本物の蝶の羽を使った青いブローチをお祖母ちゃんに見せたら若い頃の話をしてくれた。お祖父ちゃんの弟は先の大戦で南方から帰ってこなかったのだが、ある日家で大きな青い蝶を見つけたお祖母ちゃんが珍しいからと家族の皆を呼んだ時にはいなくなっていて、そこに戦死広報が届いたという。
本物の蝶の羽を使った青いブローチをお祖母ちゃんに見せたら若い頃の話をしてくれた。お祖父ちゃんの弟は先の大戦で南方から帰ってこなかったのだが、ある日家で大きな青い蝶を見つけたお祖母ちゃんが珍しいからと家族の皆を呼んだ時にはいなくなっていて、そこに戦死広報が届いたという。
ギリシャかローマの時代に薔薇刑と言う処刑方法があって、罪人の入れられた屋根と窓のない部屋には誇張抜きで部屋を埋め尽くす程の薔薇の花弁が投げ入れられる。そして罪人は薔薇の香気の中で窒息死する訳だが、考えてみると、あまりの香気に人間の嗅覚を数秒で麻痺させる菫の香りも同じくらい怖い。
暗い場所で古い本を何時間も眺めるせいか、神父様には眼鏡を掛けられている方が多い。僕の知っている神父様も大柄ながら柔らかな雰囲気を持つ眼鏡を掛けた方だった。ただ、そのレンズの向こう側にある緑色の瞳がごくたまにだが、とても冷たく輝いているように見えたのは気のせいだろうか。
ドラゴンブレスの結晶は、掌に乗る程度のサイズでもスチームエンジンに搭載すると数千馬力のパワーを発揮する。延々と続く荒野を走る蒸気機関車には欠かせない動力源だが、運転技師に言わせると視力と引き換えでも一度でいいからエンジン内で完全稼働中の結晶を拝みたいそうだ。
眼鏡とは、眼の悪い瞳に映る緩やかな世界を見えなくするものだという訳の分からない理由で随分と長い間眼鏡を断固拒否していた奴は、他人との度重なる接触及び追突事故の落とし前として眼鏡を新調した。事故は激減したのだが、今度は女性に対して妙な視線を向けるようになった。
たかあきは『孔雀石』と『空猫の髭』を材料に『可愛い万年美容剤』を錬成しました。用途は観賞用です。
女は常に美しくあろうとする努力を忘れてはいけないと断言した妹弟子は、だから以前売って貰った美容液をまた下さいと師匠に頼んで即座に自分で作れと断られた。一度失敗して懲りた、肌に付けるものを造るのは難しいとごねる妹弟子にこの一か月で作らせた精錬水とハーブを渡して完成しさせた美容液は上出来で、妹弟子も全ての実験に使用される精錬水の純度や質の高さが実験結果に直結すると知ったようだ。
女は常に美しくあろうとする努力を忘れてはいけないと断言した妹弟子は、だから以前売って貰った美容液をまた下さいと師匠に頼んで即座に自分で作れと断られた。一度失敗して懲りた、肌に付けるものを造るのは難しいとごねる妹弟子にこの一か月で作らせた精錬水とハーブを渡して完成しさせた美容液は上出来で、妹弟子も全ての実験に使用される精錬水の純度や質の高さが実験結果に直結すると知ったようだ。
子供の頃、グラスの中に浮かび上がる花の絵に触りたかった。この絵は表面に描かれているだけだから触れないよと何度諭されてもグラスに指を伸ばす私に、高価なグラスの安否を気遣った両親が鍵付きの棚に片付け、やがてグラスは私の花嫁道具になり、今は隙あらば娘が触ろうとする。
ずっと昔に花を使って意思疎通を図る人々がいて、彼らはある日、花の姿を紙や布や粘土に写すことを覚えた。枯れない花に託される思いを永遠のものとした彼らは盛んに様々な花の姿を映しては愛を語った。だから彼らの作品は枯れることのない愛に満ち溢れているように見えるという。
彼は常に、小振りのポットに入るだけのお茶を入れながら一杯分だけを飲んでいた。初めから一杯分だけにすればいいと言われても俺だけが飲む訳じゃないと答えるだけだった。ただ、誰も飲まない筈の二杯目をカップに注いで見詰める彼の瞳にはどうやら他人に見えないものが映っているらしい。
喇叭吹きか太鼓叩きか、とにかく自身では一人も殺さなかったが戦場で兵士を鼓舞して殺し合いを促した罪で死刑を言い渡された男の話を読んだ時に思ったのは、インクを浸した筆先を操って書いた文章で若者を死地に追いやった自分にも地獄が待っているという予感だった。せめて意思なき相棒の無事を祈りたい。