カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

作品その78・いいクスリ

2018-11-15 21:42:57 | 見習い錬金術師の作品
たかあきは『碧玉』と『左人差し指から流れ出た血』を材料に『太古の鉱石酒』を錬成しました。用途は薬用です。

 度重なる妹弟子のつまみ食いに辟易していると、師匠が一度痛い目に遭った方がいいと言うので食堂に特別錬成した酒を置いておくことにした。案の定勝手に飲んだ妹弟子は自身が岩の中の鉱石と化す夢に随分とうなされたらしく、それからは迂闊なつまみ食いはなくなった。ついでに何故か根切り屋のつまみ食いもなくなった。
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骨董品に関する物語・黒い祈祷書・その2

2018-11-15 18:44:26 | 突発お題

 夜明けと共に目覚め神に祈り、地を耕して糧を得る。ミサを行い懺悔を受け、人々を導く。神について学び、その愛を讃えて眠りにつく。そんな聖職者たちの生活と共に在った祈祷書の暮らしていた場所はもうないが、神を讃えた人ならぬ身の彼もまた、いずれは神の元に赴くのだろうか。
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作品その77・良薬は口に苦し

2018-11-14 21:31:56 | 見習い錬金術師の作品
たかあきは『蛍石』と『月光』を材料に『災禍の苦味飴玉』を錬成しました。用途は滋養強壮です。

 妹弟子は僕が製菓に関して苦手だと思っているが、それはあくまで師匠と比べた場合であり、料理と製菓はむしろ得意分野だ。なのに何故誤解しているのだろうと思ったら、根切り屋避けに作って瓶に詰めておいたた苦味飴を勝手につまみ食いした結果らしい。逆切れした妹弟子には健康と美容には効果的だと言い返しておいた。
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骨董品に関する物語・ボンボニエール・その6

2018-11-14 19:16:06 | 突発お題

 硝子職人だった曾祖父ちゃんは若い頃に修行と称して世界を回り、東洋の小国で運命と出会った。堀に囲まれた小さな黒いお城の庭園に植えられた桜樹の花弁が風の音と共に枝を離れる瞬間、そして散った花弁が堀に花の筏を広げているのを目にした曾祖父ちゃんは桜に憑かれたのだ。桜花を元に作り上げた菓子器が評判になって以来、曾祖父ちゃんには桜色の品物に関する注文が絶え間なく舞い込むようになった。
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骨董品に関する物語・アイルランドのベリーク窯茶器

2018-11-13 19:15:48 | 突発お題

 蚤の市で古い茶器を手に入れたので早速お茶の時間に使おうとしたら、茶葉が安物だのグラニュー糖を入れろだの植物性油脂とは舐めているのかだのと罵倒されたので一瞬叩き割ってやろうかと思ったが、同席していた物好きな友人が茶器たちのルーツを知りたいと言うので譲ってやった。
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海月

2018-11-12 23:16:49 | 突発お題
 
 何かを掴む手も、立って歩く足も、詳しくものを考える頭も、もう何もいらなかった。
 その代わりに私が手に入れたのは絶え間なく蠕動する透明な躰と総てを運び去る潮の流れ。

 かつて私だったもののすべてを置きざりにして、何処かにあるはずの何処でもない場所に、沢山の蠕動する透明な躰と共に行こう。
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作品その76・朝のサラダ

2018-11-12 19:29:37 | 見習い錬金術師の作品
たかあきは『偽賢者の石』と『日光』を材料に『天空のグリフォン』を錬成しました。用途は食用です。

 家庭菜園で育てた野菜を収穫して作ったグリフォンサラダ(命名は師匠)を食卓に出したら、妹弟子が何コレとドン引きした。鱗を思わせる三角の葉っぱが重なり合って形作る翼を持つ獣は確かに初見では食べ物に見えないかもしれないが、食べないなら帰れと師匠が宣言すると素直に食べて美味しいと喜んだ。
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骨董品に関する物語・フレーム

2018-11-12 18:38:00 | 突発お題

 枠で囲まれた空間は常に異界に繋がる扉と成り得る、どうせ扉なら豪奢であるのに越したことはないと奴はよく言っていた。やがて奴は誰にも何も言わずに姿を消したが、部屋に残されていた見慣れない豪奢な細工のフレームに入った奴の肖像画は、今も「こちら側」を眺めながら笑っている。
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骨董品に関する物語・メシャムのパイプ

2018-11-11 21:53:22 | 突発お題

 飴色をした石のパイプを持つ伯父のコートからはいつも不思議な香りが漂っていて、小さい頃の僕はそれが特別に調合させた刻み煙草の香りだと判らなかった。結局、喘息持ちだった僕に喫煙習慣は付かなかったが、長患いの末に伯父が亡くなった時、僕の手元に形見として残されたのは飴色のパイプだった。
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骨董品に関する物語・E.BOURGEOISのプレート

2018-11-11 17:34:18 | 突発お題

 大好きだった綺麗な花模様の入った大皿は祝い事や記念日以外の食卓に並ぶことがなかったので、どうしてもっと毎日使わないのかと尋ねると、母は笑って綺麗なご馳走以外を乗せると皿が怒るのと答えた。その真偽はともかく、確かにその大皿に関する思い出はご馳走と笑顔に彩られている。
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