夏休みの数日間と言う約束でうちに始めて遊びに来た小学一年生の甥っ子は、庭で寝そべっていたうちの大型モップ犬、本名もっぷを初めは犬どころか動物とは思わなかったらしい。おかげで昼寝から覚めたもっぷが立ち上がって伸びをすると、お化けが出たと言って大泣きされた。
僕が必死にもっぷが動物で、しかも大人しい犬だから怖くないと宥めると、ようやく泣きやんだ甥っ子は恐る恐るもっぷの毛並みに手を伸ばし、触っても安全だと判ると途端にわしゃわしゃと毛並みを掻き混ぜ始める。別に珍しいことではないので目を離さないまま好きにさせていると、今度はもっぷの背中にまたがろうとしたので、それはさすがに止めた。
河原で投げたフリスビーを見事にキャッチしてみせるもっぷの姿を披露すると、はしゃいだ甥っ子は自分もやると大暴投して川に落としてしまった。流れていくフリスビーを泣きそうな顔で見詰めている甥っ子の脇を、僕が止める間もなく稲妻のようにすり抜けて川に飛び込んたもっぷは、たちまちのうちに追いついたフリスビーを咥えて戻ってきた。喜ぶ甥っ子の姿に一安心しながら、それこそ水を浸した本物のモップのような情けない外観に成り果てたもっぷを完全に乾かし、元の姿に戻してやるまでに、どれだけの手間が掛かるかを考え始めていた。
夏休みの宿題と言うかドリルや絵日記の日課をこなすのは、うちに遊びに来るときの約束になっていたので、甥っ子は渋々ながらも漢字の書き取りや算数の計算を行い、絵日記にはもっぷと遊んだことを実に楽しそうに書き殴っていた。もっぷと思しき物体がどう見ても茶色いタワシにしか見えないのは、まあ、ご愛敬だろう。
やがて自分が宿題に追われている中で呑気に昼寝をしているもっぷの姿に何か感じる物があったのか、もっぷは勉強しなくていいから良いよなどと絡みはじめた。
もっぷは見かけより頭が良いぞと僕が答えると、それでも計算は出来ないだろ?などと生意気な口答えをしてきたので、僕はもっぷを見据えて言ってやった。
「もっぷ、三足す二は?」
『ひゃんひゃんひゃんひゃんひゃん』
いつものように、きちんと五回吠えたもっぷの頭を撫でてやった僕のドヤ顔に、甥っ子はむくれて食い下がる。
「そんなの、お兄ちゃん(僕はまだ大学生なので、こう呼んで貰っている)が教えたんだろ?」
それじゃお前が聞いてみろと促すと、甥っ子は少しだけ考えてから言った。
「もっぷ、じゅうろく、たす、はちは?」
小学一年生の甥っ子にとっては精一杯の難問を出したつもりだったのだろうが、もっぷはさほど時間を置かずに吠えてみせた。
『ひゃんひゃん、ひゃんひゃんひゃんひゃん』
「違うだろ!にじゅうよんだよ!」
やっぱり犬だよねと笑う甥っ子に、僕はその辺の紙に2、そしてすぐ隣に4を書いて示す。
「もっぷは最初は二回吠えて、次に四回吠えた。正解だ」
するとてっきり悔しがるとばかり思っていた甥っ子は目を輝かせ、すごい!さんすういぬだ!などと訳の判らないことを言い出した。別にうちのもっぷが出来るのは計算だけではないのだが、これ以上事態がややこしくなるのは避けたかったので曖昧に頷く。
そんなわけで甥っ子はうちにいる間、もっぷと一緒に、本来は苦手だったらしい算数を、とても楽しそうに勉強して帰っていった。代わりに絵日記の内容がファンタジーすれすれの謎日記と成り果てたが、コレは別に僕のせいでも、ついでにもっぷのせいでも無いと思う。
僕が必死にもっぷが動物で、しかも大人しい犬だから怖くないと宥めると、ようやく泣きやんだ甥っ子は恐る恐るもっぷの毛並みに手を伸ばし、触っても安全だと判ると途端にわしゃわしゃと毛並みを掻き混ぜ始める。別に珍しいことではないので目を離さないまま好きにさせていると、今度はもっぷの背中にまたがろうとしたので、それはさすがに止めた。
河原で投げたフリスビーを見事にキャッチしてみせるもっぷの姿を披露すると、はしゃいだ甥っ子は自分もやると大暴投して川に落としてしまった。流れていくフリスビーを泣きそうな顔で見詰めている甥っ子の脇を、僕が止める間もなく稲妻のようにすり抜けて川に飛び込んたもっぷは、たちまちのうちに追いついたフリスビーを咥えて戻ってきた。喜ぶ甥っ子の姿に一安心しながら、それこそ水を浸した本物のモップのような情けない外観に成り果てたもっぷを完全に乾かし、元の姿に戻してやるまでに、どれだけの手間が掛かるかを考え始めていた。
夏休みの宿題と言うかドリルや絵日記の日課をこなすのは、うちに遊びに来るときの約束になっていたので、甥っ子は渋々ながらも漢字の書き取りや算数の計算を行い、絵日記にはもっぷと遊んだことを実に楽しそうに書き殴っていた。もっぷと思しき物体がどう見ても茶色いタワシにしか見えないのは、まあ、ご愛敬だろう。
やがて自分が宿題に追われている中で呑気に昼寝をしているもっぷの姿に何か感じる物があったのか、もっぷは勉強しなくていいから良いよなどと絡みはじめた。
もっぷは見かけより頭が良いぞと僕が答えると、それでも計算は出来ないだろ?などと生意気な口答えをしてきたので、僕はもっぷを見据えて言ってやった。
「もっぷ、三足す二は?」
『ひゃんひゃんひゃんひゃんひゃん』
いつものように、きちんと五回吠えたもっぷの頭を撫でてやった僕のドヤ顔に、甥っ子はむくれて食い下がる。
「そんなの、お兄ちゃん(僕はまだ大学生なので、こう呼んで貰っている)が教えたんだろ?」
それじゃお前が聞いてみろと促すと、甥っ子は少しだけ考えてから言った。
「もっぷ、じゅうろく、たす、はちは?」
小学一年生の甥っ子にとっては精一杯の難問を出したつもりだったのだろうが、もっぷはさほど時間を置かずに吠えてみせた。
『ひゃんひゃん、ひゃんひゃんひゃんひゃん』
「違うだろ!にじゅうよんだよ!」
やっぱり犬だよねと笑う甥っ子に、僕はその辺の紙に2、そしてすぐ隣に4を書いて示す。
「もっぷは最初は二回吠えて、次に四回吠えた。正解だ」
するとてっきり悔しがるとばかり思っていた甥っ子は目を輝かせ、すごい!さんすういぬだ!などと訳の判らないことを言い出した。別にうちのもっぷが出来るのは計算だけではないのだが、これ以上事態がややこしくなるのは避けたかったので曖昧に頷く。
そんなわけで甥っ子はうちにいる間、もっぷと一緒に、本来は苦手だったらしい算数を、とても楽しそうに勉強して帰っていった。代わりに絵日記の内容がファンタジーすれすれの謎日記と成り果てたが、コレは別に僕のせいでも、ついでにもっぷのせいでも無いと思う。