黄金と白金を紡いだような輝きを放つ太陽が浮かぶ、どこまでも広がる澄み渡った蒼空。
僕はいつものように玄関の戸を開け、遥か眼下に広がる大地に向かって飛び降りた。
すると、いつものように背中の薄い蜻蛉羽が密かに、しかし飛翔には充分な程の振動をはじめて風に乗る。爽快さは確かに認めるが、それは地上人が二本の足で大地を駆けるのと殆ど替わらない感覚だと羽人の一人である僕は思う。
だから最近流行っているらしい、虫を使った地上人の飛翔は勘弁して欲しい。彼らは概して風の流れを読む能力に欠けているし、自らの羽を痛めて飛べなくなった代わりに虫を操るようになった羽人の誰よりも虫の扱いが下手だ。おかげで羽人同士なら滅多に発生しない飛翔中の衝突事故が激増して社会問題にまでなっていると聞く。確かに、虫を使った地上人の飛翔は僕も何度か見たことがあるが、大体は虫を扱い切れずに危なっかしい飛び方をしていた。あれでは事故が起きても仕方がないだろう。
そんなことを考えていると、ちょうど向こうからふらふらと飛んでくる人影。蝶型の綺麗な羽は明らかに自前ではなかったし、羽人の居住エリアを飛べるほど飛翔技術があるようには見えない。
何だか嫌な予感がしてその場を離れようとしたが、人影は僕を見付けるなり何事かを叫び、明らかに僕に向かって速度を上げて近付いてきた。あんなに急いだら静止可能速度を越えるだろうにと心配していると、案の定、愕然とした表情で止まることも出来ないまま、もの凄い勢いで突っ込んできた。
そして、僕は、とんでもない衝撃を腹部に受けて危うく朝食と不本意な再会を果たしそうになりながらも何とかそれを抑え、気絶してしまった相手の虫を宥めながらゆっくりと地上を目指すことになった。
気絶していた相手は地上に戻るとすぐ意識を取り戻し、状況を理解するなり僕に平謝りしてきた。
年の頃は僕より少し下、十六、七才だろうか。地上人特有のしっかりとした骨格を持つなかなか可愛い少女だ。ただ、地上人のエネルギッシュさに時折圧倒される僕が可愛いと感じるのだから、きっと地上人の感覚ではあまり健康的とは言えない子なのだろう。
「あんな程度の飛翔技術で、よく羽人の居住エリアまで飛んで来れたね」
感心よりは揶揄を含んだ僕の言葉に、彼女は俯いて答える。
「…… 虫を、操れなくて」
「だと思った。でも、それは君にとってだけでなく僕たちにとっても危険なことなんだ」
「ごめんなさい…… それでも、飛びたかったの」
「それなら、きちんと飛び方を覚えて欲しい」
何なら僕が教えてあげても良いけど。こう付け加えたのは冗談のつもりだったが、彼女は表情を輝かせた。
「是非お願いします!」
今さら前言を翻すわけにもいかぬまま言葉に詰まる僕に、彼女は更に言葉を付け加える。
「そしていずれ、私がどうして空を飛ぼうとしたのか、その理由を聞いてやって下さい!」
僕はいつものように玄関の戸を開け、遥か眼下に広がる大地に向かって飛び降りた。
すると、いつものように背中の薄い蜻蛉羽が密かに、しかし飛翔には充分な程の振動をはじめて風に乗る。爽快さは確かに認めるが、それは地上人が二本の足で大地を駆けるのと殆ど替わらない感覚だと羽人の一人である僕は思う。
だから最近流行っているらしい、虫を使った地上人の飛翔は勘弁して欲しい。彼らは概して風の流れを読む能力に欠けているし、自らの羽を痛めて飛べなくなった代わりに虫を操るようになった羽人の誰よりも虫の扱いが下手だ。おかげで羽人同士なら滅多に発生しない飛翔中の衝突事故が激増して社会問題にまでなっていると聞く。確かに、虫を使った地上人の飛翔は僕も何度か見たことがあるが、大体は虫を扱い切れずに危なっかしい飛び方をしていた。あれでは事故が起きても仕方がないだろう。
そんなことを考えていると、ちょうど向こうからふらふらと飛んでくる人影。蝶型の綺麗な羽は明らかに自前ではなかったし、羽人の居住エリアを飛べるほど飛翔技術があるようには見えない。
何だか嫌な予感がしてその場を離れようとしたが、人影は僕を見付けるなり何事かを叫び、明らかに僕に向かって速度を上げて近付いてきた。あんなに急いだら静止可能速度を越えるだろうにと心配していると、案の定、愕然とした表情で止まることも出来ないまま、もの凄い勢いで突っ込んできた。
そして、僕は、とんでもない衝撃を腹部に受けて危うく朝食と不本意な再会を果たしそうになりながらも何とかそれを抑え、気絶してしまった相手の虫を宥めながらゆっくりと地上を目指すことになった。
気絶していた相手は地上に戻るとすぐ意識を取り戻し、状況を理解するなり僕に平謝りしてきた。
年の頃は僕より少し下、十六、七才だろうか。地上人特有のしっかりとした骨格を持つなかなか可愛い少女だ。ただ、地上人のエネルギッシュさに時折圧倒される僕が可愛いと感じるのだから、きっと地上人の感覚ではあまり健康的とは言えない子なのだろう。
「あんな程度の飛翔技術で、よく羽人の居住エリアまで飛んで来れたね」
感心よりは揶揄を含んだ僕の言葉に、彼女は俯いて答える。
「…… 虫を、操れなくて」
「だと思った。でも、それは君にとってだけでなく僕たちにとっても危険なことなんだ」
「ごめんなさい…… それでも、飛びたかったの」
「それなら、きちんと飛び方を覚えて欲しい」
何なら僕が教えてあげても良いけど。こう付け加えたのは冗談のつもりだったが、彼女は表情を輝かせた。
「是非お願いします!」
今さら前言を翻すわけにもいかぬまま言葉に詰まる僕に、彼女は更に言葉を付け加える。
「そしていずれ、私がどうして空を飛ぼうとしたのか、その理由を聞いてやって下さい!」