少女の持つ祈祷書は塗装が剥げ表紙が取れかかっていたので、少女の父親は誕生日に立派な祈祷書を贈った。少女は喜んでみせたが相変わらず祈祷書は古いままで父親にその理由を尋ねられると、だって勿体ないし、普段使いってそういうものでしょうと言われて頭を抱えることになった。
少女の持つ祈祷書は塗装が剥げ表紙が取れかかっていたので、少女の父親は誕生日に立派な祈祷書を贈った。少女は喜んでみせたが相変わらず祈祷書は古いままで父親にその理由を尋ねられると、だって勿体ないし、普段使いってそういうものでしょうと言われて頭を抱えることになった。
残暑の残る真夜中過ぎに眠ってた私が胸部を圧迫されるような重みと籠った熱に耐えかねて目を覚ますと、タオルケットの上に巨大な三毛猫が一匹のしかかるような恰好で寛いでいた。何だ猫かと一瞬安心したが、夏の間冷房を入れっ放しの部屋は完全に締め切ってあり、そもそも私は猫を飼っていない。
資産家の家に生まれた従兄が異常なほど骨董蒐集に拘る様になったのは家族五人を事故で亡くしてからだ。従兄の骨董趣味に対して口さがない親戚もいるが、葬式が終わった家で砕け散った六客のカップを前にハンプティダンプティの詩を繰り返し呟いていた奴の姿は俺だけが知っている。
「トランプの正式名称は『プレイングカード』で、トランプは『切り札』の意味なんだそうだ」
「ジョーカーも『道化』だしな。要は場を引っ掻き回すトリックスターの事なんだろうが」
「そんなトランプの模様が配された蓋に取っ手が付いたポットに、お前なら何を入れる?」
「印鑑」
ペンダント仕立てになった泪を思わせる水滴型の容器には硝子製の香水瓶が入っていて、持ち主の友人は人間が絞り出した涙の雫に動植物から絞り出したエッセンスを詰めているのだと自慢していた。実際の所、絵面を考えると結構衝撃的な画像になると思うのだが口に出したことは無い。