクライナ問題でロシアに譲歩した理由の一つは、イラン核合意の締結にロシアの協力が必要で、イランと核協約を結ぶ前に、米露が交換条件について談合していたと報じられている。しかし、イラン核合意は少し前まで、米国よりロシアが推進を希望し、米国はむしろ推進を邪魔する方だった。ロシアは、米欧に制裁されたイランが最も頼りにしてきた国だ。米国がロシアに譲歩したのは、ロシアがイランをけしかけてISISを潰す戦いをやらせてほしいから、とも言われているが、ロシアは米国に頼まれなくても、ISISと戦うイランを支援してきた。

 米国は、ロシアがシリアのアサド政権と反政府派を交渉させ、シリア内戦を終わらせてほしい。その際、アサド大統領をやめさせてほしいので、米国はウクライナ問題で譲歩したという説もある。ロシアはずっとアサドを支援してきたが、最近、米国に頼まれ、プーチンらロシア高官がアサドを見放すような言動をしているとも報じられている。

 しかし、今のシリアには、アサド政権以外に、シリアの国家としての統合を維持できる勢力がない。アサドを辞めさせたら、シリアはリビアのように国家崩壊し恒久内戦化する。サウジやトルコは「(親イランである)アサドを辞めさせるなら、ロシアと一緒にシリア内戦終結に協力しても良い」と言っているので、ロシアはアサドを見放すかのようなそぶりを見せているが、実のところロシアはアサドを辞めさせるつもりなどない。

 米国はまた、ロシアがシリア内戦の終結を主導する際、サウジアラビアなどアラブ諸国とイランの間を取り持ってほしい、とも要請している。これまた米国に頼まれなくてもロシアがやろうとしてきたことだ。米国のロシア敵視は、今や「ふりだけ」だ。米国は、中東とウクライナの両方で、ロシアを有利にし、強化している。米国によって強化されたロシアやイランは、米国の単独覇権体制を崩し、多極型の覇権構造に転換する動きを強めている。

 今思うと、米国の隠然としたロシア強化策の始まりは今年5月、ケリー国務長官が2年ぶりにロシアを訪問してプーチンに会った時からだった。この時、ウクライナ問題で米国とロシアが直接交渉する連絡ルートが初めて作られた。ウクライナ危機の当初から、ロシアは危機の黒幕である米国と直接交渉することを切望したが、米国はずっと拒否してきた。

それが5月に大転換し、米露が直接ウクライナ危機について話し始めた。米国のヌーランド国務次官補と、ロシアのカラシン外務次官が双方の交渉担当となった。ウクライナ危機を起こした張本人であるヌーランドが、危機を収拾する担当者もやるという皮肉な事態の始まりだった。これ以来、中東とウクライナの両方の問題について、米露間の連絡が密になった。最近では6月25日と7月15日に、オバマとプーチンが長時間、電話で話をしている。

 7月のイラン協約後、米国が中東の諸問題でロシアに頼る傾向がさらに強まっているが、米露双方は「新世界秩序」とも言うべきこの新たな事態を、なるべく目立たないよう運営している。たとえば、米国がウクライナに圧力をかけて東部に自治を認める憲法改定をやらせたことは、ロシアにとって大喜びのはずだが、ロシア側は「東部の勢力と相談して自治を与えるのがミンスク2の合意だったが、ウクライナ政府は東部に相談せず憲法を改定しており、合意違反でけしからん」と怒る演技をしている。

 米国中枢で軍産複合体がクーデター的な戦略乗っ取りをやらない限り、ウクライナ危機は今後もう再燃せず、下火になるだろう(報道だけで、対立が激化しているかのような幻影が流布し続けるかもしれないが)。911やイラク侵攻あたりから続いてきた多極化のプロセスは、山場を迎えつつある感じだ。】


 なおこの急転直下には、次の諸事実も間違いなく絡んでいる。独仏一定の対米自主路線、AIIB等に示され露中欧の接近とBRICS発言権の増大、相対的なアメリカの力の低下、などである。もっと過去に遡れば、嘘の理由イラク開戦、それでユーロをも騙して大きな犠牲を払わせた事、リーマンショックの大被害、などなどもアメリカの力の低下に繋がっている事は確かだろう。
 いつまでたっても日本だけがアメリカの言うがままと見えるのは、僕だけだろうか。世界3位の経済大国で、これほどアメリカ株価などを支えているというのに。今度は安保法制、若者の命という犠牲まで押しつけらつつあるのだ。
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「従米か愛国か」、孫崎享書評(2) 文科系

2015年07月31日 09時59分43秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)
5 対米自主派の消滅

①歴代首相のこと

 孫崎享「戦後史の正体」は端的に言えば、歴代首相を従米と自主派に分けて見せる作業と言って良い。同「アメリカに潰された政治家たち」は、題名の通りに潰された自主派を描き、併せて「戦後最大の対米追随政権」として野田内閣を描くことで終わっている。こういう書の中から僕は、自分の最大関心事項「冷戦以降」90年代からの米世界戦略転換をここまで読み込んできたと言える。
 さて、このアメリカ半世紀ぶりのこれほど不自然な世界戦略転換は、日本政財官マスコミ界などとも軋みを起こして、当然これを引きずり回すことになっていく。首相で言えば以降は、たった4人の自主派(側面)が出たというのがその軋みに当たるのだろう。クリントンと1対1を含めて何時間も『対等以上の態度で交渉』と書かれた宮沢喜一。『「日米同盟」よりも「多角的安全保障」を重視』したがゆえに『つぶすための工作』を仕掛けられたと、細川護煕。この細川は、佐川急便の借入金返済疑惑で辞任したのだった。ついで、福田康夫への表現はちょっと長くて、複雑なものだ。こんなふうに。なお彼の辞任も急すぎて何か不可解なものだったことは、僕もよく覚えている。
『福田康夫首相時代、米国はアフガニスタン戦争への自衛隊ヘリコプターの派遣を強行に要求しました。さらにその後、破綻することが確実な金融機関への巨額な融資を求めました。福田首相は辞任することによって、この要求を拒否したようです』
 この金融機関とはリーマンショック後のファニーメイのことなのであって、認めていれば数兆円の金をどぶに捨てることになっていたはずだと、孫崎は書いている。
 そして最後の自主派が、言わずと知れた普天間の鳩山由紀夫だが、これ以外、特に小泉前後からはもう、「従米」のオンパレードとされている。小渕、森、小泉、安倍、麻生、菅、野田。

②官僚

 細川、福田、鳩山らの上記のように不思議な辞任には当然アメリカが関わっていよう。なんせ、90年代以降にCIAが扱う仕事の4割が国際経済問題なのであって、当時のその最大ターゲットが、以上に見てきたように日本だったのであるからだ。
 さて、政治家の次には、日本政治のシンクタンクと孫崎も呼ぶ官僚が狙われることになったということだ。強面の元駐日大使アマコストが90年代半ばにこう語っていると、孫崎は書く。
『「政治環境から見て、これまでより規制緩和がしやすくなったのに、現実の前進はまことに微々たるものである。その理由を求めるのはむずかしくない。最も巧妙かつ執拗な抵抗は、他ならぬ官僚機構によるものである。日本の経済と政治を牛耳ることを許している規制緩和制度を抜本的に変えようという動機は、官僚側にはほとんどない」』
 ここに1998年官僚制度の牙城大蔵省で有名な「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」が摘発され、官僚たたきの声がかってなく激しくなっていった。
『わずかに残っていたシンクタンクとしての官僚機構を崩壊させられた日本からは、国家戦略を考える組織が完全に消滅してしまったのです』

③マスコミ

 こういう官僚から日々レクチャーを受けているに等しいマスコミ政治記者などの自主派も、落日を迎えることになった。孫崎は自分自身の中央公論との関わりを一例に取って、これを説明するのだ。
『私は2003年、「中央公論」5月号に「『情報小国』脱出の道筋」と題した評論を書き、間接的な形でイラク戦争を批判しました』
『私は中公新書『日本外交 現場からの証言』で山本七平賞をいただいてから、中央公論社から毎年2~3本の論評を掲載しますといわれていたのです。しかし2003年5月の間接的な批判ですら受け入れられなかったのでしょう。このあと中央公論から論評の依頼はなくなりました』
 「アメリカに潰された政治家たち」に3人の座談会が収められていて、そのうちのひとり高橋洋一は、こう語っている。大蔵官僚出身で、内閣参事官(総理補佐官補)をやった人物だ。
『政治家の対米追従路線の中で、霞ヶ関ではアメリカのいうことを聞く官僚グループが出世していく。彼らは自分たちの立場、利権を守るために、アメリカは何もいっていないのに「アメリカの意向」を持ち出す。とくに財政や金融に限っていうと、そうしたケースが非常に多い。霞ヶ関では財務省のポチができるとそれが増殖する。メディアもポチになって、ポチ体制が確立すればその中から出世する確率が高くなる。そうするとさらにポチ集団が膨らんでいくという構図です』

 なんのことはない。従米派増殖は出世が動機なのだ。そして、在任期間が長かった首相、吉田茂、池田勇人、小泉などを見ると、アメリカの支持がその最大要件であったように、アメリカこそ今の日本の権力者たちを作っていると、孫崎は述べているのである。

(続く)
コメント (2)
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