カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

075「跳」より ・ 韋駄天

2014-09-20 21:44:11 | 和モノ好きさんに100のお題
 徒競走やマラソンなど、人目がある場所でで走る時は、動かす手足が物凄く重く感じられて全く速度が出せない。だからいつもビリに近いのだが、本当に時々、特に夜の道で、何かが「外れた」感覚と共に凄く早く走れるときがある。
 そんなときに人間とすれ違うと、僕に背後から不意に追い越された相手が驚いたように周囲を見回し、もう一度前を向いた時には視界から消えているのだ。
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074「祟(たた)る」より ・ 弱り目に祟りガミ

2014-09-19 20:08:25 | 和モノ好きさんに100のお題
 祟り神として就任してからの仕事。

 崇られた家系がきちんと七代続くように、祟っている途中で家系が不運やストレスで途絶えないようにと縁を整えたら上司に物淒く怒られた。
 流産で赤子を失った家庭の悲しみを更に深くしてやろうと、速攻で新しい赤子の誕生を縁付けたら始末書を書かされた。
 貴男だけを愛すると誓った相手に去られた女の思いを踏みにじる為に、更に良い男を近付けたら転職を勧められた。

 現在、本気で福の神へのジョブチェンジを考えている。
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073「子守り」より ・ 鬼児(おにご)

2014-09-18 18:02:50 | 和モノ好きさんに100のお題
 公園で友達と一緒に夢中になって鬼ごっこをして遊んでいたら、赤ん坊の妹をベンチに置き忘れた。家に帰った途端、妹がいないと母さんに酷く怒鳴られたので泣きながら再び公園に戻り、眠っていた妹を連れて帰った。
 その日から妹の様子がおかしい。私や母さんが妹を置いて家を出ようとすると決まって激しく泣き出し、そのまま泣き止まなくなったのだ。きっとあのとき、本当の妹は鬼が連れ去って、代わりに鬼の子を置いて行ったのだろう。だからコレは妹じゃない。

 私は家の玄関に飾ってあった重い置き物を両手で持ち上げ、思い切り叩き付けてやった。
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072「ここまでおいで」より ・ 狐面の少女

2014-09-17 21:58:03 | 和モノ好きさんに100のお題
「ここまでおいで」という声が聞こえたので見上げると、電柱の上に赤い着物姿で狐面を被った女の子が座っていた。

 無視して進むと今度は四階建てのビルから「ここまでおいで」、
 更に無視すると二階建ての民家から「ここまでおいで」、
 終いにはすぐ脇のブロック塀に座って「ここまでおいで」。

 家に戻って母に話すと、きっとお前に遊んで欲しかったのだろうと言われた。ごめんなさい色々な意味で無理です。
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071「親子」より ・ 黒と白

2014-09-16 18:21:46 | 和モノ好きさんに100のお題
 子育てを終えたばかりのクロの背中に真っ白な毛玉が乗っていたので抱き上げて観察してみたら、どう見ても犬でも猫でも、そもそも既存のどんな動物にも見えなかったので悩んでいたら、母が「それはスネコスリね」と自信満々で言い故った。取りあえずクロに懐いているようだしと、そのまま飼うことにした。
 それにしても動物図鑑に「スネコスリ」が載っていないのはどうしてだろう。などと、今日もクロの脚に纏い付きまくる、シロと名付けた毛玉を見ながら考える僕だった。
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070「夏の夜」より ・ 盆踊り

2014-09-15 18:46:13 | 和モノ好きさんに100のお題
 近所の空き地に櫓が組まれて灯りが点ると、あちこちから人が集まってくる。笛と太鼓の音が入り交じった音楽にあわせて輪になって踊る浴衣姿の影が奇妙に歪んだ輪郭をしていようと、例え影そのものがなかろうと、そんなことを気にしてはいけない。何しろ今夜は盆踊りなのだ、送り火に導かれ冥府に戻る前のご先祖様だって浮かれ楽しんで悪い筈がないだろう。
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069「飴(あめ)細工」より ・ 似て非なるモノ

2014-09-14 20:36:05 | 和モノ好きさんに100のお題
 イベントで行われていた飴細工のパフォーマンスで様々な色付きの飴が花や動物の形に形成される様を見ていた友人が、ああいう風に素材を練ったり巻いたり引っ張ったりすれば良いんだと感動していたので、思わず正気に返れと突っ込んでやった。
 ちなみに友人の趣味は、ガラスの棒を500度を越えるバーナーの炎を使って溶かしながら細工を行うトンボ玉作りだ。
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068「狐」より ・ 座敷弧

2014-09-13 18:21:22 | 和モノ好きさんに100のお題
 私が小さい頃から家の離れに暮らし、忙しかった両親の代わりに私の相手、主に勉強を見てくれた初老のおばさんが親戚ではなく狐だと知って吃驚した。何でも父が私くらいの年に訪ねてきて以来、ずっとそこにいるらしい。物静かで礼儀正しい態度が祖父に気に入られ、当時から離れは空いていたし無理に追い出そうとすると悪さをすると聞くし、まあ良いかと何となくそのまま一緒に暮らしてきたのだそうだ。
 御稲荷さんみたいに何か御利益があるのかな、などと不謹慎な事を呟いた私に、父は平然と、仙弧は陽の気が集まる場所で暮らしたがるから、おばさんがいなくなるときは多分うちが駄目になるときだろうと答えた。
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067「濡れ手で粟」より ・ 摂氏36度の福引き

2014-09-12 18:56:21 | 和モノ好きさんに100のお題
 暑かったから近所の商店街の床屋に行って散髪したら福引券を貰った。何でも高気温時に開催されるゲリラ福引だそうで、会場にはタオルやバンダナ、拭き取りシートなど冷感グッズの小物が並んでいた。
 二等のタオルが欲しいと思いつつ取りあえず籖を引いたら一等だったので、タオルは貰えないかと残念に思っていたら、一等当選内容は十円玉の掴み取りだった。適当に掴んで皿に乗せた十円玉を、副賞のガリガリ君を囓っている間に計数して貰ったら全部で七十枚あり、最終的に百円玉を七枚渡された。

 取りあえず、その七百円でタオルを買った。
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066「金魚」より ・ 金魚の恩返し(多分)

2014-09-11 19:38:15 | 和モノ好きさんに100のお題
 罠にかかっていた金魚を助けたら、是非とも恩返しをしたいと家に押し掛けて来た。とは言え金魚なので家事が出来る訳でも機を織れる訳でもなく、当然食糧にもならないので帰れと追い出そうとしたのだが、どうしても恩を返したいと言って聞かない。それでは何が出来るのかと問い詰めると生活の癒やしになれると答えが返ってきた。
 だからその日以来、我が家の金魚鉢には丸々と太った金魚が多分ドヤ顔で悠々と鰭を揺らしながら泳いでいる。これが奴にとっての恩返しになるのかは既に考えるのを止めた。
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