カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

第七十五夜・埋み火

2017-09-15 23:52:55 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『しづ心なく』と『消炭色』を使って創作してください。

 昔、少しだけお付き合いのあった彼は頭の回転が速く話題の豊富な楽しい人だったが、ときおり感情の波が激しくて口が荒い所を見せることがあった。そんな時、よく観察してみると彼は明らかに、自分が負の感情を向けても許してくれると判断した相手だけに乱暴な態度を取っていた。
 結局、私は気分次第で罵倒されるのに疲れ果てて彼から離れたが、たまにあの頃を楽しかった日々として思い起こす時がある。
 ただし、再び戻ろうとは欠片ほども思わない。
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第七十四夜・黄昏時の淡い狂気

2017-09-14 21:13:17 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『雲の通い路』と『桜色』を使って創作してください。

 天気が良い日の夕方は黄昏の空に浮かぶ雲が桜色に染まって幾ら見ていても飽きない程に奇麗だと私が言うと、彼女は躊躇いがちに目を伏せる。そんな態度が気になって何度もしつこく問い糺すと観念したように、確かに奇麗だけどアレをずっと見続けていたら狂わずに済む自信が無いとJ彼女が答えてきたので想像してみたら確かに頷ける意見だったが、今まで奇麗だと思っていた空が急に怖くなってきたので私はそれを彼女のせいだと責め立てた。
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第七十三夜・水の下にも居る輩

2017-09-13 23:47:30 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『紅葉踏み分け』と『水色』を使って創作してください。

 山歩きに不慣れな友人と紅葉狩りに行ったら、案の定何も考えないまま派手に散り重なった紅葉にダイブしようとしやがった。放っておいたら非常に面倒な事になりそうだったので渾身の力を込めて引き摺り戻してから石を落としたら、案の定水音を立てて紅葉の下に沈んでいったが、その石を掴んで水底に消えた手は一体なんだったのだろう?
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第七十二夜・彼の和風ジャム

2017-09-12 23:59:17 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『立ち別れ』と『小豆色』を使って創作してください。

 それじゃお餞別だよと彼が渡してくれた包みを開くと、中に入っていたのは手紙の添えられた瓶詰めだった。

 君の為に和風ジャムを作ってみたよ。鍋に付ききりで丁寧に煮たからきっと美味しいと思う

 そう書かれた手紙と一緒に入っていた瓶詰めは和風ジャムと言えば言える。ただし世間では餡子と呼ばれる物だ。
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第七十一夜・家神様と三毛猫

2017-09-11 20:38:49 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『神のまにまに』と『鼠色』を使って創作してください。

 うちは家神様が金蛇なのでネズミ系の動物は飼えないのだが、代わりに凄まじく肥えた三毛猫がいる。
 コイツは神をも畏れぬ恐ろしい猫で、何とお気に入りの昼寝場所が家神様を祀る神棚付近だったりするから始末に負えない。ちなみに家神様は神棚に乗られようと半身を突っ込んだ姿で惰眠を貪られようと一向に気にせず、何とかコイツの歓心を買おうと必死にアプローチを掛けては無視されているようだ。
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第七十夜・貴方のお粥と私のお粥

2017-09-08 19:04:08 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『君が為』と『鳥の子色』を使って創作してください。

 風邪を引いたので見舞いに来てくれと頼まれたので彼の部屋に行ってみたら、食事も出来ないままへばっていたので取りあえず卵を入れた普通のお粥を作ったら、梅干しが入っていないとか出汁の味が利いていないとか訳の判らない事を言うので鍋ごと持って帰ってきた。彼は一体どんなものを食べたかったのだろうか。
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第六十九夜・かつての草原

2017-09-07 21:21:36 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『雲の通い路』と『草色』を使って創作してください。

 その公園には丈の低い雑草に覆われた小さな丘があって、寝転がると草の香りの中で遥か上にある青い空を流れていく白い雲が見えると友達に誘われた。でも、僕は草の汁や湿った土で服が汚れるのも虫に刺されるのも嫌だったので石造りのベンチにハンカチを敷いて座るだけだった。
 あれからずいぶん時が流れ、今では丘に寝転ぶ子もいない。
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第六十八夜・家神様のお姿

2017-09-06 19:15:50 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『神のまにまに』と『蜥蜴色』を使って創作してください。

 うちの家神様は普段、細面で顔色の悪いお公家さんのように見えるが実際は人間ではないと言う。お酒が好きなので何となく蛇ではないかと思っていたが、実は蛇は蛇でも金蛇なのだそうだ。だから衣装が黄色の混じった褐色の縞模様なのかと納得しつつ、蛇なら良かったと涙ぐむ家神様の杯を酒で満たして差し上げる。
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第六十七夜・神無月の酒宴

2017-09-05 19:51:16 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『神のまにまに』と『山吹色』を使って創作してください。

 婆ちゃんが供えていた蜜柑色の酒が瓶ごと消え、しばらく後に空瓶となって戻ってきた。そう言えは神無月だったなと納得しながら、自分はしがない家神だが婆ちゃん始め家の人間が大事に祀ってくれているので末席でも扱いは良いと自慢げに語ってくれたのを思いだした。

 ちなみに、大陸の神様は序列に関する認識がかなりシビアらしい。
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第六十六夜・レンゲ草を追って

2017-09-04 23:09:08 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『花ぞ昔の』と『緋色』を使って創作してください。

 山中の田舎に住む祖父母の家には休耕田が幾つかあり、春になるとレンゲの花が散らばるように咲いていた。
私は昔からこの紫がかった紅色の花を大好きで、毎年あるだけの花を摘もうと目に付いたレンゲを追いかけて坂道の棚田を昇ったり降りたりしていた。その時一緒に花を摘んでいた、もはや名前どころか顔も全く思い出せない子どもがいるのだが、当時、祖父母の家の周辺に子どもがいる家は一軒もなかったと後で知った。
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