カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

065「老人」より ・ 絡繰りの集い

2014-09-10 18:04:18 | 和モノ好きさんに100のお題
 絡繰りアンティークを愛する集い、通称星屑倶楽部において数々の伝説を誇る名誉部長が九十八で大往生した晩。
 殆ど全ての会員が、自分が所有している絡繰りがひとりでに動き出し、一動作分を行うと再び止まるのを目撃した。

 きっと名誉部長が最期の挨拶に来たのだと納得する部員一同だったが、そうすると何故二人ほど絡繰りが動かなかったのかと疑問が残った。名誉部長は依怙贔屓をするような人ではないし、二人の部員も別に嫌われ者ではなかったのだ。

 結局、謎が解けたのは葬式後に初めて行われた会合で、現部長が、名誉部長から預かったと二人に手紙付きの部品を渡した時だった。手紙には、これで持っているそれぞれの絡繰りを修理しろとあり、これによって名誉部長の最後にして最大の伝説が星屑倶楽部の歴史に記されることになった。
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064「まいった!」より ・ 妖魔来襲

2014-09-09 17:48:39 | 和モノ好きさんに100のお題
 基本的に、妖の類は家の者が扉を開けない限り室内に入ることが出来ない。


「参った!」
「やかましい!」

「参った!」
「今何時だと思ってやがる、とっとと帰れ!」

「参った!」
「黙れ芸無し、それしか言えねえのか」

「参った!」
「どうせ町の集合住宅で同じ事やって塩撒かれたんだろう」

「参った!」
「だからって郊外一戸建ての妖怪宅に突撃かけるんじゃねえ!明日も会社なんだよ!」

「……参った」
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063「論語読みの論語知らず」より ・ 青葉茂れる

2014-09-08 17:43:22 | 和モノ好きさんに100のお題
 「今時の若いものは」というのが口癖の爺様が、その若ものたちに「変化の術は完璧でもセンスが古い」と陰口を叩かれているのに憤慨して、全身全霊を賭けて変化したという自称「いけめん」になって久々に街に繰り出して行った。阿呆らしいので放っておいたら夕方過ぎに帰って来るなり上機嫌で娘っ子にモテモテだったと自慢して、ぶち切れた婆様に全力でどつき回された。
 それにしても、学ラン学帽マント装備の書生スタイルで一体街のどの辺を歩いて来たのだろうか。
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062「死に物狂い」より ・ 猫だまし

2014-09-07 20:20:43 | 和モノ好きさんに100のお題
 家に戻ると見慣れない猫がちゃぶ台上の饅頭に向かって突撃をかけようとしている現場に出くわした。反射的に大きく柏手を打つとバランスを崩してちゃぶ台の縁に激突したあと、恨みがましい目つきを私に向けてから逃げ去っていった。
 いちおう甘党の猫も世間に存在にするらしいが、猫を名乗りたいなら付いている脚は四本だけにしておくべきだと思う。
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061「遊び人」より ・ 斜陽

2014-09-06 20:02:09 | 和モノ好きさんに100のお題
 江戸時代の武家には「部屋住み」と呼ばれる制度があった。要は予備の継子確保で、次男三男は長男に不幸がない限り屋敷の片隅で飼い殺しの運命が待っていた。仕官や婿養子のロがあれば幸運だが、大概は無駄飯食らいの厄介者として一生を終え、当然ながら結婚出来る甲斐性もない。冷静に考えると現在のニートより深刻な社会問題の筈だが、同時に財産の分散を防いで家名を存続させ、徳川幕府を支える為のシステムの一つでもあった。そして妻帯出来ずに一生を終える男たちの存在から、当時の遊郭もまた、徳川幕府を支えるシステムの一つであったと言える。
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060「ふたり」より ・ いつまでも友達

2014-09-05 19:35:56 | 和モノ好きさんに100のお題
 学校の修学旅行で一緒に回る事を約束していた仲の良い友達は、最初の見学先だった水族館で「ついてこないで」と言ったきり、私を置いて別の子と二人で歩いていった。
 だから取りあえず涙も出ないまま一人で行動していたら、次の日の動物園見学では、その友達が何故か一人で私の方に寄って来て何事もなかったかのように接してきた。世の中における人間関係は大概がこういう理不尽を含んだものだと私が悟ったのは、もう少し先の話になる。
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059「笛太鼓」より ・ 般若と鬼が、おかめとひょっとこが

2014-09-04 19:26:46 | 和モノ好きさんに100のお題
 出処の判らない祭囃孑に気を付けろと、俺より一つ年上の同級生は真剣な表情で忠告してきた。浮かれて不用意に近付いた間抜けは取り込まれて祭の囃子方の一員とされる。そして新しい間抜けが現れるまで、ずっと楽曲を奏で続けなければいけないのだと。
 何故知っているのかと訊くと、奴はそれで進級が一年遅れたのだそうた。

 ちなみに、新しい間抜けがその後どうなったのかについては、訊かないことにした。
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058「かざぐるま」より ・ 蝉送り

2014-09-03 19:16:45 | 和モノ好きさんに100のお題
 この地方の風車は夏に死んだ蝉の羽を使って作られる。
 からからに乾いた羽を壊さぬように胴体から外し、膠で竹ひごに止めて作った風車を河原で回すと、やがて風車は生きている時のようにじいじいと音を立てながら空に舞い上がり、そのまま二度と還って来ない。
 あとは残った胴体を川に流すと、その年の夏も終わりを告げるのだ。
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057「文(ふみ)」より ・ お姉ちゃんの折り紙

2014-09-02 17:49:45 | 和モノ好きさんに100のお題
いとこのお姉ちゃんから手紙が届いたので開封したら、何故か私とお姉ちゃんの名前が書かれたピンク色でハート型の可愛い折り紙が入っていた。
 訳が判らず電話をしてみると、そのまま開けば内側にメッセージが書いてあると言う。お姉ちゃんが学生の頃に流行った変形折りという形式の応用らしいが、私が一度開き、メッセージを読み終えた折り紙は二度とハートの形に戻せなかった。
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056「面」より ・ 縁日のお面

2014-09-01 20:02:49 | 和モノ好きさんに100のお題
 夜の縁日。小さかった私の手を引く母は夜店で売っているようなセルロイドのお面を被っていて、どんどん人混みから離れていく。
 買って貰った綿菓子の袋を抱えた私は必死で付いていき、やがて面を被った母は、祭の灯火を見下ろす崖上まで上り詰め、いきなり私を抱えて飛び降りた。
 奇跡的に助かった私は、死んだ女が母ではなく父の愛人だったと後で知った。
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