孤 老 (ころう) S・Nさんの作品
「うちにモヤシがあるけど、色が変わってしまったんだわ。食べても大丈夫だろうか」
スーパーで野菜を選んでいると、突然、話かけられた。八十歳に近いだろうか、小柄で、どことなく五代目の故柳家小さんに似ている。以前からの知り合い、とでもいう口ぶり。
こういう場合、なんて言えばいいのだろう。大丈夫、と言って腹をこわされてもいけない。やめておいた方がいいですよ と言ったほうが無難かな。とっさに、あれこれと考えていた。
「俺は一人暮らしだから、何を買っても余っちゃって困るんだわ」
そうですか……。
早く買い物をして帰りたい私は少しずつ歩を進めるが、小さんも、あれこれと話しながらついてくる。そして、私だけじゃ物足りないのか、近くにいた主婦にも話しかけた。今だ。私は、その主婦が相づちを打っている間に雲隠れ。
スーパーで、お年寄りから話しかけられることが時々ある。駐輪場で、隣に停めた自転車の老女が、身の上話をしてきたこともある。楽しそうに話す顔は仏のようだが、名前も知らず、その場限りの他人に、なぜこういう話をするのだろう。
一人暮らしのお年寄りが多い今、スーパーなど人が集まる所で人と話すことで、世間とつながっていると感じたいのだろうか。齢を重ねてきた柔和な顔の裏に、孤独な日常がちらついている気がした。
「うちにモヤシがあるけど、色が変わってしまったんだわ。食べても大丈夫だろうか」
スーパーで野菜を選んでいると、突然、話かけられた。八十歳に近いだろうか、小柄で、どことなく五代目の故柳家小さんに似ている。以前からの知り合い、とでもいう口ぶり。
こういう場合、なんて言えばいいのだろう。大丈夫、と言って腹をこわされてもいけない。やめておいた方がいいですよ と言ったほうが無難かな。とっさに、あれこれと考えていた。
「俺は一人暮らしだから、何を買っても余っちゃって困るんだわ」
そうですか……。
早く買い物をして帰りたい私は少しずつ歩を進めるが、小さんも、あれこれと話しながらついてくる。そして、私だけじゃ物足りないのか、近くにいた主婦にも話しかけた。今だ。私は、その主婦が相づちを打っている間に雲隠れ。
スーパーで、お年寄りから話しかけられることが時々ある。駐輪場で、隣に停めた自転車の老女が、身の上話をしてきたこともある。楽しそうに話す顔は仏のようだが、名前も知らず、その場限りの他人に、なぜこういう話をするのだろう。
一人暮らしのお年寄りが多い今、スーパーなど人が集まる所で人と話すことで、世間とつながっていると感じたいのだろうか。齢を重ねてきた柔和な顔の裏に、孤独な日常がちらついている気がした。